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番外編 【書籍化御礼SS】スヴェラからの手紙
①
しおりを挟むいつもあたたかな応援をありがとうございます。
書籍化にあたり、その後の二人をお知らせするような気持ちで書きました。
本編から六年後の秋のお話。
~~・~・~・~・~・~・~
「殿下。スヴェラからお手紙が届いております」
その手紙が凍宮に届いたのは、晩秋のことだった。
侍従のレビンが銀の盆に載せて運んできた封筒は、まるで新雪のように白い。もうすぐ錦秋が終わり、長い冬が始まるのだと知らせるように思えた。
スヴェラ国といえば、叔父が婚姻を結んだ国であり、ロサーナの同盟国だ。スヴェラの王太子である年下の従兄弟フェリクスは、よく手紙をくれる。王太子として忙しい毎日だと思うのに、毎月手紙が届くのだ。
彼が凍宮を訪れて帰国した直後は月に二度は届いていたので、「無理せずに」と返信したことがある。手紙を届ける為に遠路はるばる馬を駆る騎士だって大変だろうと気の毒に思ったからだ。
一月後に届いた手紙はいつもよりずっと短く、最後に「私の手紙は迷惑ですか」と小さく書かれていた。
そんなはずはない。弟のような彼からの手紙はいつだって嬉しい。
慌てて返信を書き送れば、早馬で驚くほどぶ厚い手紙が届いた。スヴェラから手紙を運ぶ騎士はこっそりと、自国の王子の一喜一憂する様子を伝えてくれた。そして、自分たちは少しも苦労だとは思わないとも。それ以来、私は彼の手紙を黙って受け取ることにしている。
「フェリからか? 先週受け取ったばかりだけど」
「いいえ、王太子殿下からではございません」
レビンが告げた名は思いがけないものだった。
封筒を開けて便箋を開くと、覚えのある花の香りがした。フロイデンの懐かしい日々が呼び覚まされる。私はすぐに便箋に並ぶ美しい文字を追った。
◇◇
暖かな午後にヴァンテルが凍宮にやってきた。
美しく色づいた庭園を散歩しようと誘われて二人で小道を歩く。広大な庭園の一部は林になっている。空は高く、木々の根元には赤や黄色の葉が積もっていた。風が吹くと紅の葉がひらひらと小道に舞い落ちる。
一際鮮やかな紅に染まった大木を見て、二人揃って立ち止まった。
すぐ隣に視線を向ければ、柔らかな笑みがあった。私はヴァンテルを見上げながら、彼の肩に落ちた一枚の葉をつまんで払う。そして、スヴェラから手紙が来たと告げた。
「スヴェラ? 王太子殿下からですか?」
たちまちヴァンテルの眉間に皺が寄る。ヴァンテルはフェリクスのことを子犬のふりをした狼だと言う。勇猛果敢な女王陛下の御子だ。狼の気質はあるだろうが、私には凍宮を訪れた時の可愛らしい姿しか浮かばない。
「フェリじゃない。誰だと思う?」
「?」
「クリスもよく知っている人だ」
はっとしたように深い青の瞳が大きく見開かれた。
「……もしや、ノーエ侯爵令嬢からですか?」
「うん。あれから六年経つけれど、初めて手紙をもらった」
シャルロッテ・ノーエ。
私のかつての婚約者は、六年前にロサーナから出奔した。父の侯爵に自分を除籍するよう願う手紙を書き残し、密かにスヴェラに渡ったのだ。
ノーエ侯爵家はすぐさま行方を捜した。表立っては彼女が病にかかり領地で療養をしていることにして、方々に人を出した。だが、逼迫した財政では捜すのにも限度がある。ほどなくして侯爵家は捜索を打ち切った。
「私の知っている彼女は、春風に揺れる可憐な花だった。でも、本当は違ったのかもしれない」
「違った?」
「この紅の葉のように燃える心を持っていたんじゃないだろうか。大切に育てられた貴族の令嬢が、たった一人で異国に向かった。そして、三年間を学びに捧げて王宮の薬師院に職を得た。これは余程の気概がなければできないことだ」
シャルロッテはさらに三年を経て正式に王宮薬師に任じられた。異国で女性の身だ。これまでどれほどの苦労があっただろう。
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