恋愛物語り。

闇猫古蝶

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最期。

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ひとつ、ふたつ、みっつ。

今ある後悔を指折り数える。

よっつ、いつつ、むっつ。

キリがないから、希望を数えることにする。

………

そうして、ようやく思考を止めることができた。

ああ、そうか。

悲しい人生だったとは言わないけど、後悔だらけなんだ。

楽しいことも、もちろんたくさんあった。

あったけど、今はもうぼやけてしまって、上手く思い出せない。

きっと、一人二人と先に退場した彼等が、僕の中から思い出として持っていったのだろう。

ひとり、ふたり、さんにん。

懐かしい顔が周りを囲う。

よにん、ごにん、ろくにん。

まだまだ彼等は増えていく。

しちにん、はちにん、くにん。

温もりを宿さない手が、僕を空へ押し上げる。

ふわふわと宙に浮く感覚。

春の陽気を彷彿とさせる風。

このまま身を任せようか。

目を閉じれば浮かぶ、幸せな日々。

いつも、傍にあったのだ。

思い出の中だけじゃない、幸せが。

僕の右手を握ってくれているのは?

僕の名前を呼んでいるのは?

わかるはずだ。

はやく、思い出さなければ。

かろうじて開いた、重たい目蓋の隙間からは、たしかに見えたものがあった。

ひとつ、ふたつ、みっつ。

ぽたぽたと零れる涙を数える。

よっつ、いつつ、むっつ。

そんなに泣いたら目が腫れてしまうよ。

ななつ、やっつ、ここのつ。

『生きて』

『ありがとう』

『待って』

『いかないで』

嗚咽に混じって聞こえる声は濡れている。

私は、もう、留まれない。

それでもどうか、といるはずもない神様に願う。

一度だけ奇跡を、と。

私は精一杯、抗うように手を伸ばした。

そうして、君の細い指先に触れる。

『最後まで護れなくて、ごめん』

一番の後悔を宿した言葉は、きっと声になっていなかった。

それでも、きっと伝わってしまったのだろう。

『あなた…』

最期に見たのは、更に顔を歪めた君の姿だった。

不器用でごめん。

笑顔にさせてやれなくてごめん。

謝罪ではなくて、もっと言わなければならない言葉があった。

遅くなってしまったけれど、僕は君を愛し──




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