【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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29.互いの想い

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「……ユウ、ユウ」
「ん、あれ?」

 いつの間にまどろんでいたのか。名を呼ばれて目を開けたら、俺はジードの膝の上に抱えられていた。

「ユウ、起きて」
「ひえっ」

 思わず、変な声が出た。すぐ目の前に美しい碧の瞳がある。ジードが俺を見る瞳には、ぎゅっと胸が締め付けられるような愛情が満ちていた。

 ──ユウ、好きだ。大好きだ。

 
 そんな言葉が耳元で囁かれ、大きな手で髪を撫でられて、瞼にキスをされる。キスはとても優しくて、くすぐったい。思わず笑えば可愛いと言われ、顔中にキスが雨のように降ってくる。

「ジードっ! やめ……、もう!」
「だって、ユウが可愛い」

 ぐいと胸を押し返せば、くすくす笑いながらその手を引き寄せられて、唇にキスされる。シャツを軽く羽織っただけのイケメンが蕩けるような甘い瞳を自分に向けるのだ。これはいくら何でも、刺激が強すぎる。
 ひいいい……と心の中で叫んでいると、ジードが微笑んだ。

「ユウの肌に付いたものは、全て綺麗にしておいたから。部屋の中も元通りにしておいた」

 言われて、思わずはっとする。

 ……そうだ。ここは第三騎士団の応接室の、すぐ隣の部屋だった。

 ジードが抱きしめる力を緩めてくれたので辺りを見回すと、部屋の中は何事もなかったかのように綺麗になっている。騎士団に所属する者たちは皆、それぞれに優れた魔力を持つ。知らぬ間に部屋を綺麗にしてもらったと聞くと、急に恥ずかしさが湧いて来る。

 さっきまでここで、俺はジードと……、と思った瞬間にわあああッ! と叫びたくなった。

「ユウ?」
「いえ、何でもないです……」

 何しろ、今の俺は素っ裸にシャツを一枚羽織っているだけだ。肌はどこもさらりと綺麗な状態になっているが、体のあちこちに赤い花びらのような痕が付いている。俺の体を見たジードの頬がうっすら赤くなった。

「ユウの恰好はちょっと……、困るな。そんな色っぽい姿を見たら……」

 ジードの手が、するりと太腿に触れる。指が肌の上をなぞるだけで、背にぞくぞくと快感が走った。何だか再び怪しい雰囲気になりそうなのを慌てて止めた。

「ジード、お、俺の下着、どこ……?」
「そんなもの、着けなくてもいいのに」

 思わず「下着ッ!」と叫んだら、ソファーのひじ掛けに置いてあった下着とズボンを渋々取ってくれた。
 お互いに服を身に着けて、ソファーに座り直す。ジードがぴたりと体を寄せたまま、眉を下げて俺を見た。思わず、胸がどきんと鳴る。

「……ユウ、ごめん」

 ……何で? どうして謝るんだ?

「こんな、まるで無理やり体を繋げるようなことになってしまって。もっと、ユウには丁寧に気持ちを伝えようと思っていたんだ」
「ジード?」 
「俺は、ユウが他のやつを……、ザウアー第一部隊長を好きでも構わないと思っていた」
「は? ザウアー第一部隊長って……、エリク?」

 何でエリクが出てくるんだろう?
 不思議に思っていると、ジードがひどくつらそうに言葉を絞り出す。

「ユウは部隊長と仲がいいだろう? ユウが幸せならそれでいいと思っても、一緒の姿を見るのはやっぱりつらかった。スロゥやリュムのピールを自分の為に作ってくれたと聞いて、本当に嬉しかったんだ。口にしたら、どうしても気持ちが抑えられなくなって……」

 ジードは、すまなかったと言う。でも、ジードに触れていたら、気持ちが収まらなかったのは俺だって同じだ。

「ジ、ジード。俺だって、自分の気持ちが抑えられなかったんだ。それに、何か勘違いしてるみたいだけど、俺、エリクに恋愛感情は持ってないよ」
「……そう、なのか?」
「うん。エリクだって俺に付き合ってくれていたけど、それは仕事だからだ」

 ジードの瞳が俺をじっと見た。

「ユウは俺のことを好きだと言ってくれた。それは、本当に……」
「そんなことで嘘なんか言わない。俺は本当に、ジードが好きなんだ」

 今までみたいに言いたいことを飲み込む意気地なしの俺のままじゃだめだ。

 ……大事なことは、ちゃんと口で言わなきゃ伝わらない。何度でも、相手に伝わるまで。

 目を見てきっぱりと伝えると、ジードが俺をぎゅっと抱きしめた。大きな体にすっぽりと包みこまれてしまう。まるで自分がものすごく華奢な生き物になった気がした。顔を上げれば、碧の瞳が嬉しそうにきらめいている。

「俺もだ、ユウ」

 胸の中が熱くなって、つんと鼻の奥が痛くなる。目の奥までぐっと痛くなりそうだった。どちらからともなく顔を近づけて、もう一度キスをした。
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