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15.吐露

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 すっかり夕闇に包まれた小宮殿は、薔薇の香りだけが漂っている。ごく近くにいなければ、お互いの顔もはっきりとは見えなくなっていた。

 空には明るい星々が少しずつきらめいている。もうすぐ夜の帳が降りて、小宮殿は閉ざされるだろう。

 私はヴァンテルから離れて、上着と靴を手に取った。裸足の足は、すっかり冷え切っている。薄闇の中に、自分の足がぼんやりと白く浮かび上がった。ヴァンテルがそっと目を逸らしたので、にわかに恥ずかしさでいっぱいになる。
 慌てて靴を履き、上着を纏うと、少し体が温かくなった。いつのまにか冷えていたのかもしれない。

 芝生の上の本を手に取ると、ヴァンテルが、私の体をひょいと抱え上げた。

「クリス、自分で歩けるから! 下ろして!!」
「冷えてきましたし、足元はだいぶ見えにくくなっています。危ないですから、このまま部屋に戻りましょう」
 
「行きも帰りもこんな格好じゃ、あまりにも情けない……」
「……ライエンも、アルベルト様を腕に抱きかかえてきたのでしょう?」
「えっ。まあ、そうだけど」
「騎士たちが報告してきました。私もこのまま、アルベルト様を部屋までお送りします」

 ……何故、そうなるんだ?

 ライエン同様、ヴァンテルも人の話を少しも聞こうとはしてくれなかった。
 暗くなった王宮までの道は、昼間とは違って少し怖い。ヴァンテルが立ち止まり、耳元で囁く。

「……もう少し、しっかり掴まってくださると嬉しいのですが」

 甘さを秘めた声に、動悸が激しくなる。仕方なく、首に手を回して少し力を籠めると、髪に口づけられた。
 頬が、かっと熱くなる。首筋に顔を寄せたままでうつむけば、少しも動悸は治まらない。暗くなって良かったと思いながら、人肌の温かさを感じ続けていた。





「そして、レーフェルトにお戻りになると仰るのですか! こんな悪党の言い成りになって!!」

 叔父の声が、部屋に響き渡る。
 ヴァンテルは、顔色も変えずに黙ったままだ。

 王宮の部屋に戻った私を待ちかねていたのは、レビンと叔父だった。二人は、ヴァンテルに抱きかかえられて戻った私に、言葉をなくした。

 私は長椅子に腰かけ、目の前で怒り心頭な叔父の話を聞いている。
 ヴァンテルは私達から距離を取って立ち、レビンに至っては、部屋の隅で彫像のように固くなっていた。

「叔父上。悪党ってことはないと思うのですが……」
「よろしいですか、可愛いアルベルト殿下。人を簡単に騙し、うまいことを言って丸め込もうとする者を悪党と言うのです。宮中伯なぞ、悪党の巣窟ですよ。筆頭は、言わばその統領ですからね」

 叔父は冷たく言葉を吐き捨て、ヴァンテルを睨みつけた。

「……クリスとは、小宮殿で色々話しました。叔父上、私は単に言い成りになるのではありません。自分の意志で、凍宮に戻ろうと思います。この十八年間というもの、私は自分の病のことすら、ろくに知らなかった」

 そう言った途端、叔父の顔色が変わった。
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