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第2章 【異世界召喚】冒険者
第27話 【白い三日月】と【銀のかまど亭】
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「さて…とりあえずギルドが先か…宿屋が先か…」
そう考えながら、とりあえず街を散策する事にした。
馬車を止めた場所は、街と外を仕切っている門を入って直ぐの広場だった。乗り合いの馬車なんかもそこに停車していた。駐車場みたいな感じかな。
基本、何か無い限り門は空いているそうだ。といっても、この街自体は3m位の壁で覆われれいるらしくて、門を通らないと出入りは出来ない。
それに、一応見張りで警備してくれている兵士っぽい人達が居たな。ちなみに通行証とか身分証は要らなかった。
平和って事かな?やるじゃん王様。
路上はレンガ?みたいな石で舗装されていて、馬車がこの上を通っても激しく揺れなかったのは、この舗装のお陰だろう。
いやしかし、途中の街道っていうの?あれはヤバかった。
舗装されてない土の上、めっちゃ揺れるんだわ……。固いもの?に乗り上げた時とか、胃の中がやばかった。暫くはいいかな。
途中で何度停めてもらったか……。御免な、御者のおじさん。何度も休憩させてもらって。
まぁ、そのお陰で、普通なら1時間位で着く所を約3倍近く使ったんだけども……。
流石に、あの揺れは日本じゃ経験出来ないから、耐性なんてないよね。『健康』のスキルでどうにかならないんだな、乗り物酔いは……。
広場から延びる大きな道をとりあえず道なりに歩く。商店街みたいなイメージかな。平屋っぽい建物があちこちに建っている。その家に沿う様に、街の中心地に向かって出店の様な屋台が並んでいて、活気の良い声が聞こえてくる。
正直食欲は無いけど、興味はあるから見てみるか。
肉の串焼きだったり、魚の串焼き。野菜の串焼きだったり、果物の串焼き。って、串焼きばっかじゃねーか!!
他の食べ物は無いのかよ!この世界のファーストフードみたいなものかな。
屋台群を抜けると、十字路に出くわした。まぁこういう時は直進でしょう。
十字路を横断し、まっすぐ進むと2階建てや3階建ての家々が立ち並んでいる。正直店なのか住宅なのか分からないんだけど。
あー、一応店の場合は、看板が出てるみたいだな。
えーっと、これは雑貨。布団。服。あ、これは農具ね。狩り用具に、下着…。下着ねぇ…。
正直俺が知っている下着とは大きく異なるからな。どっちかって言うと、ありゃただの薄い布だ。ゴム素材が無いから仕方無いんだろうけどね。デザインとかも有って無い様なものだから、エロイ下着とか作ったら売れるんじゃないかな。貴族とかに。
俺は作れないけど。
そういえば、仕組みは分からないけどこの世界の文字が読めて良かった。いや、今更なんだけどね。
あ、ここは刃物が売ってるのか。鍛冶屋みたいなもんかな?外に空き樽が置いてあって、その中に無造作にこん棒みたいなやつとか、やたら長い木の棒とか入ってる。
店のドアが開いてるから、中をチラ見すると、両刃の剣やら、斧やらが飾ってあった。
「今度ゆっくり見に来よう」
独り言を言いつつ、道なりに進んだ。すると、宿屋を見つけたんだ。ベッドの絵に宿!って書いてある。
店の名前は…【白い三日月】って書いてある。
扉を開けて、とりあえず入ってみた。
「すみませーん」
そう言いながらドアを開け、宿屋の中を見た。
宿屋ってよりも、食堂?みたいな印象だった。受付カウンターがあって、丸椅子と丸テーブルが沢山並んでいる。
奥にある階段を上がったら部屋があるのかな。
「あ、はいはい。いらっしゃいませ。お泊りですか?お食事ですか?」
身長の高い白髪のおじいさんが出て来た。受付の人みたいだ。
「あ、どうも。宿を探していまして。その、あまり手持ちが無いので、一泊お幾らか伺っても?」
お金持ってますアピールは良くないと教えられたからね。御者のおじさんに。
「そうですか。当店は一泊金貨一枚ですね。冒険者様方が良くお泊りになるんですよ。食事は朝と夜でして、お酒は別料金となります。勿論、お食事だけのご利用も承ります」
嫌な顔をせずに、にこにこしながら教えてくれた。
しかし金貨一枚か、高いな。一か月持たずに一文無しになってしまうな。
「あー、すみません。そこまで贅沢できないので……」
俺が断ろうとすると、
「ちなみに……あまりお教えしていないのですが」
そういうと受付のおじいさんは、内緒話でもする様に顔を近付けて小声で話し始めた。
「当店は、あちらのご紹介も出来ますので、ご興味があれば是非。冒険者様は複数人でお部屋をご利用になられるのですが、あちらをご利用の場合は専用の別室をご用意致しますので、誰にも知られる事なくお楽しみ頂けます。勿論、別料金は頂きますが……」
何だと?!あちらって、あれの事だろう?!この受付、かなりのやり手だな。
既に俺の心は此処に留まろうとしている。
「成程……それはかなり魅力的ですね」
後日、このおじいさんと仲良くなってから教えて貰ったんだけど、普通の人はそこまで興味を示さないらしい。しかも所見で。殆どの利用者は、一旦興味の無い振りをして、夜にこっそり聞きにくるらしい。
いやいや……だって、興味あるでしょ?え?ない?
