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第1章 【異世界召喚】アグストリア城
第20話 王妃の重圧
しおりを挟むそんな悲しそうな顔するの、正直ずるいだろ。
王妃様がこんな事するのには、少なからず理由があるのは察した。だけど。
「王妃様は特別って、どういう」
「アオイ君。この国の次の国王って誰になると思う?」
俺の質問を遮る様に、王妃様が話を始めた。
「あ、えっと。フローラになるんですかね?あ、でもこの場合は女王様になるのか?」
「そう、本来ならね。でもこの国の仕来りでは、女王は認めていないのよ。そうなると?」
「そうなると……フローラと結婚する人が国王ですか……ん?」
いや、そうなると……それは無い。
「そう、このままいくと。次代の国王は……あなたよ。アオイ君」
ですよね――。だけど、流石にそれは無い。無理だって!
「でも、貴方は国王だなんて嫌でしょう?」
「嫌というより、無理ですよ。そんな器じゃないです。とてもじゃないですが、国民の為にとか……荷が重すぎます」
俺が国王に?何度考えても無い。いっそ宰相さんに丸投げですよ。
「もしもアオイ君がいやいや国王に。ってなったら、フローラはどう思うかしら」
俺がいつも嫌そうにしてたら……まぁいくらフローラが天使だったとしても、嫌われるだろうな。嫌われる前に、凄く悲しい思いをさせてしまいそうだな。
何か、自分が姫だったばっかりに!って、めちゃめちゃ自分を責めそうだ。
「きっと色々な意味で悲しむと思います。少なくとも喜ばないでしょうね……」
「うんっ、流石私の見込んだ人だよ。良くフローラの事分かってるんだねっ!ママは嬉しいよっ」
涙も出ていない目元を、指で拭う振りをして。でも、これって無理してる……よな。
「王妃様。どうしてそんな話を?さっきの行為と関係」
「関係はね、あるのよ…」
真面目な顔をして、話すべきかどうかを悩んでいるみたいだ。
「話して下さい」
ここまで来たら、聞く以外の選択肢は無いだろう。エッチな事も(一方的にだけど)しちゃった訳だし。
「分かった」
何回か深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。
「アオイ君は、フローラが生まれてから16年もの間に、何故兄弟が出来なかったんだろう。って思わない?」
「んー、それはタイミングとかですか?フローラが可愛すぎて、それどこでは無かったとか」
あの王様の事だから、暫く次の子は要らない!とか言ってそうだよな。フローラの事溺愛してるもんな…。まぁ、俺もあんな可愛い子が自分の娘だったら、溺愛してそうだな。子供居ないから分からないけど。
なんか、早くフローラに会いたくなってきたよ。
「ふふっ、アオイ君。今、フローラの事考えてたでしょっ。アオイ君はホントにフローラの事が好きなのねっ、自分の事の様にうれしいわっ」
何故バレた?
「顔に書いてあるわよっ」
王妃様は笑いながら「でも、目の前に女性が居るんだから、その人も大事にしないと駄目だぞ?」とか言って茶化してくるんだ。
いや、あんた人妻でしょ?
「ダグラはね……フローラを産んだ後から、私の事を女として見れなくなったのよ。フローラの母親として、そして国王である自分の妻として。でも、一人の女性としては……」
なにこれ。思っていた以上に重い話なんですけど……。
ただ、これって日本に居た時でも同じような話を聞いた事あるな。
うちの会社にも居たな。
やっと子供が出来て、いざ子育てしていく段階で、奥さんの事を女性として認識できないって言ってた上司が。
でも、奥さんだって性欲位あるし、夜のお誘いだってあったらしいけど……。起たなかったらしい。それから何をしても。精神的なモノだろうって事で、なるべくストレス無い様に生活して、勿論それには奥さんも協力してくれて……。薬まで処方してもらったのに、結果は駄目だったと。どうしても起たない。
でも、根本的に間違ってたらしくて、他の女性に対しては反応するって事だった。
それを知った奥さんは、自分のせいなんだと自分を責めて……。
まぁ、あまり良い終わり方では無かったそうだけど。
逆パターンもあるんだよな。
子供が出来てから、旦那を男として異性として見る事が出来なくなって、でも旦那としては奥さんとイチャ付きたい。でも、異性として見る事が出来ない。みたいな悪循環で、結局夫婦関係が成り立たなくなる。みたいな。
なるほどね。理解した。
「ダグラはね。私が知らないと思っている様だけど、女を連れ込んで楽しそうにしているのを分かってるの。知っているのよ。
あの人は、私に怒られるとか思って隠しているけど……。私の立場って何なのかしらね。口うるさいお母さん?それともセックスは出来ないけど、夫婦?それともお飾りの王妃?」
王妃様としても辛い立場って事なんだよな。
国の為には、後継ぎが必要だ。婿に来てくれる優良物件が現れるなら、女の子でもいいが、出来るなら男の子が欲しい。
だが、肝心の国王は、王妃様相手だと不能者になってしまう。それなのに、他の女と楽しそうにハッスルしていると……。あぁ、そりゃ駄目だ。
それに王妃はまだ国王の事を……。
「王妃様は特別って言うのは、世継ぎをつくる為に、国王以外の人と――って事ですよね。でも、それってあんまりだと思います。王妃様だけが辛い」
仮に王妃様が、他に好みの男性がいて……。って、好みの男性って言葉が薄っぺらく感じたのは初めてだな。
んで、その男性と子供を作る事が出来たとしてだ。その男性は、権力に取り付いたりしないだろうか。生まれてくる自分の子供を使い、好きな様に国を動かしたり、そんな野心はないだろうか。
考えれば考えるだけ問題が出てきそうだ。
人工授精とかの現代医学がこっちで使えるなら、どうにか出来るかも知れないけど。仮にそうして生まれた子供を、国王は愛せるのだろうか。
まぁ、そればっかりは分かりようもないんだけどさ。
だけどそんな時に、奇跡とも思える状況が訪れると。
「そう、そんな時にさ……現れたんだよ。
その人はね、権力に興味が無くて。そして娘であるフローラを大事にしてくれるって言うの。
仮にね、その人との子供なら、姉になるフローラだって可愛がってくれるんじゃないかと思うの。
そしてその人は、女神に力を授かりし英雄になるかも知れない。
それでね、その人……凄く優しいの……ねえアオイ君……私どうしたらいいかなぁ」
王妃様は静かに涙を流していた。この人はきっと、限界まで追い詰められていたんじゃないだろうか。
そんな中、フローラが倒れてしまい、しかも治療法が無いと来た。
その時の絶望感は計り知れない。
俺はそっと王妃様を抱きしめた。
背中をポンポンと優しく叩き、少しずつ大きくなる嗚咽と鳴き声が聞こえなくなるまで、王妃様の震える身体を抱きしめ続けた。
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