殉教者の皿の上

もじかきくらげ

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紅茶1杯

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楽譜を取りに事務室へ入ったら奴が何やら忙しそうに書類をまとめている。特に話しかけてもいないのに、自分がやっている事業について話してきた。何やら上手く行っているらしい。親の手を借りずに自力でここまで来たと言うので褒めると、微妙そうな顔をした。私が自分を褒めるのが珍しく思ったらしい。別に、今までもこいつを褒めたことはあったし、かといって直接貶したこともない。まあそんなものかと思っていたら、外で何か騒ぎがあった。

私が教会の裏へ急ぐと、ちょうどギャビーが修道服を着た女に腕を掴まれていた所だった。やはりギャビーに神の加護があると言ってきた例の教会からの使者だ。ひとまず中へ入らないかと提案し、近くにいた仲間へお茶を入れるよう頼んだ。しかし使者は断り、ギャビーを今すぐという。見ると使者2人の他にも、教会の紋章が入った大きな馬車を近くに2台止め、扉を開け放しにしたまま護衛が7人も待っていた。私はギャビーが痛がっていることと、まずは理由を聞かせて欲しいと伝える。使者の話によると、ギャビーの『神の加護』は人間の心に作用するらしく使い道を間違うと恐ろしいことになるとか、このままギャビーを、神の怒りを買いかねないとか言う。話は分かったがやり方が強引すぎる。何よりギャビーが怯えている。困ると伝えても聞かない。
何度も同じ問答を繰り返し、ギャビーも私も疲弊していた所に遠くから聞いていたグランツェロがやってきて叫んだ。
「ガブリエルは僕の言うことしか聞かない! 今ここで僕がと言えばどうなるか分かるな!?」
使者たちが慌てて去って行く。そんなにも効果があるとは思わなかったが、よほど信心深いらしい。奴はかなり得意気だ。ギャビーが連れて行かれなかったことに喜んでいるが……しばらくは警戒を強めなければならないだろう。


夜、別の信者に見張りを交代した直後、窓が割れる音がして限界だった眠気が吹き飛んだ。子供たちの部屋へとんで行くと、もう手遅れだった。首から滴った血がシーツを流れて床へ海を作っている。
ギャビーが死んだ。
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