「そうでしょう?」
受付のおじいさんは満足そうに微笑みながら俺から離れた。
「あー、でも、これから冒険者になろうと思っているので……余裕が出来たらお世話になります!」
「ほほっ、成程。賢明ですな。では、未来のお客様、ご利用を心よりお待ちしていますよ」
そういって俺に軽く一礼してきた。
この人、実は良いとこの執事さんか何かじゃないのか?と疑う位、綺麗な所作だった。物腰も柔らかく、嫌な感じが一つもしない。
「はい、その時はお願いしますね!」
で、その後その受付のおじいさんに、懐に優しい宿を教えてもらった。
「え、良いんですか?そんな事教えて貰ってしまって」
競合他社の情報を教えて良い物なのかと思っていると、
「正直、ご利用の客層が違いますからね。未来のお客様には、是非とも頑張って稼いで頂いて、当店をご利用頂ければ誰も損はしませんからね」
だそうだ。出来た人と言うか……。まさか、罠か?
「それに、そう言った専門の店もありますが、やはり信頼関係がモノを言いますからね。信頼無くして、商売はできませんよ」
信頼できる宿屋……。良いじゃないか。とても。
俺は必ずここへ戻って来ることを心に誓い、涙を呑んで、宿屋を後にした。
そして受付のおじいさんの言う通りに歩き、その宿屋を見つけた。
【銀のかまど亭】
これ、ピザ屋さんか何かでしょうか?って名前だな。まぁ良いけど。
ドアを開けて、中に入った。
「いらっしゃーい、ちょっと待ってね!」
カウンターの奥の扉から声が聞こえてくる。
ここも受付カウンターがあって、椅子とテーブルが並んでいる。さっきの宿より、食堂っぽい。
食事ではなく、飲み物を飲みながら談笑している人達もいる。
当たり前だけど、異世界にも人が居るんだよな。と思った。
「お待たせさん!で、宿泊かい?食事かい?」
出て来たのは恰幅の良い、エプロンをした紫髪のおばさんだった。
おぉ…インパクトあるな…。地毛で紫ってこんな感じかぁ。
日本でもたまに見かける髪の毛を紫に染めたおばさんと、この宿屋のおばさんを無意識に比べてしまったが、地毛だとこんなにも違和感が無いのか!と驚いた。まぁ、顔立ちも日本人とは違って、何処か西洋の雰囲気だからなのかもしれないけど。
と、まぁそんな失礼な事は置いておいてだな。
「宿泊でお願いしたいのですが。部屋はありますか?」
ここで満室とか言われたら、さっきの宿屋に戻ろう、そうしよう。
「空いてるよ!1泊でいいのかい?」
あー、空いてたか。とか思って無いし。
「えーっと、出来たら暫くお世話になりたいのですが……30日位なんですけど」
「あら!長期ね!大歓迎だよ!あぁ、じゃあこっちに来ておくれ」
受付カウンターまで呼ばれた。
「あんた名前は?」
「あ、アオイです」
「はいよ。アオイね。観光かい?それとも冒険者かい?」
質問しながら、手元に置いてある紙にメモしている。
「これから冒険者になろうと思いまして」
「そうかいそうかい。んーそれじゃあ、前払いになっちまうけど大丈夫かい?」
「あ、はい。勿論です。お幾らでしょうか」
「一泊銀貨5枚で30日だからね。金貨15枚って所かね」
