毒にも薬にもなりたくないっ

新堂茶美

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ある少女の願いと結末7.

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建国祭のため、1年程、母国に帰ることになった。
ミケラウスは15歳、最近は叱責されてもヘラりと笑う顔に嫌気が差していた。

たくさんの課題を持たせた教師を伴い、1年間のスケジュールの確認をするためにミケラウスの部屋を訪れる。


「……そんなくだらない魔術が何になるというの」

幼い頃に贈った百合の花に保存魔術をかけるミケラウスの後ろ姿に思わず吐き捨てた。簡易魔術を上質で完璧なものに仕上げ、私には到底出来ないんだと見せつけられているような感覚がした。



「民のために魔力を使いなさい」

そしてそのまま国を出た。帰国すると、家族が、ペルシュが嫌なこと全てを忘れさせてくれた。
民に笑顔を向ける家族、発明した魔力の使わない生活用品を紹介するペルシュ、とても輝いていた。


22歳となったペルシュは、窶れていた時期もあったが、相変わらずその頬を染め、線は細くも色気を感じさせる健康的な男性へと成長していた。

「ふふっ、先程出店の前で可愛らしい御令嬢方が「ぺるさまぁー」って嘆いていらしたわよ」

「やめてください、リア様もいつまでも変わらないお美しさで……通る殿方、皆が振り返っていましたよ」

「あら、こーんなに小さいペルシュを抱いた時に既に私は思っていたのよ。将来ペルシュは女の子に囲まれて私の方が心配しちゃうわ、って」

「そんなこと覚えていませんよっ!……少しお時間ありますか?」

「えぇ、この後は大丈夫よ……あ、ちょっといいかしら。少しペルシュと出掛けてくるわ。遅くなるようなら連絡するわ」

研究所から少し逸れた森の中に連れられ、小さな倉庫がある前でペルシュは立ち止まった。


倉庫の前は、開けていて小さな広場となっている。

「見ていてください」

ペルシュが目を瞑り、両手を掬うような形で前に出すとキラキラと淡い光がペルシュを覆った。

両手の中には、その両手から少しはみ出すくらいの丸い水玉がぷかぷかと浮いている。

「えっ!! 水魔術……」

「はい……やっと……少ないですが、私にも魔力が宿りましたっ」

「すごいわっ!! どうやって? 私でもこんなに大きな水の塊は作れないわっ!!」

「ふふっ、悪いことをする人から取り上げたのです」

「え?」

「これを」

手渡された書類には複数の手配書があり、女性や子供が被害となった惨たらしい事件の内容が記されていた。

「……ひどい……ひどいわ……」

「どれもが魔術を使い弱い者を痛めつけた事件です。被害にあった者全員が亡くなっています。」

「そんな……」

ペルシュはその犯人を秘密裏に捕まえ、禁忌の実験を行っていた。

「本当は双方の合意が必要なのですが、服従の契約を交わすことで相手の魔力をほんの少し貰い受けることができたのです。」


最初は訳が分からなかったが、こんな悪人に魔力があるよりも良い事に使えるペルシュが持っていた方が素晴らしいのだと思えてきた。

「もう少ししたら、領地へ戻ります。 しっかり民のために働こうと思います」

「そう……私には何ができるかしら。」

「傍に……いえ、それは叶わないと分かっております。ただ、笑っていてくれれば。我儘を言うならたまに、こうやって一緒にいられる時間を頂けたら嬉しいですね」

「ふふっ、お上手ね。人妻に何を言っているのかしら。その……契約って代償などはないの?」

「お互いの同意があれば、魔力量も調整できそうですが……」

「私にもできるかしら」

「えっ」

私の魔力が多ければ……

私の魔力をペルシュに与えられれば……

私は隣国の王妃だ。報酬も罪人も用意するのは簡単だ。





ボロボロに痩せこけた奴隷は、もう既に見慣れた。獣人族の者が契約することでその者の誇りとなる耳や尻尾が無くなり絶望する様を見て、必死に獣人の手配書の罪状を心で反復した。


