上 下
105 / 154
25.和解

しおりを挟む
 
 翌日。

 居並ぶ騎士たちの前で二人の宮中伯たちは、和解の姿勢を見せた。

 ヴァンテルは、私が病床の父王を内密に見舞い、さらにはトベルクに対面した直後にいなくなった為、連れ去られたと思ったこと。
 トベルクは、そもそも廃嫡に疑問を抱いており、王宮で再会した王子を凍宮に戻さず、本来の王太子の座に戻すべきだと思ったことを語った。

 私は、宮中伯たち及び騎士たちを見回して告げた。

「それぞれの宮中伯たちがロサーナを、私を思って動いた結果が、この度の争いを生んだ。騎士たちよ、苦労をかけた。これは不運な衝突から生まれたことだ。剣を収め、速やかに己が領地に戻れ。知っての通り私は廃嫡された身だ。宮中伯たちの決定はロサーナの法である。このレーフェルトに戻った以上、凍宮から二度と動くつもりはない」

 騎士たちの視線には動揺が浮かび、彼らは呼吸と共にそれを飲み込んだ。

 宮中伯二人は、すぐさま王子に恭順の意を示し、騎士たちをねぎらった。ヴァンテルがトベルクの領地で起きた火事を悼み、見舞いと称してすぐに支援を行うと告げた。トベルクが感謝の意を示したことで、場の緊張は一先ひとまず終息した。

 第一騎士団長ホーデンは、部下たちの戸惑いを後から伝えてきた。
 アルベルト王子は、はばかりながら王太子の地位にふさわしいのではないか。廃嫡は何かの誤解ではないかと意見する者たちが多数おります、と。

「それでも彼らは法に従うだろう。新しい王太子が即位し玉座に就けば、そちらに人は流れる。旗の立つ方に、風の吹く方に人は向かうだろう」

 ホーデンは、私をじっと見つめながらぽつりと言った。
「……どこに旗が立つかは誰にもわかりませぬ」



 トベルクが騎士たちとフロイデンに発つ日。
 私は見送りの為に宮殿前の広場に赴き、道中の無事を祈った。

 ヴァンテルは傍らで明らかに不快を示したが、私は笑って聞き流した。

「和解したのに、見送りの一つもしないのはおかしいだろう?」
「それはそうかもしれませんが!」
「それこそお前が笑顔を見せるのが筋ではないか? 筆頭殿?」

 憤懣ふんまんやるかたなし、と怒り狂うヴァンテルもトベルクが最後の挨拶に来た時は、満面の笑顔を見せた。

「……殿下、幾久しくお元気で」

 トベルクは跪き、私の手の甲に口づけを落とす。私は自分の手を服の上から鎖骨にそっと当てた。
 トベルクの瞳は一瞬強く見開かれ、私を見つめた。瞳の中にくすぶる炎を瞬き一つで収めた宮中伯は、それきり二度と振り向くことはなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

氷血辺境伯の溺愛オメガ

BL / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:2,960

悪魔に祈るとき

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:15,550pt お気に入り:1,124

【R18】9番目の捨て駒姫

恋愛 / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:1,082

こっち見てよ旦那様

BL / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:1,466

尻凛 shiri 〜 がちむちゲイの短編小説集 〜

BL / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:53

処理中です...