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7.薄明

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 ひらり、ひらりと何かが空から降ってくる。
 陽にきらめきながら、頭の上で揺れている。
 受け止めたくて手を伸ばせば、掴めるようでいて、どれも指の間をすり抜けていく。

「羽……」

 いつのまにか、体は幼い頃の姿に変わり、差し出す手も小さい。

 ふわりと一枚の羽が手の平の上に落ちた。
 おかしい、と思った。
 前に見たのは、すらりと長い美しい羽だ。
 目にしているのは、産毛のようなふわふわの毛がついている。
 ほんのりと温かく、両手でそっと包んで頬に当てた。

 どうしてこんなに温かいんだろう……?






 ぱち、ぱち、と火の粉が弾ける音がする。
 耳が音を捉え、うっすらと目を開ければ、ふさふさしたものが目の前にある。
 茶と白の大きな塊が動いて、鼻先をくすぐられた。

「な……に……?」

 大きな体が揺れて、垂れた耳が見える。耳と同じく垂れた小さな瞳がこちらを見ていた。大きな口が近づき、べろりと顔を舐められた。

「……わっ」

 声を上げれば、べろべろと舌で顔中を舐められている。

 いぬ?
 毛足が長く、足も太い。巨大な犬が体の上にのしかかってくる。
 犬なら王都でも見たことがあったが、すぐさま周りの者が追い払っていた。
 こんなに大きな犬を見たのは初めてだ。自分よりもずっと重く、力もあるだろう。押しつぶされるのではないかと恐ろしかった。

「……ガイロ!」

 低い男の声がした。
 名前を呼ばれた途端、犬の動きが止まった。犬は私の上から降りて、すぐ脇に座った。
 ふさふさした尻尾がパタパタと床を打っている。顔は男の方を向いているが、私から離れようとはしなかった。

「よほど心配なんだな」

 起き上がろうとしたが、うまく体を起こせない。

「だめだ、無理に体を動かさない方がいい」

 近づいてきた男が、そっと指で首筋に触れた。脈を測っているのだとわかる。若いが、鍛えられた体躯が見てとれた。

「……よかった。大丈夫そうだ。まさか、あんなところで倒れている奴がいるとは思わなかった。あんた、こいつに感謝しないと」

 人懐こい茶色の瞳で、にっこり笑う。肌は焼け、精悍な顔立ちだった
 男が指で示した先には二頭の犬がいた。兄弟なのだろうか。どちらもよく似ている。垂れた茶色の耳に白い体で、どっしりと大きかった。

「ここは……」
「守り木の集落にある小屋だ」

「守り木?」
「森の中に、他の木に比べて、大きな木があっただろう? あの木のことを皆、守り木と呼んでいる。あんたはその根元にいた。風や雪が吹きつけない場所でよかったな。守り木は、村で一番大切な木だ」

 その言葉を聞いた途端に、冷水をかけられたような気持ちになった。

『私の村は数年前までここにあったのです……。今はもう誰もいませんが』

 侍従の言葉がよみがえる。

「木の根元で倒れているあんたを見つけたのは、こいつなんだ。日暮れまでに戻ろうとそりを走らせていたら、犬たちが妙なものを見つけて吠えたてた。それがなければ、気がつきもしなかった」

「妙なもの?」
「ああ、これだ」

 男は、部屋の隅にあったものを取って見せた。手にしていたのは、かごだった。
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