良かった!そんなに高くない!って、ここって王様が言っていた安い宿じゃないか?あの受付のおじいさん、ほんと良い人だったんだな。まじで感謝だな。
「お願いします!」
「はいよ。って、あんたお金何か持ってるのかい?」
そう言われて気付いたけど、俺手ぶらだったわ。
慌ててアイテムボックスから、王様から頂戴した布袋を出し手に取る。
「実は持ってたんですよー」
おばさんは驚いてたよ。そりゃもう声を無くす位。
そして少し近づいて小声で教えてくれた。
「あんた……、それは収納のスキルかい?人前で使うのは止めときな。いいかい?そのスキルは冒険者にとっては喉から手が出る程欲しいスキルなんだ。厄介事に巻き込まれる可能性は、出来る限り減らさないと生き残れないよ」
おばさんに言われてはっとした。正直そこまで考えていなかった。確かに、誰が何処で見ているか分からないし、日本と違って安全と言う訳でもない。脅されてとか、何がどうなるか分からないのだから、リスクは低い方が良い。
「確かにそうですよね。有難う御座います」
「あんた、どっから来たんだい?まるで田舎者みたいじゃないか。ここは荒くれ者みたいな冒険者も少なからず居るからね。気を付けるんだよ」
本気で心配されました。何だろう。今の所、さっきのおじいさんと言いこのおばさんと言い、親切過ぎだろう。泣きそう。
「はい、気を付けます……」
で、とりあえず金貨で15枚をカウンターに置いた。周りを確認して直ぐに残りを収納した。
「はい、確かに。じゃあ、一応説明したげようか。
まず、食事は1日に3食迄だよ。基本的には、このフロアで食べる事になる。
メニューはお任せになっちまうから、駄目な食材があったら先に言っておくれ。あと、勝手には出て来ないからね。食べたい時に声を掛けるんだよ。そこは注意しておくれ。
あぁそれと、手間賃さえ貰えれば、部屋まで運ぶことも出来るからね。
部屋は一人部屋だよ。連れ込むのは程々にしておくれよ。余りに頻繁だと追加料金を貰うからね。
風呂は無いからね。シャワーはこのフロアの、そうあの扉の奥がシャワー室だよ。1回銅貨3枚ね。
お湯が欲しければ受付に言っておいてくれれば、部屋まで持って行っていくからね。これは銅貨1枚だよ。
何か質問はあるかい?」
ちょっと早口だったけど、理解した。
「大丈夫です。有難うございます」
「これがアオイの部屋のカギだよ。あの階段を上って3階の一番奥の部屋だよ。あぁ、もうすぐ夕食だけど食べるかい?」
「はい、お願いします!」
「あいよっ」
そういって鉄で出来た鍵を俺に手渡し、おばさんはカウンターの奥に戻って行った。
俺は言われた通りに階段を上り、3階まで来た。木造の階段だが、しっかりした作りの様で、複数人で上り下りしてもビクともしなそうだ。
この宿は3階建てらしく、俺の部屋は最上階の角部屋って事か。
通路を奥まで進み、扉の前に立つ。鉄で出来た鍵穴に差し込み、開錠する。鍵を半回転させると「カチ」という音がした。
それでだ。気付いたんだけど、このドア…ドアノブが付いて無いんだわ。えー、どうやって開けんの??
