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第ニ章 冴ゆ季節、心に積もる
十四
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〇*〇*〇
木漏れ日の中で紡いでいた。
~ホィスモッ゙ ビェナ~ォイ゙メシ゚~ ~
黄金色の風が吹き抜ける。
ふと現れた人影――。
(アルシャ…)
光の中で佇んでいる。さらさらと髪をなびかせて。その顔は、強い光でよく見えない。彼を包む光は眩しく、光に溶けこんでしまいそうだ。
「アルシャ!」
思わず叫ぶ。
ようやくこちらを向いた顔はどこか寂しげな笑みを浮かべていた。手を伸ばす。アルシャは目蓋を閉じて身を翻した。
そうして光の中へ消えていった。
「ハッ、っ」
ガバリと上体を起こしたら、危うく糸目と顔面衝突するところだった。スレスレのところで仰け反る。
「おはよう。夢見がわるかったのかい」
ラルジュはまったく動じず、首を傾げた。
「おはようございます。起こす前に起きたのは初めてですね。饅頭でも降るんでしょうか」
レルヒが目をぱちくりする。
(まんじゅう…?)
いや、それよりも。
「……なんか、イヤなゆめ見た気がする」
おれは動悸がする胸を抑え、額を拭った。木枯らしがガタガタと窓を揺らす。ゆめの内容は覚えていないが、思い出そうとすると切ないような、悲しいような気分になった。
――ラルジュとレルヒは顔を見合わせる。二人はちょうどカイトから、アルシャが審判者に選ばれた件を聞いたばかりだった。審判者――精靈と共にあるこの世界の存続を決める人間の代表者。存続を選ぶなら命はない。それは、「命を捧げてもいいと思うほど、この世界が愛しい」と示すことだからだ。ラルジュとレルヒは今のところ、リュエルには内緒にすると決めている。
「さぁリュエル、君のやるべきことは?」
ラルジュはなに食わぬ顔でベッドに腰掛け、最近ではお決まりとなっている言葉を紡いだ。
深く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
「おれはカムナギになる」
これを言わないと、糸目が一日を始めさせてくれないのだ。
「うん、今日も一日がんばろう」
おれの髪をぽふぽふ撫でて、ラルジュは笑みを深めた。
「リュエル、いつまで寝ぼけてるんですか。ズボンのボタン、かけ間違えてますよ」
「ああ…」
ゆめの余韻が抜けきらない。ぼうっとしているおれにチラと目をやって、レルヒは縦に二つ並んだズボンのボタンを留め直し、髪を指で梳き、身なりを整えてくれた。
「この前髪、邪魔でしょう。ビシッと七三にしてヘアピンで留めましょうかね」
「むしろ俺が斬ってやろうか」
ラルジュが腰の剣に手を添えたところで、おれは我に返った。
「っどっちもいらねえ!」
危ない。この二人の前で隙を見せたら、気づいた時にはどうなっているかわからない。どことなくつまらなさそうな顔をしたレルヒと「遠慮しなくていいのに」と言いたげなわざとらしい糸目を睨み付け、おれは鞄を掴んだのだった。
「おはよう、リュエル」
「はよ」
教室に着き、癒しのメルの檸檬色の髪を撫でる。さらさらというよりふわふわな髪だ。
(ゆめ、アルシャが出てきたような気がする…)
ふわふわ ふわふわ
(なんでこんな気分になるんだろ)
ふわふわ ふわふわ
「リュ、リュエル、何かあったの?」
「ああ…」
「ぼくでよかったら、話、聞くよ」
「ああ…」
メルが頬を染めて心配そうに見上げていたことに、おれはまったく気づかなかった。
そんなこんなで、声学の時間。
「ページを捲って。今日から新たな聖紋に取りかかります。まずは皆さんで読んでみましょう」
「ォスゼィプディヨゲタゥジュシンジュシンゼェプ゙ホィスゾァフヲ―――」
ここまではおれも真面目にやっている。
「よろしい。では、紡いでみます」
結局、耳栓は渡されなかったが、まともに聞いてはいけないと口を酸っぱくして言われ。
~~ォスゼィ~プディヨ~~
(ふんふんふん ふふふんふん)
脳内で適当に浮かんだ曲を流し、そちらに集中しようとがんばるのだが。
~~ゲタゥジュ~シンジュシ~ン~
(まーままー! まままーまーま!!)
