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第2章 【異世界召喚】冒険者
第53話 昇格祝い。
しおりを挟む「おう、お疲れさん。とりあえずさっき預けた肉串出してみろ」
リンダさんと所長さんが先に退出した後、レオニードさんにそう言われた。
「あ、そう言えばすっかり忘れてましたね」
アイテムボックスからさっきの肉串を取り出し、レオニードさんに手渡した。
「成程なぁ」
何が「成程」なのかは分からないけど、とりあえず納得したらしい。
レオニードさんは肉串を数秒で食べ終わると、残った串を自分のバックパックにしまった。
「んぐっ……っと、外で食うから美味いんだよな。こういうのってよ」
「いや、分かった事はそれですか?」
多分そんな事なら検証しなくても分かるだろうに。
「あぁ?違う違う。お前の収納の性能がどんなもんか知りたかったんだよ」
ほう、性能とな?
「取り出した肉串は熱々だった。つまり……そう言う事だ」
「あっ!成程!これってもしかして、外での食料の心配ないって事ですね!」
「そういうこった。こりゃますます他人には知られたくねーな」
熱々の料理をアイテムボックスにしまって置けば、外でも熱々の料理が食べられると!
いや、少し考えたら気がつきそうなもんだけど、実際にやってみないと分からないもんな。今日だって外に出て無かったら、そんな事考えもしなかったよ。
「これが公になった時は、リンダが危ない。そこんとこ注意しておけ。人質にでも取られたらお前は動けねぇだろ」
「あ……はい。気を付けます」
確かに、リンダさんを人質になんかされたら目も当てられない。何か考えないとな……。
「まっ、今気にしても仕方ないからよ。とりあえず今日はお前の昇格祝いって事で、どっか飲みにでも行くか」
「あー、そうですね――」
「なんだ、随分歯切れがわる――……そうだな、リンダと所長も連れて行こう」
「ちょっ!なんでそうなるんですか!」
リンダさんと2人でお祝いしようとか思ってたのに!
これはあれか?嫌がらせなのか?!
「そんなに心配すんなよ、飲んだ後は勝手にすりゃいいんだからよ」
「いやまぁそうなんですけどね」
「ほら、リンダが所長と俺と一緒に居るのをみたら、おいそれと手出しは出来ねぇだろ?つまりそういう事だよ」
「レオニードさん……」
俺はこの人の事を、少し勘違いしていたかも知れない。こんなに先々の事まで考えてくれているなんて!
「うっし!そうと決まれば早速行くか!」
「はい!行きましょう!」
そうして俺はリンダさんに声を掛けに向かった。
レオニードさんが所長に圧力を掛けたお陰で?リンダさんも予定より早く仕事を切り上げる事が出来た。のだけど……。
☆☆☆☆☆
「はっはっはっ!なんだアオイ!まだ手も出してないのか!はっはっはっ」
「ちょ!良いじゃ無いですか!そんな事!」
「おい、リンダ。ホントにこんな奴で良いのか?ヘタレだぞ?」
ヘタレちゃうわ!
「えっと、その……そうですね」
「リンダさん困ってるじゃ無いですか!」
レオニードさんが俺とリンダさんを弄ってくるんだわ。
「おい、レオニードよ、その辺にしておけよ。可哀そうだろ?まぁ、俺なら専属になったその日にお願いするけどな」
所長がそんな事言っちゃ駄目でしょうが!!
何のお願いだよ!つーか、それこそ只やりたいだけじゃないか!
「はぁ……。何かすみません、リンダさん」
とりあえず隣に座っているリンダさんに謝った。
俺達は、レオニードさんの行き付けだと言う酒場にやって来ている。
大衆酒場って感じで、周りにも沢山の客が居て、正直うるさい。ガヤガヤし過ぎ。
とりあえず飲みたい!食いたい!を具現化した様な店で、出てくる料理の量の多さと言ったら……。
でもまぁ、たまにはこういうのも良いのかも知れないな。
ふと会社の忘年会を思い出してしまうな。
俺が務めていた会社も例外なく「忘年会」なる強制参加イベントが発生していた。
そんなに酒が飲みたい!ってタイプでも無いから、何となく食べて飲んでして……そう言えば去年の忘年会の時は、新人の沙織ちゃんが一人でつまんなそうにしていたから話しかけたんだよね。
あれで少し仲良くなって、職場でも少し話す様になったんだけどな――……。
もしかして、もう少し仲良くなったら付き合えたかも?!