とりあえずドアを押してみたら、すんなり空いた。で、中に入り、内側からドアを見ると、内側に引ける様に手すりが付いていた。
フローラの城は、ドアノブを捻ればドアが開くやつだったから何とも思わなかったけど…まさかここに来て異世界を感じる事になるとは…。
内側からも施錠出来る様になっていたので、とりあえず施錠しておこう。
試しにドアの手すりを引っ張ってみたけど、ドアが開く気配は無かった。意外と頑丈な様で安心したよ。
部屋の中は思っていたよりも広かった。まぁ、フローラの部屋と比べるのはアレだけども。
少し大きめのベッドがあって、小さなテーブルと椅子が1つずつ置いてある。
そして窓があって、開けてみると眼下には舗装された道が見え、それを挟んで向かい側には同じように3階建ての建物が見える。飛び移れるような距離では無いから、防犯上は安全だろう。
俺はベッドに座り、とりあえずこれからの事を考えるのだった。
そう考えながら、とりあえず街を散策する事にした。
馬車を止めた場所は、街と外を仕切っている門を入って直ぐの広場だった。乗り合いの馬車なんかもそこに停車していた。駐車場みたいな感じかな。
基本、何か無い限り門は空いているそうだ。といっても、この街自体は3m位の壁で覆われれいるらしくて、門を通らないと出入りは出来ない。
それに、一応見張りで警備してくれている兵士っぽい人達が居たな。ちなみに通行証とか身分証は要らなかった。
平和って事かな?やるじゃん王様。
路上はレンガ?みたいな石で舗装されていて、馬車がこの上を通っても激しく揺れなかったのは、この舗装のお陰だろう。
いやしかし、途中の街道っていうの?あれはヤバかった。
舗装されてない土の上、めっちゃ揺れるんだわ……。固いもの?に乗り上げた時とか、胃の中がやばかった。暫くはいいかな。
途中で何度停めてもらったか……。御免な、御者のおじさん。何度も休憩させてもらって。
まぁ、そのお陰で、普通なら1時間位で着く所を約3倍近く使ったんだけども……。
流石に、あの揺れは日本じゃ経験出来ないから、耐性なんてないよね。『健康』のスキルでどうにかならないんだな、乗り物酔いは……。
広場から延びる大きな道をとりあえず道なりに歩く。商店街みたいなイメージかな。平屋っぽい建物があちこちに建っている。その家に沿う様に、街の中心地に向かって出店の様な屋台が並んでいて、活気の良い声が聞こえてくる。
正直食欲は無いけど、興味はあるから見てみるか。
肉の串焼きだったり、魚の串焼き。野菜の串焼きだったり、果物の串焼き。って、串焼きばっかじゃねーか!!
他の食べ物は無いのかよ!この世界のファーストフードみたいなものかな。
屋台群を抜けると、十字路に出くわした。まぁこういう時は直進でしょう。
十字路を横断し、まっすぐ進むと2階建てや3階建ての家々が立ち並んでいる。正直店なのか住宅なのか分からないんだけど。
あー、一応店の場合は、看板が出てるみたいだな。
えーっと、これは雑貨。布団。服。あ、これは農具ね。狩り用具に、下着…。下着ねぇ…。
正直俺が知っている下着とは大きく異なるからな。どっちかって言うと、ありゃただの薄い布だ。ゴム素材が無いから仕方無いんだろうけどね。デザインとかも有って無い様なものだから、エロイ下着とか作ったら売れるんじゃないかな。貴族とかに。
俺は作れないけど。
そういえば、仕組みは分からないけどこの世界の文字が読めて良かった。いや、今更なんだけどね。
あ、ここは刃物が売ってるのか。鍛冶屋みたいなもんかな?外に空き樽が置いてあって、その中に無造作にこん棒みたいなやつとか、やたら長い木の棒とか入ってる。
店のドアが開いてるから、中をチラ見すると、両刃の剣やら、斧やらが飾ってあった。
「今度ゆっくり見に来よう」
独り言を言いつつ、道なりに進んだ。すると、宿屋を見つけたんだ。ベッドの絵に宿!って書いてある。
店の名前は…【白い三日月】って書いてある。
扉を開けて、とりあえず入ってみた。
「すみませーん」
そう言いながらドアを開け、宿屋の中を見た。
宿屋ってよりも、食堂?みたいな印象だった。受付カウンターがあって、丸椅子と丸テーブルが沢山並んでいる。
奥にある階段を上がったら部屋があるのかな。
「あ、はいはい。いらっしゃいませ。お泊りですか?お食事ですか?」
身長の高い白髪のおじいさんが出て来た。受付の人みたいだ。
「あ、どうも。宿を探していまして。その、あまり手持ちが無いので、一泊お幾らか伺っても?」
お金持ってますアピールは良くないと教えられたからね。御者のおじさんに。
「そうですか。当店は一泊金貨一枚ですね。冒険者様方が良くお泊りになるんですよ。食事は朝と夜でして、お酒は別料金となります。勿論、お食事だけのご利用も承ります」
嫌な顔をせずに、にこにこしながら教えてくれた。
しかし金貨一枚か、高いな。一か月持たずに一文無しになってしまうな。
「あー、すみません。そこまで贅沢できないので……」
俺が断ろうとすると、
「ちなみに……あまりお教えしていないのですが」
そういうと受付のおじいさんは、内緒話でもする様に顔を近付けて小声で話し始めた。
「当店は、あちらのご紹介も出来ますので、ご興味があれば是非。冒険者様は複数人でお部屋をご利用になられるのですが、あちらをご利用の場合は専用の別室をご用意致しますので、誰にも知られる事なくお楽しみ頂けます。勿論、別料金は頂きますが……」
何だと?!あちらって、あれの事だろう?!この受付、かなりのやり手だな。
既に俺の心は此処に留まろうとしている。
「成程……それはかなり魅力的ですね」
後日、このおじいさんと仲良くなってから教えて貰ったんだけど、普通の人はそこまで興味を示さないらしい。しかも所見で。殆どの利用者は、一旦興味の無い振りをして、夜にこっそり聞きにくるらしい。
いやいや……だって、興味あるでしょ?え?ない?
