最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その7――●●●●●の思い

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宗教都市ロウの住民たちの上げる絶叫が響き渡る中、人知れずひっそりと笑みを――ほんの一瞬だけ走らせた女がいた。彼女の周囲には王家の精鋭の騎士たちや赤魔道士組合から派遣された赤魔道士、〈治癒神の御手教会〉といった主だった面々の他に、茶魔道士組合の土系統の魔道士や緑魔道士組合から派遣された風系統の魔道士までいた。

正義。

体制派。

まさにそう呼ぶべき集団だった。

女はその中央で指示を出す。

「これから宗教都市ロウに侵入し、敵を討ちます。ただし、民衆には手を出してはなりませんよ」

「しかし敵か民衆かの識別は難しく、暴徒も溢れているでしょうし――」

そばに控えた騎士が声を上げたが、女は手で制する。

「もう……誰の血も見たくないのです。……この騒ぎに乗じた何者かによって、妹まで私は失ってしまったのですから」

「お悔やみ申し上げます」

「――だからこそ! 私はこれ以上、一滴の血も流さないと、ここに宣言します」

「「おおぉうっ!!」」

美しくやんごとない地位に就く女の言葉に、男たちは声を上げる。

…………このような演説の間に、血の一滴どころか、出血多量で死ぬ子供や血だるまになる老人などが山ほどいることに、この場にいる誰も気づかないかのようだった。

体制派、とはそういうものだ。少なくともこの世界においては。

「敵首魁の名はわかっているのですか?」

「えぇ。間違いなく、勇者パーティーです」

「なっ!」

「……きっと妹も勇者パーティーに関わったせいで死んだに違いありません。いいえ。彼女は勇者アレクサンダーと近しい関係でもありました。もしかしたら、それで何かよからぬ企みに気づき、それを阻止しようとして討たれた可能性もあります」

「くそっ! 非道な勇者を語る悪漢とその仲間たちめっ!」

「特に要注意なのはエリーゼです。知っての通り勇者パーティーの一員であり、青魔道士だった女です。今は、魔族や獣人族などの中でも特に人間に強い恨みを抱く者たちを集め、扇動しているようです。この騒ぎも彼女が中心となって起こしたものでしょう」

「エリーゼ?」「あのエリーゼ様が?」「……最近見かけたがそのような様子は……」などと口々に騎士たちや赤魔道士たちから声が上がる。

ここからが女の腕の見せ所だった。

エリーゼには泥をかぶってもらわないといけない。

(――なにせ、妹を殺したのは私なのだから)

女は、一時的とはいえ手を結んだ相手を蹴落とすために、声を大にする。

「それは偽りです。彼女は、口では平和を説いて排斥される種族たちを糾合し、平和的な活動を行う振りをしていた……ただそれだけです。本当の目的は、その中から特に使えそうな人材――戦闘能力に優れた獣人やエルフ、魔族たちを集めるのが目的だったのです。もし敵対するそれらの存在がいれば、即座に殺しなさい。エリーゼは、武力と同時に、殺すことに躊躇いのない者、過去に大切な者を人族に殺された者などを集めています」

「……さすがです……それほどの情報をいったいどうやって」

「時間がありません!」

しゃべりすぎたと気づいた女は、大きな動作で剣を抜き放つ。

(あの糞寂れた村でオンセンに次いで役に立ったのは、剣の手ほどきを受けられる場所があったことね)

勇ましい若い美しい女の姿に、いやがおうでも士気が高まる。小さな冠をイメージさせるティアラが頭頂部で輝く。

それを意識した女は、ゆくゆくは本物の王冠をかぶり、初代女王になってやると内心息巻いていた。

「さぁ……、民衆を助けますよ」

助けられて、我が美しい姿を焼きつければいいわ。

武装もろくにない、食事もろくにとってない疲弊した亜人共を狩ることなど、私はもちろん、最精鋭の騎士たちにとってはたやすいこと。

「…………ふふ」

おっと。

いけない、いけない。

あの寂れた村、シノビノサト村での生活が長かったせいで、すっかり仮面をかぶるの下手になってしまった。

(仮面をかぶって接する対象が、あの大うつけのフウマくらいしかいなかったのがいけないのよね……まぁ、もっとも彼は彼で役に立ちそうだけど……)

女は、覇道を突き進むため、落ちぶれた勇者パーティーを自らの名声を高める材料にしようと宗教都市ロウへと1歩踏み出した。

ザンッ、と。

女に合わせて進む多数の手練れ達のよく訓練された足音が、まるで1つのように重なった。
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