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4.追憶

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 ヴァンテルは、本当に約束を守ってくれた。滅多に人が来ない小宮殿に、後日、本を持って訪れた。挿絵の入ったものは貴重だったので、私は興奮して何度も礼を言った。

 精密に描かれた絵の素晴らしさに息を呑んだが、見たこともない異国の文字が並ぶ。とまどう視線に気がついたヴァンテルが、訳しながら読んでくれた。

 二人で並んで本を見た。ヴァンテルの静かな声が部屋に満ちていく。美しい指先がめくる世界に、すぐに夢中になった。

 優しい泉が小さな種を大切に見守り、やがて見事な花をつける。最後の頁を読み終えて、思わず大きなため息が出た。

「花は、花は嬉しかったよね?」
「ええ。きっと泉も」

 最後の頁をそっと撫でた。ヴァンテルが「もう一度読みましょうか?」と言ってくれたので、私はすぐに頷いた。

 結局、何度も本を読まされたヴァンテルは、侍従の用意した茶で喉を潤した。私はその間も、本を抱えたままだった。

「殿下は召し上がらないのですか?」
「うん……。もう、なんだか、……胸がいっぱいだから」
「……そんなに気に入られたのなら、その本は差し上げましょう」
「え? だってこれ、大事なものでしょう?」

 その時、自分が物欲しげに持っていたから、ヴァンテルが気にしたのだと気づいた。

 母が言っていた。臣下のものを欲するような、浅ましい真似をしてはなりません、と。
 急に恥ずかしくなって本を差し出すと、小さな笑い声を聞いた。

「元々、殿下が気に入られたのなら差し上げるつもりだったのです」

 なんと答えていいかわからずにとまどっていると、悪戯な目をして彼は言った。

「では、私がその本を読みたくなったら。またこちらに伺ってもよろしいですか?」

 本を抱えたまま、何度も頷いた。

 初めての客に興奮した私は、その夜、熱を出した。乳母にも侍従にも、熱を出したことを誰にも言わないでと言った。発熱が理由で、彼に会うことを禁じられるのが怖かった。

 彼は、ヴァンテルは……。熱を出さなかったら、また来てくれるかもしれない。小卓に本を置いてもらい、眺めながら眠った。



 ヴァンテルは、その後度々、小宮を訪れるようになった。
 互いに本を読んだり、珍しい玩具を持ってきて二人で遊んだり、彼が訪れる日はあっという間に時が過ぎる。

 いつの間にか、互いをクリス、アルベルト様と呼び合うようになった。
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