……無いな。
沙織ちゃん、可愛いから結構モテてたもんな。
特にあの低身長から繰り出される巨乳の破壊力。あれは凄まじかったな。茶髪のボブで、幼い顔がさらに引き立って……。
「アオイさん?」
「あ、はい?何でしょうか」
いかん、完全に旅立ってた。しかもリンダさんが横に居るのに、他の女の子の事考えるなんて。
まぁ、過去の話だ。ここは異世界。
「いえ、何か考え事ですか?」
心配そうに俺の顔を覗き込むリンダさん。可愛い。
あれだ、キスしちゃったから余計に意識しちゃうやつ。
好きかもって思ったら最後、やっぱり好きだってなるまでに時間はかからないよね。
「遅くなりましたが、昇格、おめでとう御座います!でも、いきなり【Cランク】推奨の魔物を倒すなんて……。生きて帰って来れたから良い様なモノの、気を付けて下さいね」
「あ……はい、すみません。気を付けます」
「今回はレオニードさんが一緒でしたからまだ良いですが……。心配……するんですからね?」
おぅっ。そんな潤んだ瞳で見つめないで下さい。それはズルいっす。
「おう、お前、満更でも無いんだろ?さっさと連れて帰れよ。俺達はまだ飲んでくからよ!」
「そうだな。まぁ、リンダもたまにはリフレッシュがてら、羽根を伸ばして来ると良い」
いや、旅行に行く訳じゃ無いんだから、その表現は違うと思うぞ?所長。
「二人共、絡みすぎですよ。リンダさんが困っちゃうじゃ無いですかっ」
これは所謂セクハラになるんじゃないのか?!いや、こっちの世界にそんなもん無いか。
「……み……んか」
「おい、嬢ちゃんが何か言ってるぞ」
リンダさんが何か言ってる様だけど、周りの喧騒と小声過ぎて、誰も聞き取れなかった。
「え、リンダさんなんですか?」
どうしよう、少し酔っちゃったかな。
「どうしたリンダ。もう一度言ってくれ」
所長も聞き取れなかったらしい。
リンダさんは一度深呼吸をし、それから……。
「あ、明日っ、お休み頂けませんか!」
その瞬間、さっきまでの喧騒が嘘の様に静かで、リンダさんの声が響き渡った。
こういう時に、タイミング良く何故か周りが静かな時ってあるよね。あれの現象に名前を付けたいよ、俺は。
「お、おう……。そうだな。良し!明日は特別に休暇をやろう。ゆっくりすると良い」
所長がそう言った瞬間、それを聞いていた周りのお客から歓声が沸き上がった。
「おー!所長が休暇出したぞ!すげーな、あの嬢ちゃん!」
「ギルドの職員だろ?あれは将来かなり有望なんじゃないか?」
「所長のお気に入りだ、絶対に変な真似するんじゃねーぞ。いいか!」
「いやー!珍しいもんが見れたわ。こりゃ今日は酒が美味いぞ!おーい!酒追加だ!」
……いや、何だこれ。どうしたんだ一体。
「あー、そうか。お前は知らないだろうが、このバルトは認めたヤツにしか休暇を認めない事で有名なんだ」
何それ、ブラック企業も真っ青だよ!漆黒企業だよ!
「良くも悪くも、有名になっちまったな」
「ははは、いや……すまん」
「いや、もう仕方ないんで良いんですけどね」
「あのアオイさんっ」
リンダさんも、まさか休暇を貰えるとは思っていなかったらしく、動揺しているみたいだ。
「おい、お前さっさと嬢ちゃんを連れて他の店に行くなりした方が良いぞ。祭りに巻き込まれるぞ、こりゃ」
俺達の周りに居た客たちは、こっちを見ながら「あーでもない、こーでもない」と言っている。確かにこのまま留まるのは愚策の様だ。
「分かりました。じゃあ、俺達行きますね!また明日……はリンダさん居ないから、明後日ですね!宜しくお願いします!」
俺はそう言って、半ば強引にリンダさんを連れて飲み屋を後にした。
そして、たどり着いたのが【白い三日月】だった……。
「これはこれは……本日は宿泊で宜しいですかな?」
ハルバードさんは俺がリンダさんを連れて来た事に、一瞬だけ目を細めていた。が、話さなくても何となく事情を察してくれた様だった。
って、絶対何か勘違いしてるよね?!酔わせて連れ込んでる訳じゃ無いからね!
「あ、あの……お世話になります。すみません」
そう言って、割かし豪華な部屋に案内されるのだった。
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