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しおりを挟む式典が終わり、国賓や高位な貴族を招いたパーティが行われていた。
たくさんの人に囲まれたミケラウスに挨拶はできていなかったが遠目から見ても変わったところはなかった。
むしろ、スイレンも見たことのない王子様然とした笑顔で対応しているミケラウスを不思議な気持ちで見ていた。
ふと、手首を掴まれる。
パーティ内のケータリングを物色していたはずのコハクが隅で佇んでいる男性をじっと見つめている。
あの気味の悪い綺麗な男性だ。
「どうしたの?」
「すぅ、もうかえろ」
「ご馳走はもういいの?」
「すぅ、わかってるんでしょ?」
「あ、えっ、何言ってるの……」
「あいつ、母さんに愛がもらいたくて、じぶんでわからないまま、みりょうはつどうしたんだよ」
「うん……でもそれは……子供であんなこと、耐えられないよ……」
「すぅはわかってない。あいつはまちがえた。すぅがたいへんなことになるのはいやっ……ねぇ、かえろ?」
「コハク……分かった! だけど! ちゃんと挨拶はして帰ろうねっ」
「……わかった」
様子のおかしいコハクと手を繋ぎ、ミケラウスを視界に入れながらニールを探した。
ニールはすぐに見つかった。どうやら自分の父と話し込んでいるようだ。ふとニールの父と目が合う。
何かをニールに話し、ニールが振り向くと手招きをされた。
「初めまして。スイレンと言います。こちらは、あ、こらっ、あはは、コハクです」
ビクビクしながら挨拶をする。コハクはニールに飴玉をせがんでいる。ニールの父は片方しかなくとも鋭い目線でこちらを見下ろしている。
「ご丁寧にありがとう。ニールの父だ。ああ……この顔じゃ怖がらせてしまうな。陛下から話は聞いているよ。ミケラウス殿下、それに息子のことは感謝している」
「い、いえっ。えっ? 陛下がっ? ニールさんには私の方がお世話になってばかりでした。というか、振り回してばかりでして……すみません」
あれ? 陛下とは今日初めて会ったよね? 私そんなに目立ってた? あ……いやエルフのおじさんの知り合いって言ってたっけ……
「……いや、本当に感謝してるんだ。今まで張り詰めた糸のような、何かの拍子に壊れてしまいそうだった息子が君たちの話をする時、笑うようになった。陛下も同じようなことを言っていたよ。本当にありがとう」
「そんなっ……でも嬉しいですっ! 最後に役に立てたんだなって実感できて……ふふっ」
「最後?」
「はいっ、王子様に挨拶したら帰ろうと……あれっ」
ミケラウスがいた場所へと目を向けるとそこには既に姿はなかった。
コハクが服を引っ張り、私を見て必死に首を振る。
その後ろに、ミケラウスが外へと出ていくのが見えた。何故かあの気味の悪い綺麗な男性を連れて。
「えーっと……コハクごめんっ。あのっ、王子様に挨拶してきますね!」
コハクが嫌がっていたとしても黙ってミケラウスと別れることは出来なかった。
ミケラウスはこれまで何度も辛い別れを経験した。呪い、すれ違い、そして望んでも手に入らなかった唯一の愛。
私まで同じ思いをさせたくはなかった。
もう、そんな顔は見たくはなかった。
ニールにコハクを預け、ミケラウスが出た扉へと向かう。
ニールが、殿下は来るなと言っていました。通信の魔法石があるんだから大人しく待っていなさい。怒られてしまいますよ。とかなんとか言っていたが
「泣かれるより……怒っている顔の方がずっといいですよねっ」
と言い、背中を向けた。
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