「そうでしょう?」
受付のおじいさんは満足そうに微笑みながら俺から離れた。
「あー、でも、これから冒険者になろうと思っているので……余裕が出来たらお世話になります!」
「ほほっ、成程。賢明ですな。では、未来のお客様、ご利用を心よりお待ちしていますよ」
そういって俺に軽く一礼してきた。
この人、実は良いとこの執事さんか何かじゃないのか?と疑う位、綺麗な所作だった。物腰も柔らかく、嫌な感じが一つもしない。
「はい、その時はお願いしますね!」
で、その後その受付のおじいさんに、懐に優しい宿を教えてもらった。
「え、良いんですか?そんな事教えて貰ってしまって」
競合他社の情報を教えて良い物なのかと思っていると、
「正直、ご利用の客層が違いますからね。未来のお客様には、是非とも頑張って稼いで頂いて、当店をご利用頂ければ誰も損はしませんからね」
だそうだ。出来た人と言うか……。まさか、罠か?
「それに、そう言った専門の店もありますが、やはり信頼関係がモノを言いますからね。信頼無くして、商売はできませんよ」
信頼できる宿屋……。良いじゃないか。とても。
俺は必ずここへ戻って来ることを心に誓い、涙を呑んで、宿屋を後にした。
そして受付のおじいさんの言う通りに歩き、その宿屋を見つけた。
【銀のかまど亭】
これ、ピザ屋さんか何かでしょうか?って名前だな。まぁ良いけど。
ドアを開けて、中に入った。
「いらっしゃーい、ちょっと待ってね!」
カウンターの奥の扉から声が聞こえてくる。
ここも受付カウンターがあって、椅子とテーブルが並んでいる。さっきの宿より、食堂っぽい。
食事ではなく、飲み物を飲みながら談笑している人達もいる。
当たり前だけど、異世界にも人が居るんだよな。と思った。
「お待たせさん!で、宿泊かい?食事かい?」
出て来たのは恰幅の良い、エプロンをした紫髪のおばさんだった。
おぉ…インパクトあるな…。地毛で紫ってこんな感じかぁ。
日本でもたまに見かける髪の毛を紫に染めたおばさんと、この宿屋のおばさんを無意識に比べてしまったが、地毛だとこんなにも違和感が無いのか!と驚いた。まぁ、顔立ちも日本人とは違って、何処か西洋の雰囲気だからなのかもしれないけど。
と、まぁそんな失礼な事は置いておいてだな。
「宿泊でお願いしたいのですが。部屋はありますか?」
ここで満室とか言われたら、さっきの宿屋に戻ろう、そうしよう。
「空いてるよ!1泊でいいのかい?」
あー、空いてたか。とか思って無いし。
「えーっと、出来たら暫くお世話になりたいのですが……30日位なんですけど」
「あら!長期ね!大歓迎だよ!あぁ、じゃあこっちに来ておくれ」
受付カウンターまで呼ばれた。
「あんた名前は?」
「あ、アオイです」
「はいよ。アオイね。観光かい?それとも冒険者かい?」
質問しながら、手元に置いてある紙にメモしている。
「これから冒険者になろうと思いまして」
「そうかいそうかい。んーそれじゃあ、前払いになっちまうけど大丈夫かい?」
「あ、はい。勿論です。お幾らでしょうか」
「一泊銀貨5枚で30日だからね。金貨15枚って所かね」
良かった!そんなに高くない!って、ここって王様が言っていた安い宿じゃないか?あの受付のおじいさん、ほんと良い人だったんだな。まじで感謝だな。
「お願いします!」
「はいよ。って、あんたお金何か持ってるのかい?」
そう言われて気付いたけど、俺手ぶらだったわ。
慌ててアイテムボックスから、王様から頂戴した布袋を出し手に取る。
「実は持ってたんですよー」
おばさんは驚いてたよ。そりゃもう声を無くす位。
そして少し近づいて小声で教えてくれた。
