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番外編 【書籍化御礼SS】スヴェラからの手紙
②
しおりを挟むヴァンテルは逡巡した後に口を開いた。
「実は私も手紙を頂戴しました。王宮薬師を拝命したことと、これまでの厚情に心から感謝するとありました」
「……そうか。ずっとシャルロッテを助けてくれてありがとう」
「私の手助けはほんの少しです。金銭的な援助は、密かに貴方がなさってきたではありませんか」
「たった三年だ。彼女が王宮に職を得てからは何もしていない。彼女が負った疵に比べたら些細なものだろう」
「……アルベルト様」
「追放された王子の婚約者だったなんて、彼女の人生には大きな汚点となったはずだ。でも、過去は変えられない。せめてスヴェラでの日々が幸せであるようにといつも祈っていた」
それは、貴方の罪ではないと叫ぶヴァンテルの口を人差し指で止めた。ヴァンテルは眉を顰めながら、声を落とす。
「以前、私は令嬢に言ったことがあります。貴女の哀れなところは家を捨て切れぬ情の厚さだと。ある時、令嬢は全てを断ち切って、スヴェラで学ぶ道を選びたい。力を貸してほしいと仰った。この先も自分で道を切り拓いていかれることでしょう」
大きな羽音がして、目の前の木に止まっていた鳥が飛び立つ。スヴェラに羽ばたいた彼女のように思えた。
「人生とは不思議なものだ。かつてスヴェラへと誘われた私は凍宮に留まり、フロイデンにいるはずだった彼女はスヴェラで生きるのだから」
ヴァンテルは空を見ながら独り言のように呟いた。
「彼女が貴方とこの先を共に歩まれるのだと……そう思った日もありました」
「あの頃の私は、それが当たり前だと思っていた」
王族に生まれた自分が果たす義務。その一つが婚姻だと思っていた。だから、周りに勧められるがままに婚約を受け入れた。
「そういえば、クリスには……」
ヴァンテルには、ずっと婚約者がいなかったことを思い出した。幼い頃から縁談は山ほど持ち込まれたのに、前公爵はうんと言わなかった。王家と近い血筋であることから慎重に相手を選んでいるのだとも、本当は決まった相手がいるのだとも噂されていた。
――もし、クリスに婚約者がいたら?
急にもやもやした気持ちが胸いっぱいに広がって黙り込む。すると、本人が私の顔を覗きこんだ。
「いませんよ、アルベルト様」
「え?」
「貴方が心配されるような相手は、今日までのどこにもおりません」
「私は今……口に出していたのか?」
ぷっとヴァンテルは噴き出した。「口ではなく顔に出ています」と言われて、頬がかっと熱くなる。思わず、ヴァンテルに背を向けた。
「父には感謝しています」
「え?」
「幼い頃に誰かと婚約が結ばれていたなら、きっと相手を不幸にしたでしょう。貴方に出会った時から、私には貴方しか見えなくなる」
振り返れば蕩けるような笑顔が自分に向けられている。ヴァンテルの言葉が嬉しくて、同時に胸が痛かった。
「私は自分の心にすら気づかない愚か者だった。もし、凍宮に追放されずにシャルロッテと結婚していたなら、二人に不義理なことになっただろう」
「おや、私は貴方の恋人にしていただけたのですか?」
――王妃を得て、さらに宮中伯筆頭を恋人にする?
想像した途端に、自分の眉がぎゅっと寄るのがわかった。
多くの貴族が結婚相手とは別に愛を持つ。王族なら妃や愛妾を複数娶ることもできる。だが、自分にそんなことができるとは思えなかった。
ヴァンテルは大きく咳払いをして、自分が悪かった、軽率なことを言ったと謝った。
「私は……不器用なんだ」
「存じています。貴方が真摯に人に向き合う方だということも」
物は言いようだな、と言えばヴァンテルが笑う。
「シャルロッテは結婚するそうだ」
「!」
「お前への手紙には書かれていなかったか? ずっと彼女を支えてくれた相手が同じ薬師院にいるらしい」
同じ道を志し、共に生きる者と出会った喜びが綴られた手紙だった。彼女は最後に、私の幸せを願ってくれた。
「書かれていませんでした。私には伝える必要のないことだったのです」
ヴァンテルは、そっと私の手を取った。冷えた指先に熱が移って、たちまち温かくなる。
「こんなに冷たくなって……手袋が必要ですね」
「お前が温めてくれるなら、なくてもいい」
「では、私が貴方の手袋にも外套にもなりましょう」
両手を大きな手に包まれて、頬が緩む。私をすっぽりと抱きしめたヴァンテルの胸は、とても温かい。
本当に温かいなと笑えば、ただ一人の恋人は優しく口づけをくれた。
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書籍化おめでとうございます
以前読んで感動に涙した物語が書籍化されるのかと嬉しくてたまりませんでした。
そしてまた、物語を読み返しまたまた感動で涙が止まりませんでした。
アルベルトへの父王の愛、そして揺るぎない恋人ヴァンテルの愛、愛がいっぱいで涙が止まりません。
書籍化でもっと多くの人が私のように感動で心に残る本となると信じています
本当に美しい物語をありがとうございました。
てらちゃん様
温かなお祝いのお言葉ありがとうございます!
嬉しくて何度も読み返しました( ;∀;)💕
以前もお読みいただき、また再度読み返していただけるなんて感謝ばかりです。
父王エーデルにもヴァンテルにも、それぞれに自分の信念と愛情がありました。
彼らの物語が皆様のお心に残る本になれたらこんなに嬉しいことはありません。
本作をお心に留めてくださって信じてくださって、とても嬉しいです。
初の紙書籍刊行でずっと緊張していますが、とても励まされました。
お心を伝えていただき本当にありがとうございました。
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肉🍖様
ご感想ありがとうございます!
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夜曲様
本作もお読みいただき、ありがとうございます!
ずっとシリアスで重めなのに、最後まで読んでくださって、本当に嬉しいです。
凍て薔薇は、過酷な状況でも一途に思い合う人たちを書きたいと思いました。夜曲様の心臓をぎゅぎゅっとできたなら幸せです~。
今年はじっくりゆっくり書いていきますので、また他作品もご覧いただけたら嬉しいです。
温かいお言葉を励みに、頑張っていきたいと思います^^!