~ゼェプ゙~ホィスゾァフヲ~~
(うららららー!! ……くっ、ダメだ聞いてしまう…!)
撃沈していた。
「それでは皆さん、紡いでみましょう」
部屋で紡いでいるリズムを思い出せ、それを紡ぐんだと自分に言い聞かせるものの。――それってどんなリズムだっけ?
~~ォスゼィ~プディヨ~~
最終的に、死んだ魚のような目で教科書通りのウタを紡いでしまうおれだった。
講義が終わると、頭を抱えてしまう。
「リュエル、大丈夫?」
「ダメだ……やっぱり耳栓の頼りになるしかないのか……なんでレルヒは耳栓なんて持ってんだ……寝るときしてるのかよく起きれるな…」
ブツブツ呟いていたら、メルに物凄く心配そうな顔で見られてしまった。
そして放課後。寮の自室では、講義を先取りしてやるようになった聖紋とウタ。レルヒの書く聖紋はどれも教科書のように美しい。暗記しなくていいなら楽しいのにといつも思う。
「さぁ、読んでください」
「ドァス……ニェタェ……ドァスニェタェ……トャペナォエロメシ゚…」
レルヒは聖紋と発音はわかるが、ウタは紡げない。レルヒに正しいかどうかわかるのはここまでだ。
「なんのウタか分かりますか?」
「雨……雨乞いか?」
「正解です。言葉も覚えてきたようですね」
レルヒは微笑んで頷く。
「雨の時期に、よく紡がれるウタですよ」
この頃は曇りが多く、たまに雪が降る。青空を望める日はあまりない。雨の季節もそうだ。雨乞いなどするまでもなく、毎年、憂鬱になるほど雨が降っている。
「雨乞いなんてしなくても、降るじゃねえか」
「ええ、喜ばしいことです。その時期には雨が必要なのですね。ですから雨乞いをするのです」
「はあ…?」
眉根を寄せて小首を傾げた。
「雨が降って大地を潤し、作物を育むように祈り、また、そのことに感謝する。これはそういうウタです」
雨が降らないから紡ぐのではないとレルヒは言った。
「すべからく滞りなく変化する森羅万象。その中に人もあります。ウタは、それがそのようにあることを受け入れ、言祝ぐものなのですよ」
「さっぱりわからねえ」
「雨は降るべきときに降る。ですから雨が降るときに、雨よ降れと言います。雨が降ることを受け入れ、その存在に感謝する。“どうぞあなたの思うままに” と、雨に言っているわけです」
全てが在るがままに在ることで、全ては上手く回っている。
「雨は降るべきときに降る。雨を信頼していないとそうは言えません。信頼し、身を委ねる。全てに。……カムナギは自身を、全てを信頼しているのです。それはきっと、精靈たちも同じです」
おれは難しい顔でレルヒの言葉に耳を傾けていた。
「我々は、正確には何がどうなってこの今があるのかわかりません。雨がいつどれだけ降るのが一番なのか。全ての事象を考慮し、正確に導き出せますか? まず、森羅万象を全て理解していないと不可能です」
どうして雨は降るんだい? 降りたいから降るんだよ。なんだか、難解な話になっている。
「つまり、不可能なのです。一番よく知っているのは雨自身でしょう。ですから、雨を信頼して雨に委ねるのが一番なのです」
