【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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45.魔獣の勉強

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 どくん、ドクン、ドクン。
 胸が変な音を立てる。

 ――行方不明になった小隊がある。

 まだ詳しいことはわかってない。ジードだとは限らない。そう思うのに、嫌な汗が出てくる。

「ユウは確か、第三騎士団に会いたい者がいると言っていたな」

 黙ったまま頷く俺に、テオは気遣うように言葉を選んだ。
 
「報告を受けたのは三日前だ。第三騎士団は五隊に分かれ、それぞれに小隊が存在する。魔林の中に偵察として入った中の二小隊が帰還していないと聞いた」
「……二小隊」
「魔林の中でさえなければ魔力探知が出来るが、魔獣が多い場所では難しい。個々の人間の魔力は小さすぎる」

 そんなところに、ジードたちはいるんだ。俺がのんびりしている間に。

「だが、まだ気落ちするのは早い。第三騎士団は他の騎士団とは違う。元々が辺境の魔獣を専門に駆逐している者たちだ。無事に戻る可能性は高い」
「……うん。そうだよね」

 悪い方にばかり考えちゃだめだ。そうだ、じいちゃんがよく言ってた。

 ――不安は疑心を呼び、本物の厄を呼びよせる。それよりも、今自分に出来ることを考えろ。

 俺は大きく息を吸った。

「ごめん、テオ。悪い方にばっかり考えちゃだめだよな。あのさ、他の魔獣のことも教えてくれる?」

 テオは、じっと俺の目を見て頷いた。

「わかった。私が知る限りの魔獣について教えよう」

 その後しばらくして、俺たちは甲高い叫び声を馬車の中に響かせることになった。すぐ側を警護していた近衛たちが慌てて馬車を止める。涼しい顔をしたテオとは対照的に、今にも吐きそうな顔の俺たちに驚いて、部隊は休憩をとった。

「どうなさったんです、ユウ様? 馬車に酔われたんですか?」
「いや、酔ったのは馬車にじゃない。魔獣に……」
「魔獣?」

 木陰で座っていると、ぐったりした俺に驚いて、エリクが声をかけてくれた。自分も青い顔をしたレトがお茶を運んでくる。ミントみたいな香りのするお茶で、一口飲むと気持ちが落ち着いた。

 テオは自分が言った通り、次から次へと魔獣を見せてくれた。竜や動物系の魔獣の後に出たのは、巨大な昆虫や蜘蛛、ムカデやミミズに似た魔獣だった。大量のバズアが動くのも嫌だが、手や足がうじゃうじゃあるのも嫌だ。虫たちが苦手じゃなくても、デカいサイズになっただけでぞっとする。

「……ねえ、エリク。魔獣って色々いるんだね。俺、何もわかってなかった」
「私も王都勤務が長いので、辺境に赴くのは久しぶりです。第一や第二の中には全く辺境の経験がない者もいます。魔力が高い者ばかりを選抜しましたが、気を引き締めていかなければ」

 エリクは一時の休憩をとっている騎士たちを見渡す。決意を秘めた凛々しい横顔に見惚れてしまう。

「エリクはすごいなあ」
「ユウ様こそ」
「俺は別に……」
「この世界で生きる道をいつも前向きに考えていらっしゃる。私も見習わねばと思います」

 俺を見る瞳には優しさが溢れていて、ほんわりあったかい気持ちになる。いつの間にか、魔獣の気持ち悪さも忘れていた。
 再び出発した時、俺たちは魔獣の勉強は少しずつお願いしたい、とテオに申し入れた。また部隊を止めることになっては申し訳ない。



 日が暮れようとする頃に宿に到着した。だが、俺の想像とは全く違っていた。

「ホーレンエフ城、到着にございます」

 近衛の言葉でテオと共に馬車を降りて見上げたのは……城だ。王宮よりは断然小さいが、物語の中に出てくるような尖塔の付いた美しい城が目の前にあった。正面扉の前で、たくさんの人々が左右に分かれて深く頭を下げている。

「今宵はここに宿泊し、明日の朝出発する」

 エリクの言葉に、騎士たちがほっとしたような声を上げる。レトにこっそり囁いた。

「宿って……、旅人が泊まるような専門の宿屋があるんじゃないの?」
「ありますよ。商人や平民が泊まる宿もありますし、貴族相手の宿もあります。ただ、上流貴族や王族が旅をする時は、領地にある城や、通り道にある貴族の城に滞在します」

 成程、王太子であるテオがいる以上、その辺の宿屋に泊まりはしないのだろう。
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