忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う

空月 瞭明

文字の大きさ
42 / 75

第42話 救出 (2)

しおりを挟む
 鍵とランタンを手に、二人は地下への階段を降っていく。狭く傾斜の急な石の階段は冷たく暗かった。

「あなたもお人好しですね」

 一段一段下りながら、クラリスがそんなことを、ぼそりと言う。

「そうかい?」

 クラリスはひとりごちるように言った。

「ヴィルター殿が田舎に帰ってしまうと聞いて、殿下はこれからどうなってしまわれるのかと非常に心配でしたが、あなたが殿下のそばにいてくれるなら……」

 アルキバは、へえ、と意外に思ってクラリスを見やり、口元を綻ばせる。
 階段の突き当たり、地下室の扉前にたどり着いた。

「一番信用してる使用人は誰だって聞いたら、殿下はあんたを指名したぜ、クラリスさん」

 えっ、とクラリスはアルキバを見る。
 その瞳に様々な感情が去来したように見えたが、間をおいて顔を伏せ、

「そうですか」

 とだけ言った。クラリスは鍵を鍵穴に差し込んだ。扉は音もなく開かれた。

 中は、マットがむき出しのベッドと、箪笥が一つ置かれただけの、殺風景な部屋だった。

「ほら、誰もいないでしょう?満足していただけましたか」

「ちゃんと調べようぜ、せっかく来たんだから」

 アルキバは中に進み入った。ベッドの下を確認し、部屋の四隅を眺め渡す。

「リチェルはここで兄貴達に犯されたのか?」

 クラリスは目を見張る。人目をはばかるように、慌てて今入って来た扉を閉めた。
 その様子にアルキバは顔をしかめる。また、リチェルの妄想だと一笑に付されるかと思ったのに。

「『殿下の虚言』と言わないのか?」

 クラリスは心苦しそうに言った。

「ええ、それは本当です」

「知ってたのかよ」

 なんてことだ。ならば、なぜ。

「当時この館で働いていた者達は皆知っています。密かに『泣き声屋敷』と呼ばれていましたから」

「泣き声屋敷だと?」

「定期的にジルソン殿下とオルワード殿下がこの場所でリチェル殿下を陵辱し、その泣き声は階段の上、一階の廊下にまで聞こえてきました。いつ頃からか泣き声は聞こえなくなりましたが、陵辱は続いていたのだと思います。一年前、リチェル殿下が自殺未遂を起こし、王に白蘭邸を出たいと申し出た日まで……。以来、リチェル殿下は今のお屋敷にお引越しなさったのです」

 アルキバはまるで理解できなかった。なぜだ。

「なぜ、誰も助けなかった!」

「もちろん、助けようとした者は何人もいました。でも、ドアを蹴破ってリチェル殿下をお助けした者は数日後に不審死を遂げ、王に訴えた者たちは『虚言によって第一王子と第二王子を貶めようと謀った』という罪状で全員が処刑されました。ミランダス王妃のお口添えがあったのかもしれません。以来、誰もが見て見ぬ振りをしました。……私も」

「最低だ!あんたらは本当に最低な連中だ!」

 アルキバは心底からの軽蔑をこめて吐き捨てた。

「分かっております。私たちはリチェル殿下を見捨て、そのせいで殿下はあのようにお心を壊してしまわれた……。せめてもの償いに、私は生涯、リチェル殿下のおそばにお仕えしようと決めたのです」

「償いたいなら信じてやれ!壊れてねえんだよ、それでもリチェルは壊れてねえ!未来の王を見くびるな!」

 アルキバはどけ、と言うといきなり箪笥を蹴り倒した。箪笥は轟音を立てて倒れた。もうもうと埃が立つ。

「なっ、何を!」

「探す。絶対にヴィルターの母親が隠されている」

「そんなわけがないでしょう!この狭い部屋のどこにいると言うのです!」

 アルキバは箪笥の裏の壁を指の関節で叩いていく。ベッドは年季が入っているのに、箪笥だけ真新しいのが気になった。

 鈍い音が、途中、カンカンと高い音になる箇所があった。

「この壁、怪しいな」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...