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30.レトの内緒話
しおりを挟む想いを伝えあってから二日後。
ジードたち第三騎士団は、南部の魔獣討伐に出発した。急速に増えた魔物たちが新たに都市を襲撃した為に壮行の儀式は中止され、あっという間に旅立ってしまった。
……ジードは、当分帰ってこない。
「ユウ様、通算31回目です」
体調が戻ったからと復帰したレトが、心配気に俺の顔を覗き込んだ。気が付いたら、俺は日に何度もため息をついている。自室のテーブルの上には、散々作ったピールの資料が並べられ、レトが新しいお茶を淹れてくれた。
「大丈夫ですか? ジード様が出発なさったのが、余程ご心配なんですね」
あまりにずばりと核心を突かれて、違うと言うことも出来なかった。噴き出しそうになったお茶を無理やりごくりと飲み込む。
「……うん、まあ。南では魔獣がすごく繁殖してるって聞いて、やっぱり不安なんだ。レトこそ体の具合は平気?」
「え、ええ。ご心配ありがとうございます」
レトがうつむいて赤い顔をする。まだ体調が戻りきっていないのかもしれない。
「ごめん。俺がずっとピール作りに付き合わせたから、レトも疲れがたまっていたんだよな。ゼノにも看病させてしまって悪かった」
「え? いや、そんなことはないですよ。ほ、本当にユウ様のせいじゃありませんから!!」
レトはきっと、俺に心配をかけないように気を使ってくれているんだろう。申し訳なさにしょんぼりしていると、レトの口から、うううう……と呻き声が聞こえた。
「こ、こんなことをユウ様にお聞かせするのもどうかと思うのですが」
「レト?」
きょとんとする俺に、レトは体をぷるぷる震わせている。なぜか、顔だけではなく耳まで真っ赤になっている。
「この間、ゼノと一緒にピールを頂いて帰ったあと、夕食までにお茶を飲んだんです。少しピールをつまみながら……」
レトの話は衝撃だった。お互いにピールを食べていたら段々体が熱くなり、気が付いた時には貪るように互いを求めあっていたのだと言う。
俺は、人からまともにそんな話を聞いたのは初めてで、うろたえてしまった。
「そ、そうなんだ。でも、二人は結婚してるしさ、そういうこともある……」
よね、まで言おうとしたら、レトが立ち上がって両手でバン! と机を叩いた。ぎょっとして、思わず姿勢を正した。いつもは穏やかなレトが眉をつりあげている。
「ちがいますッ!」
「お、おおお?」
「違いますよ、ユウ様っ! 何というか、そういうことじゃなくて。もっと抗い難い力があるんです! そう、あれは、まるで媚薬のような……」
「媚薬?」
俺は、はっとした。
応接室で、ジードにピールを渡した時。ピールを食べた後のジードの様子が急激に変わったことを思い出す。確か、ジードも体が熱くなったと言っていた。
「そういえば、エリクも……。第一騎士団の皆も、ピールを食べた後に何か言ってた」
ピールを食べた後に騎士たちが言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
──客人殿、この食べ物には何か、魔力を宿らせておりますか?
──何か、不思議なのです。こう、体の中から力が湧き上がるような……。
──体の端々にまで、力がみなぎっていくような気がします。
力が、みなぎる?
「レト! あのさ、果実を加工して食べたら、体に魔力が溢れるようなことってあるのかな?」
「ユウ様、私とゼノも同じことを考えていました。可能性はあると思います」
「そうか……。実は俺も色々あって……」
いくらレトでも、流石にジードとのことを告白するのは恥ずかしい。しかし、レトは俺をじっと見るうちに何かを察したようだった。
「ユウ様、確か作ったピールはまだ残っていましたよね?」
「うん。少しだけど、まだリュムもスロゥも残ってる」
「早速ですが、それを魔力分析に出しましょう! もしかしたら、ユウ様のお作りになったものは、私たちが想像もしなかった効果を持っているのかもしれません」
……一体、どんな効果なんだ?
「媚薬……だけではないですね。そう、精力増強のような効果がありそうです」
「せいりょく……」
レトと俺は思わず顔を見合わせて、互いにぼっと顔を赤くした。
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