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第1章 【異世界召喚】アグストリア城 

第23話 出立の前に

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「唇がヒリヒリしてましたけど…もう平気そうですね」

 何処か愛おしそうに、フローラが自分の唇を軽く指でなぞる様に触る。

「あー、すまん。ちょっとキスし過ぎちゃったかな。…うん、腫れてはいないかな」

 フローラの唇を見たけど、問題は無さそうかな。

「えへへ、少し残念ですね」

 フローラ的には、キスをしていた証明というか名残の様なモノが消えてしまって残念。という事らしい。

 何それ、可愛すぎなんですけど。キスマークとか首筋に付けた方が良いかな?全身でも良いんだけど。

 いや、フローラこの子【自動回復】持ちだから、多分直ぐ治っちゃうな。唇の荒れも直ぐ治ったみたいだしな。

 しかし、何時間唇を合わせてたんだろう。体感だと4時間位?そりゃ荒れるでしょうよ…。もう治ったけど。

 いや、治って良かったよ。王様に見られたら何て言われるか…。まぁ、もう気付いているだろうけども。

 王様ね…ホント何考えてんだか。とりあえず今日の内に王妃様に伝えとかなきゃな。「許可がおりました」とか、変な感じだけども。それでも、王妃様あの人の心が少しでも楽になるなら良いのか…。子供作りましょう!っとか。普通に考えたら意味分からないな。人妻だし。しかも国王の…。

 はぁ…止め止め。悩んでも仕方ない。ここは異世界。日本とは違うんだ。郷に入っては郷に従えって便利な言葉があるじゃないか。

 良し!気分をスッキリさせよう!

「フローラ、一緒に朝風呂しようぜ」

 同級生を野球に誘う位軽いノリでフローラに言ったら、

「アオイ様、何だか手馴れてる感じがして、少し嫌です。その言い方」

 怒られました。

「はい、すみません」

 配慮が足りませんでした。ちょっと調子に乗りました。初々しさも大事だよね。

 その初々しさをいつまでも保つのは無理だけど、大事にしようって気持ちは無くさない様にしないとな。

 俺自身が適当な態度だと、いつか嫌われちゃうだろうし。

 そうなったら…悲しいなぁ。

「ふふっ、そんなに怒ってないですよっ。じゃあ…抱っこして連れて行ってください」

「お、おう。勿論」

 そんな会話を交わしつつ、フローラをお姫様抱っこで風呂まで連れて行き、仲良く汗を流した。

 さっきフローラは怒っていないって言ったけど、小さな棘の様に心の何処かに刺さったんだと思う。きっと何気無いそんな一コマでも気付けちゃったりする事もあるもんな。

 大切にしよう。気を付けよう。ホント。
 
「なぁフローラ」

「はい?なんでしょう」

「愛してるよ」

「…っ!……私もですよ…」

 とかそんな甘々なやり取りがあったとか無かったとか。


☆☆☆☆☆



 朝食の準備が出来たと、サリーが迎えに来た。

 連れて行かれたのは、横に10人位座れそうなテーブルがある広い空間だった。

 フローラが恐らく定位置であろう真ん中辺りに座ったので、俺はその隣に座った。

 何だろう。あー、これあれだ。結婚式に招待された時みたいな感じ。

 田舎者みたいにキョロキョロしていると、フローラに笑われた。いや、こんな経験あんまりないから。

 
 
 朝食は、白パンとコーンスープと何かの肉のサイコロステーキとサラダでした。美味いんだけど、これ何の肉だろう。牛とか居るのかな。こっちの世界。



 二人共食べ終わり、フローラは明日の準備があるって事で先に何処かに行った。

 あー…一人にしないでくれー…。とか思ってないよ?

 そんな俺に救いの手を差し伸べたのはサリーだった。

「国王様がお呼びでしたので、ご案内致しますが如何致します?もう少し此処でごゆっくりなさいますか?」

「王様が?それって急ぎじゃないの?」

 呼び出す位だから、早い方が良いんじゃないか?と考えていると。

「いえ、待たせて置けば良いんではないでしょうか」

「お、おう…。何か王様に当たり強くないか?」

 自分の国の王様だぞ?そんな態度でいいのか?侍女よっ。

「国王様は昨日もお楽しみ・・・・の様でしたので、放っておけば良いのです。(しね)ばいいのに…」

 死ねばいいのにって言わなかった?!不敬罪とかになっちゃうよ?!