(はぁ、雨さんにねぇ…)
手と足の生えた雫が頭に浮かぶ。ついでに目と鼻もつけておこう。口はやめておく。今つけたら、逃避して雨さんと脳内会話を始めてしまう。
「例えば、雨が降らず作物がよく育たず人がたくさん死んだとしても。そこには我々には到底考えも及ばない思慮があるかもしれません。後世になり、ようやくわかることもあるでしょう」
人は人を中心に近視観的に考えがちですが、とレルヒは呟く。まず、人も森羅万象の一部であることを忘れがちだ。
「領分というものがあります。それぞれが全力でそれぞれを表現すれば、全て上手くいくのです」
周りに口出しする必要もない。いや、そんなこと頭にも上がらない。自分のことに集中していれば。なぜ自分に集中できるか? それは周りを、自分を信頼しているからだ。
レルヒは流れるようにさらさら語るので、その言葉は右から左にすーっと通りすぎて行ってしまう。そんな中、おれにも一つだけわかったことがあった。
「雨も人と同じってことか? 鳥や、花も…」
そういえば、ネージュがいつか、そのような話をしてくれた。こういう意味だったのか。精靈も人間も、それ以外の生き物も、本質は同じ光。あるいは、神――。眉根を寄せたままレルヒを見上げると、レルヒは目を瞬いてふわりと笑った。
「リュエル、君はいいカムナギになりますよ」
おれは目をさ迷わせる。レルヒの言葉を丸っと理解したわけではなかったから。
「では、紡いでみましょう」
脳内で様々なパターンを試し、しっくり来ると口を開いた。
~~ドァスニェタェ~ドァスニェタェ トャペ~ナォエロメシ゚~ ~
「いいですね。何度も紡いで覚えてください。講義中はイメージ旅行でもして、先生のウタを聞かないように」
これまで一度も教師のウタの呪縛に勝てたことのないおれは神妙に頷く。
「目を開けたまま寝てたらいいよ」
さらっと言うのでうっかり頷きそうになってしまったが、
「無理だろ。あんたじゃあるまいし」
糸目なら眠っていても気づかれないかもしれないが、普通はそうはいかないと思う。
「あら、案外できるものですよ」
え、そうなの?
日々、さらさらと固定観念が崩れてゆくおれだった。
木漏れ日の中で紡いでいた。
~ホィスモッ゙ ビェナ~ォイ゙メシ゚~ ~
黄金色の風が吹き抜ける。
ふと現れた人影――。
(アルシャ…)
光の中で佇んでいる。さらさらと髪をなびかせて。その顔は、強い光でよく見えない。彼を包む光は眩しく、光に溶けこんでしまいそうだ。
「アルシャ!」
思わず叫ぶ。
ようやくこちらを向いた顔はどこか寂しげな笑みを浮かべていた。手を伸ばす。アルシャは目蓋を閉じて身を翻した。
そうして光の中へ消えていった。
「ハッ、っ」
ガバリと上体を起こしたら、危うく糸目と顔面衝突するところだった。スレスレのところで仰け反る。
「おはよう。夢見がわるかったのかい」
ラルジュはまったく動じず、首を傾げた。
「おはようございます。起こす前に起きたのは初めてですね。饅頭でも降るんでしょうか」
レルヒが目をぱちくりする。
(まんじゅう…?)