「あんた……、それは収納のスキルかい?人前で使うのは止めときな。いいかい?そのスキルは冒険者にとっては喉から手が出る程欲しいスキルなんだ。厄介事に巻き込まれる可能性は、出来る限り減らさないと生き残れないよ」
おばさんに言われてはっとした。正直そこまで考えていなかった。確かに、誰が何処で見ているか分からないし、日本と違って安全と言う訳でもない。脅されてとか、何がどうなるか分からないのだから、リスクは低い方が良い。
「確かにそうですよね。有難う御座います」
「あんた、どっから来たんだい?まるで田舎者みたいじゃないか。ここは荒くれ者みたいな冒険者も少なからず居るからね。気を付けるんだよ」
本気で心配されました。何だろう。今の所、さっきのおじいさんと言いこのおばさんと言い、親切過ぎだろう。泣きそう。
「はい、気を付けます……」
で、とりあえず金貨で15枚をカウンターに置いた。周りを確認して直ぐに残りを収納した。
「はい、確かに。じゃあ、一応説明したげようか。
まず、食事は1日に3食迄だよ。基本的には、このフロアで食べる事になる。
メニューはお任せになっちまうから、駄目な食材があったら先に言っておくれ。あと、勝手には出て来ないからね。食べたい時に声を掛けるんだよ。そこは注意しておくれ。
あぁそれと、手間賃さえ貰えれば、部屋まで運ぶことも出来るからね。
部屋は一人部屋だよ。連れ込むのは程々にしておくれよ。余りに頻繁だと追加料金を貰うからね。
風呂は無いからね。シャワーはこのフロアの、そうあの扉の奥がシャワー室だよ。1回銅貨3枚ね。
お湯が欲しければ受付に言っておいてくれれば、部屋まで持って行っていくからね。これは銅貨1枚だよ。
何か質問はあるかい?」
ちょっと早口だったけど、理解した。
「大丈夫です。有難うございます」
「これがアオイの部屋のカギだよ。あの階段を上って3階の一番奥の部屋だよ。あぁ、もうすぐ夕食だけど食べるかい?」
「はい、お願いします!」
「あいよっ」
そういって鉄で出来た鍵を俺に手渡し、おばさんはカウンターの奥に戻って行った。
俺は言われた通りに階段を上り、3階まで来た。木造の階段だが、しっかりした作りの様で、複数人で上り下りしてもビクともしなそうだ。
この宿は3階建てらしく、俺の部屋は最上階の角部屋って事か。
通路を奥まで進み、扉の前に立つ。鉄で出来た鍵穴に差し込み、開錠する。鍵を半回転させると「カチ」という音がした。
それでだ。気付いたんだけど、このドア…ドアノブが付いて無いんだわ。えー、どうやって開けんの??
とりあえずドアを押してみたら、すんなり空いた。で、中に入り、内側からドアを見ると、内側に引ける様に手すりが付いていた。
フローラの城は、ドアノブを捻ればドアが開くやつだったから何とも思わなかったけど…まさかここに来て異世界を感じる事になるとは…。
内側からも施錠出来る様になっていたので、とりあえず施錠しておこう。
試しにドアの手すりを引っ張ってみたけど、ドアが開く気配は無かった。意外と頑丈な様で安心したよ。
部屋の中は思っていたよりも広かった。まぁ、フローラの部屋と比べるのはアレだけども。
少し大きめのベッドがあって、小さなテーブルと椅子が1つずつ置いてある。
そして窓があって、開けてみると眼下には舗装された道が見え、それを挟んで向かい側には同じように3階建ての建物が見える。飛び移れるような距離では無いから、防犯上は安全だろう。
俺はベッドに座り、とりあえずこれからの事を考えるのだった。
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