 ってか、王様!バレてるよ!!お楽しみだったのバレてるよ!!

「と、とりあえず行こうかな。あ、案内してもらえる?」

「畏まりました。こちらです」

 そう言うとサリーは先導する様に、扉の方を手で示した。

 ここの侍女の情報網、こえーよ。


 

 案内してもらってる間に、世間話でもって感じでサリーに話しかけた。

「なぁ、サリーは王様に何かされたりしてんのか?」

 そう、あんなに敵意を出す位だから、もしかしたら王様に無理矢理されてたり…とか想像しちゃった訳で。

 するとサリーは立ち止まり、俺の方を向いた。

「アオイ様」

「は、はい」

 これはもしや、地雷踏み抜いたかな…。

「アオイ様が心配されている様な事はありません。ご安心下さい。私の身体はまだ綺麗・・・・です」

 なんでバレちゃうのかな?俺サトラレ・・・・スキルとか持ってんの??

「アオイ様は、素直なのか何なのか。顔に書いてありますよ」

 王妃様にも言われたな、それ。そんなに分かりやすいか?

「心配してくれたんですよね。ふふっ、有難う御座います」

「いや、俺、変な想像してたわ。すまん」

「いえいえ」

「でも、さっきまだ・・って言ったけど、何かあるのか?」

「耳聡いですね…。これは失言でした。特に意味はありませんよ?」

「なら良いけどさ。出来る事があったら言ってくれよ」

「そうですね…。でしたら、どうか王妃様のお望みを叶えて下さい」

「あーそれってもしかして?」

「はい。私は、あの不甲斐ない国王様のせいで、王妃様が苦しんでいるのを見ていられません。王妃様をお助け出来るのなら、この命」
「待て待てっ、命は捨てなくて良いから!」