「火球は簡単に出せるし、スピードも操れるわ。桃の木の剪定がし易いわね。」

「はいっ、リア様が生き生きとしていて私も嬉しいです」

「大袈裟だわ……でも魔力を操ることが出来る日が来るなんて、嬉しいわ」

「そうですね。隣国へ戻っても不自由しなくなりますよ」

「……いいえ。ペルシュ、この魔力はあなたのものよ。そして、私との契約を最後にもうこんなことは辞めましょう?優しい貴方だもの。きっと辛かったはずだわ。私ももう人を罰するようなこと、したくはないわ」

「リア様……いいえ。契約はしません。」

「だめよっ!!」

「いいえ。もう誰とも契約はしません」

「ペルシュ……ありがとう」


次は桃の木畑で会いましょう、とペルシュと約束を交わし、隣国へと戻った。

幸せだった気持ちはビルガメシアに着いて、すぐに消えた。
ミケラウスの教師が辞職し、ミケラウスも引きこもっている、と報告を受けた。

あの子はどうして、こんなにも怠惰なのか……宝の持ち腐れだ……

顔を見るのも億劫になり、手紙に簡単に今後の予定を書き記していると、乳母のリエンナがやってきた。

「ミケ坊っちゃまは大層、女性を怖がられてらっしゃいます。私もこの1年坊っちゃまのお顔すら拝めておりません。どうか……どうか坊っちゃまのこと、少しばかりでも慮って頂けないでしょうか」


「……」
誰かにも聞いた事がある。私が冷たいと、厳しいと言っているのかしら。あの子は私には無いもの、全てを持っているというのに。甘えてばかりではその力の使い方を間違えてしまうわ。

「そう……パーティの日に話を聞いてみるわ。もういいわ、下がって」

「で、ですがっ」「下がりなさいっ!」

モヤモヤとした気持ちを抱えたままパーティ当日を迎えた。最近は民に少し冷たい政策に意見するだけで喧嘩になる夫に朝から全てを却下され、パーティ前に息子の衣装を手渡し話すつもりだったが、新入りのメイドへ押し付け、庭園の見直しに伺った。


昼になり着々と集まり、敬いの言葉をかけてくれる客人を余所に、遅い息子に腹が立った。

庭園の使用人出入口が騒がしくなり、そちらに顔を向けるとミケラウスがいた。

どうしてそんなにだらしのない髪……
あぁ、どうしてそんなに美しいのだろう。こんな感情は知らない。胸がジクジクと何か熱いものが溢れ出しそうで……あぁ触れたい、もっと近くへ、私の元へ。

声も美しい。そんな萎れた花など、貴方には似合わないわ。そうよ、凛と立った貴方はヤマユリのように存在感のある子だもの。泣かないで。

ああぁ、私のモノよ。このまま、貴方と同化してしまいたいわ。


「母上……私はただ百合のように在りたかった……」


その後は、目の前が白くなったかと思うと辺り一面真っ赤に映った。フィルターのように全面が赤く、頬に湿った感触がした。

入口のそこかしこに咲くカサブランカの甘い香りが漂う離宮に運ばれたケイリアは顔の上半分を包帯で覆われ毎日涙を流した。

「あんな思いを抱いていたわけじゃないのに……どうして……また……どこかで間違えてしまったの?」

「ねぇ……母様……姉様、兄様……父様、ペルシュ……うぅ」

「百合……あの子は…………ごめんね……私は間違え……しまったのね、ミケラウスごめ……ね」

「ペルシュ、約束守れなくてごめんね」

屋敷の端にペルシュの領地にいる彫刻家が天井一面を故郷のように誂えてくれた礼拝堂で遮光魔術の魔法石を埋め込んだ……姉様にその手であげられなかった、皆が大好きだった、私が大好きだったペルシュのようなキラキラ光る桃の実にケイリアの手は届かず床へと落ちた。


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