いや、それよりも。
「……なんか、イヤなゆめ見た気がする」
おれは動悸がする胸を抑え、額を拭った。木枯らしがガタガタと窓を揺らす。ゆめの内容は覚えていないが、思い出そうとすると切ないような、悲しいような気分になった。
――ラルジュとレルヒは顔を見合わせる。二人はちょうどカイトから、アルシャが審判者に選ばれた件を聞いたばかりだった。審判者――精靈と共にあるこの世界の存続を決める人間の代表者。存続を選ぶなら命はない。それは、「命を捧げてもいいと思うほど、この世界が愛しい」と示すことだからだ。ラルジュとレルヒは今のところ、リュエルには内緒にすると決めている。
「さぁリュエル、君のやるべきことは?」
ラルジュはなに食わぬ顔でベッドに腰掛け、最近ではお決まりとなっている言葉を紡いだ。
深く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
「おれはカムナギになる」
これを言わないと、糸目が一日を始めさせてくれないのだ。
「うん、今日も一日がんばろう」
おれの髪をぽふぽふ撫でて、ラルジュは笑みを深めた。
「リュエル、いつまで寝ぼけてるんですか。ズボンのボタン、かけ間違えてますよ」
「ああ…」
ゆめの余韻が抜けきらない。ぼうっとしているおれにチラと目をやって、レルヒは縦に二つ並んだズボンのボタンを留め直し、髪を指で梳き、身なりを整えてくれた。
「この前髪、邪魔でしょう。ビシッと七三にしてヘアピンで留めましょうかね」
「むしろ俺が斬ってやろうか」
ラルジュが腰の剣に手を添えたところで、おれは我に返った。
「っどっちもいらねえ!」
危ない。この二人の前で隙を見せたら、気づいた時にはどうなっているかわからない。どことなくつまらなさそうな顔をしたレルヒと「遠慮しなくていいのに」と言いたげなわざとらしい糸目を睨み付け、おれは鞄を掴んだのだった。
「おはよう、リュエル」
「はよ」
教室に着き、癒しのメルの檸檬色の髪を撫でる。さらさらというよりふわふわな髪だ。
(ゆめ、アルシャが出てきたような気がする…)
ふわふわ ふわふわ
(なんでこんな気分になるんだろ)
ふわふわ ふわふわ
「リュ、リュエル、何かあったの?」
「ああ…」
「ぼくでよかったら、話、聞くよ」
「ああ…」
メルが頬を染めて心配そうに見上げていたことに、おれはまったく気づかなかった。
そんなこんなで、声学の時間。
「ページを捲って。今日から新たな聖紋に取りかかります。まずは皆さんで読んでみましょう」
「ォスゼィプディヨゲタゥジュシンジュシンゼェプ゙ホィスゾァフヲ―――」
ここまではおれも真面目にやっている。
「よろしい。では、紡いでみます」
結局、耳栓は渡されなかったが、まともに聞いてはいけないと口を酸っぱくして言われ。
~~ォスゼィ~プディヨ~~
(ふんふんふん ふふふんふん)
脳内で適当に浮かんだ曲を流し、そちらに集中しようとがんばるのだが。
~~ゲタゥジュ~シンジュシ~ン~
(まーままー! まままーまーま!!)
~ゼェプ゙~ホィスゾァフヲ~~
(うららららー!! ……くっ、ダメだ聞いてしまう…!)
撃沈していた。
「それでは皆さん、紡いでみましょう」
部屋で紡いでいるリズムを思い出せ、それを紡ぐんだと自分に言い聞かせるものの。――それってどんなリズムだっけ?
~~ォスゼィ~プディヨ~~
最終的に、死んだ魚のような目で教科書通りのウタを紡いでしまうおれだった。
講義が終わると、頭を抱えてしまう。
「リュエル、大丈夫?」
「ダメだ……やっぱり耳栓の頼りになるしかないのか……なんでレルヒは耳栓なんて持ってんだ……寝るときしてるのかよく起きれるな…」
ブツブツ呟いていたら、メルに物凄く心配そうな顔で見られてしまった。
そして放課後。寮の自室では、講義を先取りしてやるようになった聖紋とウタ。レルヒの書く聖紋はどれも教科書のように美しい。暗記しなくていいなら楽しいのにといつも思う。
「さぁ、読んでください」
「ドァス……ニェタェ……ドァスニェタェ……トャペナォエロメシ゚…」
レルヒは聖紋と発音はわかるが、ウタは紡げない。レルヒに正しいかどうかわかるのはここまでだ。
「なんのウタか分かりますか?」