 この侍女サリーは、王妃様に忠誠を誓っているって感じか。どちらかと言うと、心酔しているって感じだが。

「アオイ様がそう仰るなら。…最悪、国王様にこの身を差し出して、王妃様との事を直訴するつもりだったのですが。駄目なら刺し違えてでも…」

「いや物騒!自分の身体も命も大事にしようね?」

 侍女隊って言ったっけ?もしかして皆こうなのか?だとしたら、王様…まぁ頑張れ。

「私の心配など。それより王妃様をお願いしますね」

 そう言うと、俺に頭を下げた。

「…はぁ。分かったよ。だから、サリーも早まったまね・・はしないでくれよ」

「王妃様とアリア様が信じているのですから、私もアオイ様の事を信じておりますよ」

 頭を上げ、そう言って笑って見せた。

 そんなサリーの頭をポンポンと軽く撫でた。

「思っていたのですが…アオイ様は女たらしですよね」

「え、マジ?俺そんな風に見られてる?!」

「冗談です。さ、行きましょうか」

「えー…」

 俺に背中を向けて歩き出すサリーの頬が、少し赤かった事なんて気付きもしなかった。




☆☆☆☆☆




「おお、すまんな。態々」

 いや、王様あんたが呼んだんでしょうよ。

 俺はサリーに案内してもらって王様の私室に居る。サリーは「では、また」って言って帰って行った。

 俺も「おう、またな」と言って、頭をポンポンして見送った。

 サリーが何か言いたそうな目をしていたけど、ま、今はいいか。それより。

「お話があるとの事でしたが」

「そうだな。まぁ座ってくれ」

 王様と向かい合う形で椅子に座った。

「それでだな、まずこれを渡しておこうと思ってな」

 そう言って取り出したのは、布の袋だった。

 テーブルに置いた時に「ジャラッ」って聞こえたから、多分路銀なのだろうと直感した。

「この中に、金貨で20枚程入っている。これだけあれば、暫くは生きていけるハズだ」

 前に王様と色々話した時に、この世界のお金の話をしていた。

 まずこの国には、【銅貨】【銀貨】【金貨】【大金貨】【聖金貨】がある事。

 大体日本円に換算するとこんな感じだ。

【銅貨】100円
【銀貨】1,000円
【金貨】1万円
【大金貨】10万円
【聖金貨】1億円

 聖金貨だけぶっ飛んでるけど、そもそも、一般的には流通していないらしい。そりゃそうだ。

 1億の買い物ってなんだよ。

 王様が俺の為に用意してくれた金貨で約20万円分。

 宿も安い宿にすれば、3食付きで銀貨5枚程度らしい。

 普通に贅沢をしなければ、1か月位は心配要らない金額だ。

 早いとこ斡旋所ギルドで仕事を見つければ、問題は無いだろう。

「有難う御座います、とても助かります」

 素直にお礼を言っておこう。

「本当はもっと援助すべきなんだろうが、そんなに甘やかしてもアオイの為にならないだろうしな。後は自分でどうにかしてくれ」

「いや、十分ですよ。お気持ちだけで」

 用済みで消されなかっただけ随分マシだと思ってるからな。それに、自分で何とか頑張らないと、フローラとアリアに格好付かないからな。



 その後は、フローラの留学先(避難先?)の事を聞いたり、何かあれば城に来ても良いとお許しを得たり。何だかんだで、収穫のある話だった。

 まぁ、王妃様については聞けなかったけども…流石にね。



☆☆☆☆☆



 王様との謁見?を終えて、部屋を出ると、アリアがドアの前で立っていた。

「あれ、アリア。もしかしてずっとここに?」

「いえ、つい先ほど交代致しました。城の中を迷われては困りますしね」

「確かに。実はそんなに出歩いてないしな」

「ふふっ、そうですね。殆どが、フローラ様のお部屋でしたものね」

 そうなんだよ。この城の思い出と言えば、フローラの部屋だ。思わず「ただいま」って言いそうになる。

「まだ昼食迄時間がありますので、一度王妃様の所まで宜しいですか?」

「そうだな。頼むよ。どのみち話さなきゃだし」



 アリアの先導の元、直ぐに王妃様の部屋に辿り着く。

「王妃様、アリアです。アオイ様をお連れしました」

 アリアがノックをしてからそう言うと、返事が聞こえてきた。

「あ、アオイ君?入って入ってっ」

 友達みたいなノリだな。

「失礼致します」

 アリアがドアを開け、俺に入室を促す。

 俺が部屋に入ると、アリアが外に出ようとする。

「あ、アリアも居ていいよー?」

「いえ、しかし…」

 アリアが断ろうとするが、

「良いって。じゃないと、アオイ君食べちゃうぞ?」

「それは困ります……。はぁ。分かりました」

 観念したように、部屋のドアを閉め王妃様の方を向いた。

 え、なにこのやり取り。俺最高に気まずいんだけど?

「アオイ君、とりあえず座ったら?あ、アリアはどうする?ベッドにでも座る?」

 王妃様が椅子に座っていたので、空いている椅子は1つ。

「あ、アリア座る?俺立ってても大丈夫だし」

 侍女とはいえ、大切な女の子だ。自分だけ座るのは気が引ける。

「アオイ様、私なら慣れておりますので。お気遣い有難う御座います」

 そう言うと、俺を椅子に座らせ、その横にくっつく様に立った。

「あらぁ、仲良しなのね」

 王妃様が茶化すように言った。

「それはもう。深く愛し合っておりますから」

「えー、ズルいぃ!私も仲間に入れてよ!」

「お断りいたします」

 なんでこんなにバチバチしてるの?ねえ?

 俺はそのやり取りを見て、一人で焦った。

 すると…

「「ふふふっ」」

 二人して笑い始めた。

「王妃様、アオイ様が困っていますよ?」

「あははっ、ごめんねアオイ君。ビックリしたよね?」

 なんだ?なんだ?

