恋愛物語り。

闇猫古蝶

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珈琲

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二人で迎えた初めての朝。

口に含んだミルク無しの珈琲は、私達の関係のように苦かった。

「おはよう」

眠たそうに瞼を持た上げた貴方は、とろんとした目で私を見つめてくる。

「おはようございます」

体を起こした貴方は、雑にワイシャツを羽織っただけの私の腰を引き寄せた。

「…なぁ」

甘い声で囁かないで。

「好きだよ」

蕩けそうな熱に支配されてしまう。

「だから…」

「奥さん、帰ってきちゃいますよ」

私には、許されていないのに。

「そう、だな」

悪い、と謝る貴方に胸が痛む。

それでも、と言って欲しかった…なんて。

望みすぎてはいけないとわかっているのに。

何も望めないのは、悲しい。

ベッドの周りに脱ぎ捨てられた制服と下着は、一つだって置いてはいけない。

ばれてしまったら、終わり。

私がここにいた証は、貴方と過ごした夜は、どこにも残らない。

何も刻めないのは、辛い。

でも。

こんなに悲しくて辛くても、私は貴方が大好きなんだ。

馬鹿みたい、そんなことわかってる。

「…また」

ああ、二人の姿が元に戻る。

貴方はスーツに、私は制服に。

何事もなかったかのように

「学校でな」

ただの

「はい、先生」

教師と生徒に。
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