「雨……雨乞いか?」
「正解です。言葉も覚えてきたようですね」
レルヒは微笑んで頷く。
「雨の時期に、よく紡がれるウタですよ」
この頃は曇りが多く、たまに雪が降る。青空を望める日はあまりない。雨の季節もそうだ。雨乞いなどするまでもなく、毎年、憂鬱になるほど雨が降っている。
「雨乞いなんてしなくても、降るじゃねえか」
「ええ、喜ばしいことです。その時期には雨が必要なのですね。ですから雨乞いをするのです」
「はあ…?」
眉根を寄せて小首を傾げた。
「雨が降って大地を潤し、作物を育むように祈り、また、そのことに感謝する。これはそういうウタです」
雨が降らないから紡ぐのではないとレルヒは言った。
「すべからく滞りなく変化する森羅万象。その中に人もあります。ウタは、それがそのようにあることを受け入れ、言祝ぐものなのですよ」
「さっぱりわからねえ」
「雨は降るべきときに降る。ですから雨が降るときに、雨よ降れと言います。雨が降ることを受け入れ、その存在に感謝する。“どうぞあなたの思うままに” と、雨に言っているわけです」
全てが在るがままに在ることで、全ては上手く回っている。
「雨は降るべきときに降る。雨を信頼していないとそうは言えません。信頼し、身を委ねる。全てに。……カムナギは自身を、全てを信頼しているのです。それはきっと、精靈たちも同じです」
おれは難しい顔でレルヒの言葉に耳を傾けていた。
「我々は、正確には何がどうなってこの今があるのかわかりません。雨がいつどれだけ降るのが一番なのか。全ての事象を考慮し、正確に導き出せますか? まず、森羅万象を全て理解していないと不可能です」
どうして雨は降るんだい? 降りたいから降るんだよ。なんだか、難解な話になっている。
「つまり、不可能なのです。一番よく知っているのは雨自身でしょう。ですから、雨を信頼して雨に委ねるのが一番なのです」
(はぁ、雨さんにねぇ…)
手と足の生えた雫が頭に浮かぶ。ついでに目と鼻もつけておこう。口はやめておく。今つけたら、逃避して雨さんと脳内会話を始めてしまう。
「例えば、雨が降らず作物がよく育たず人がたくさん死んだとしても。そこには我々には到底考えも及ばない思慮があるかもしれません。後世になり、ようやくわかることもあるでしょう」
人は人を中心に近視観的に考えがちですが、とレルヒは呟く。まず、人も森羅万象の一部であることを忘れがちだ。
「領分というものがあります。それぞれが全力でそれぞれを表現すれば、全て上手くいくのです」
周りに口出しする必要もない。いや、そんなこと頭にも上がらない。自分のことに集中していれば。なぜ自分に集中できるか? それは周りを、自分を信頼しているからだ。
レルヒは流れるようにさらさら語るので、その言葉は右から左にすーっと通りすぎて行ってしまう。そんな中、おれにも一つだけわかったことがあった。
「雨も人と同じってことか? 鳥や、花も…」
そういえば、ネージュがいつか、そのような話をしてくれた。こういう意味だったのか。精靈も人間も、それ以外の生き物も、本質は同じ光。あるいは、神――。眉根を寄せたままレルヒを見上げると、レルヒは目を瞬いてふわりと笑った。
「リュエル、君はいいカムナギになりますよ」
おれは目をさ迷わせる。レルヒの言葉を丸っと理解したわけではなかったから。
「では、紡いでみましょう」
脳内で様々なパターンを試し、しっくり来ると口を開いた。
~~ドァスニェタェ~ドァスニェタェ トャペ~ナォエロメシ゚~ ~
「いいですね。何度も紡いで覚えてください。講義中はイメージ旅行でもして、先生のウタを聞かないように」
これまで一度も教師のウタの呪縛に勝てたことのないおれは神妙に頷く。
「目を開けたまま寝てたらいいよ」
さらっと言うのでうっかり頷きそうになってしまったが、
「無理だろ。あんたじゃあるまいし」
糸目なら眠っていても気づかれないかもしれないが、普通はそうはいかないと思う。
「あら、案外できるものですよ」
え、そうなの?
日々、さらさらと固定観念が崩れてゆくおれだった。
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