「私とアリアって、いつもこんな感じなのよ。ねー」

「そうですね。分かりやすく言えば、大の仲良しと言ったところでしょうか」

「まじかー。焦ったー。いきなり修羅場なんだもん…」

 二人からしたら「してやったり」って感じだろうけど、こちらとしては冷や汗もんだよ。全く。

「ごめんねー、アオイ君。でもこの方がお話、しやすいでしょ?」

「いや、まぁそうなんですけど」

「じゃあさ、答えきかせてっ」

 王妃様は前のめりに俺の顔を覗き込む。

 あぁ、その際、胸が揺れるもんだから、ついつい見ちゃうよね…。擬音つけるなら、プルンプルンだもん。

「あの…結論から言いますと。その…宜しくお願いします…?で良いのかな」

「え、ホントに良いの?アリアは良いの?」

 王妃様は、アリアにも確認をとる。

「はい。フローラ様も同じ考えです。アオイ様との関係は、王妃様のお望み通りになりましたね」

「アリア~っ」

 王妃様は半分泣きながらアリアに抱き付いた。

「ごめんね。有難う…」


「良いんですよ。エマ・・様。何より、アオイ様もその御つもりだった様ですし」

 そう聞いた瞬間アリアを開放し、今度は俺に抱き着いて来た。 

 アリアが俺の方を軽く見る。あれ、睨んでる訳じゃないよね??

「アオイ君もごめんね。その代わり、沢山気持ち良くするからね!」

 お~いぃいいっ!爆弾ぶん投げて来たぞ!!

「いや、それは…ははっ…はい」

 何となく流れで返事しちゃったけど、どうしよう。気持ち良くしてくれるのか…。

 それより、俺の顔が王妃様のお胸で圧迫されて窒息しそうだ…。既に気持ちいい…。

「王妃様…そのへんにしておいて下さい。悪戯に未来の旦那様を誘惑するのはご遠慮ください」

 旦那様だって!やばい!何か嬉しいね!!って、やっぱり睨んでない?!睨んでるよね!!不可抗力だからね!

「ちぇー、分かりましたよー」

 渋々俺から離れ、王妃様は自分の椅子に座りなおす。

 俺は夢から覚めた様に我にかえった。

「じゃあさ、いつする?今からしちゃう?」

「あんたはあほの子か!」

 あ、ついつい本音が出てしまった…。

「あ、いや、すみません。ただ、もう少し時間を下さい。せめて、フローラ達と結婚出来る位の功績を立てるまで…とか」

「うん、いいよ!なに?アオイ君やっぱり【Sランク】になっちゃうの?私は程々でも別に気にしないよ?」

 俺が気にするんだよ!只のセフレになっちゃうでしょーが!

「流石に【Sランク】は厳しいかも知れませんが…。自分に自信が持てる位は何とかしたいんですよ」

「アオイ君は真面目だなー。でも、きっとそこが良いんだろうね」

「そうですね。そこには同意します」

 二人が何やら意気投合している。


「すみません。なんだか我儘言ってるみたいで…」

「そんな事ないよっ、ありがとね。アオイ君」

 そう言った王妃様の笑顔が酷く印象的だった。

「よし!じゃあ頑張って魔王でも何でも倒してきてね!」

「いや、それは無理だわ」





 そんな感じで、和やかな内に王妃様とのお話は終わった。

 とりあえず、城に寄る事があれば顔を出す事を約束させられた。

 侍女に声を掛ければいつでも会える様にするって言われたけど…。意外と王妃様って暇なのか?

 

 王妃様の部屋を出て、アリアと一緒に食堂みたいな所で昼食をとった。

「アオイ様。ここを出立する前にマール様の事をどうにか致しませんと。私としては、隷属させるのが最良かとは思うのですが…」

 マール!!忘れてた!!

「ごめん、すっかり忘れてた。どうしよう。俺、奴隷とか別に要らないんだけど」

「でしょうね。ですが、そういう訳にもいきませんから、一度マール様とお話頂くのが宜しいかと思います」

 グズリンとの一件で、マールは現状俺の所有物みたいな扱いだから、結局は俺に一任されている。 

 まぁ、アリアの言う通り、話してみないと何とも言えないもんな。本人が奴隷なんて望んでるハズ無いんだから、出来れば自由にしてあげたいんだよな…。

「分かった。とりあえずマールと話してみるよ。連れて行ってもらえる?」

「勿論です」

 そしてアリアに連れられてマールの部屋に向かうのだった。



 
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