恋愛物語り。

闇猫古蝶

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雨待つ花魁

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″わっちを攫ってくんなまし″

″雨の降る日に、君を迎えにこよう″

貴方様は覚えていんすか?

わっちを攫う約束を交わした、春の夜のことを。

傾けた盃に落ちた桜の、儚い桃色を。

わっちは、ただの一夜も忘れたことはありんせん。

何度雨が降っても、わっちを攫いにはこない貴方様を…まだ待ち続けていんす。

どなたに抱かれ、どなたに愛撫されても、貴方様の手じゃありんせんので…わっちは悲しいのでありんす。

ねぇ、貴方様?わっちはいつになれば、幸せな「未来」を見れるのでありんしょう。

いっそこなたのまんま、男にみせた夢の中で、眠り続けんしょうか。

期待なんてすることもなく、わっちは身を捧げるだけにして。

諦めたいのに、諦めらりんせんのは、どうしてかわかりんすか?

貴方様を心から慕っているからでありんす。

わっちは花魁だといわすのに、愚かにも忘れていんした。

ここでの交わりは一夜のみ。

信じる方が馬鹿だといわすのでありんしょう。

ああ、見ていんすか?

今日も雨が降っていんす。

紫陽花が濡れて、色とりどりの傘が揺れてありんす。

ねぇ、もしやあれは貴方様ではありんせんか?

違うなんてわかってありんすのに、貴方様に似た背を、無意識に目で追っていんした。

今日も、明日も、明後日も。

これからもずっとそうしてしまうのでありんしょう。
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