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16.紅痕 ※微

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「アルベルト様とレビンのことは、執事によくよく伝えてあります。口が堅く、有能な男です。どうぞゆっくりお休みになってください。回復次第、凍宮に出発致しましょう」
「わかった。クリスは……」
「はい?」
「クリスは……、毎日帰ってくるのか? ここに」
「……」

「クリス?」
「……仕事が終わり次第、すぐに伺います」

 何故か口元を押さえて、ヴァンテルは目を逸らす。

「一緒に食事も出来る?」
「……ええ、必ず。アルベルト様のお好みのものを用意させましょう」
「料理よりも、クリスが一緒に食べてくれたら嬉しい」

 夢のようだ。東の宮殿にいた最初の頃、ヴァンテルはよく一緒に食事をとってくれた。
 しっかり栄養を摂れるようにと、彩りよく用意された食事。どれも食べやすかったが、一番嬉しかったのは、共に食事の席に着けることだった。

「……殿下が、しっかりお眠りになったら」
「うん」
「いつでも、早く戻ります」

 まるで小さな子どもを宥めるような言葉だ。思わず、声をあげて笑った。
 これでは昔と変わらない。ヴァンテルは小宮殿から帰る時になるとぐずる私に、よく言ったものだった。

『殿下がお食事を残さず召し上がったら、すぐに参ります』
『ぜんぶ食べるのは…。一日でいいの?』
『うーん、片手ほどの日にちでいかがでしょう?』
『わかった!』

 ヴァンテルが、放心したように私を見ている。

「どうした? クリスが言うように、しっかり眠るようにする」
「……あまりに久しぶりに見た気がするので」
「何を?」
「貴方のそんなに楽しそうな顔を」

 そう言えば、ヴァンテルの前で声をあげて笑ったのは、久しぶりだった気がする。
 私は両手の指を頬に当てて、揉み込むように動かした。ヴァンテルは目を丸くする。

「ちゃんと笑えているだろうか……」
「……?」
「最近は、笑い方など忘れてしまっていたような気がするから」
「……アルベルト様」
「なに?」

 ヴァンテルは、屈みこんで、私の手の上に自分の両手を重ねた。そのまま、青い瞳が私を覗き込み、くすりと微笑んだ。

「あまりに可愛らしいことをなさるので、見惚れました」

 そう言って、まるで鳥の羽が触れるように、唇を優しく重ねる。

 私がぱちぱちと瞬きする間に、ヴァンテルは手を離して立ち上がった。

「……ここにお邪魔していると、余計な気持ちを抑えられなくなりそうです。殿下、少しお休みください。夕食をご一緒しましょう」

 私は思わず、こくこくと頷いた。
 ヴァンテルが扉を出て行くと、頭からすっぽりと上掛けを被る。顔から火が出そうだった。動悸が速まって絶対眠れるものかと思ったのに、いつの間にか眠ってしまった。
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