婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです

kosaka

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 すべて話すと言ったアルベルト殿下は、約2年前に王都で起きた感染症事件のことを語り始めた。


 今から2年前に王都に住む国民の間で、ある病が蔓延するようになった。


 原因不明の頭痛、めまい、吐き気。
 死者は出ておらず、死に至るような症状でもないが、年齢、性別問わず、同じ症状を訴えた。規模が大きかったことから、それは感染症であると判断され、王都は一時封鎖。
 王家、王国騎士団、国家役職についている貴族達も問題解決の為注力することとなった。


 私はアルベルト殿下の話を聞きながら当時を思い出す。
 王都の感染症。よく覚えている。私達が通う学園も王都にあるが、その時は町に出ることは禁止され、学園の寮に隔離状態となった。
 たしか2か月程で落ち着いたが、結局、現在にいたるまでその原因はわからないままだ。
 役職に着いていた父は対応にあたる為に王都と領地を何度も往復することになっていた。

 最終的にはコーネリアス公爵と王国騎士団、王国騎士団所属の医師たちが中心となって収束させた。
 ……何故今その話をされているのかは、わからないが……。


「……よく覚えています。最終的にはコーネリアス公爵率いる王国騎士団が中心となって解決してくださった件ですよね?……事態は収束しましたが、未だ原因は不明のままとなっている…。それが今日のことに、私達に関係があると…?」
「…ああ、関係がある。皆には伏せられていたのだが、あれは感染症ではない。……特定の成分を使った、毒物による症状、事件だったんだ」
「え」
「対応にあたっていた王国騎士団がすぐに感染症ではなく毒物による症状であると気付き、早急に対応した為、それ以上被害を増やすことなく収束させられたのだが……事態収束後、王家に匿名で密告があった」
「密告?」
「この王都での感染症は、サーラント公爵家エルメア嬢が引き起こした毒物事件だ、とな」
「わ、私が…?」

 私は絶句した。毒物を用いた事件であることも、それの犯人とされていたこともだ。
 私の悪い噂が流れ始めたのは、ここ1年でのことだと思っていた。2年前から悪名が……?しかも感染症、いや毒物事件を引き起こした犯人??
 そんなテロリストの疑いかけられてたってこと……?
 さっき殿下は、私を殺さない、国外にも出さない、ずっと共にいるって言ったのは、国内で無期懲役にするってこと?
 つ、詰んでる……。


「……私が国民に毒物を使った極悪人……無期懲役……」
「エルメア、君を疑ってるわけじゃない。無期懲役にもならない」
「ではなぜ今その話を?……私が疑われているからでは?」
「……その疑いを晴らすために、今日まで動いていた」
「疑いを晴らすため……?」
「あの時、毒物事件だと知っていたのは、陛下と私、コーネリアス公爵、一部の王国騎士団のみ。詳細がわからない内は混乱を招くと、事実については伏せられた。
 そこにその密告書が届いた。私はもちろんだが、陛下もコーネリアス公爵も、君が本当に犯人だとは思っていなかったよ。やる意味がない。サーラント公爵もだ。
 ……その匿名での密告をした者が犯人で、君を陥れようとしていると皆考えていた。だから最初は、君個人やサーラント公爵家に恨みを持っていそうな人間達を調べたんだが、全員シロだった」


 貴族である以上、人から恨みを買うこともあるのだろうと思っていたが、ここまで恨まれてるなんてある?
 というか、学園での噂なんてかわいいものでは?悪役令嬢だとこんなことになるの?


「……その後も調査が続けられ、私達が学園最後の年を迎える直前、実行犯が捕まった。……その者は尋問の際に、サーラント公爵令嬢から指示をされ、王都の井戸に毒物を入れたと証言をした」


 ……終わった……無期懲役……。


「……絶望的な顔をするんじゃない。
 その証言を無視する訳にもいかず、王国騎士団によって調査が行われた。そして、その実行犯と君との関係が出てきた」
「……え……それはどなたです?!」
「……この者だ」


 そう言って私の目の前に一人の男の絵が出された。
 誰だ、知らない……と思ったが、どことなく見覚えもある。


「……見覚えはあります。でもどこのどなたかまでは…」
「だろうな。……君が友人達とよく訪れていたカフェで給仕を行っていた人間だ」
「……ああ!あの店の!いやでも話をしたこともありませんが…」
「ああ、わかってる。でも君が実行犯である給仕の男と話をして何かを渡していたのを見たという証言も出てきたんだ」
「そんな……」
「……実行犯が捕まった後に、また新たな密告書が届いた。実行犯はサーラント公爵令嬢の名を挙げ、彼女の目撃情報も出ていることを知っている。このまま彼女を野放しにするならば、王家は後悔することになる、と」


 もう、これは本当の意味で国外追放されてもおかしくないほどの罪では?殿下寵愛の伯爵令嬢をいじめていたことより、重大では?
 さっき疑いを晴らすために動いていたって言ってくれたけど、結局私が犯人の証拠が出てきたから、だから殿下はパーティー会場でしきりに罪を私に説明させたがってたってこと?


「疑いを晴らすために動いてくださっていたけれど、私がやったという証拠が出てきたから、殿下は私を糾弾されたのですか……?殿下が卒業パーティーで私に言わせたかったのは、このことですか?」

「……すまない、説明していなかったな。今日の婚約破棄も、君を糾弾したことも、今までのマリアベル嬢との関係も、この事件を解決する為に私が始めたこと、すべて犯人を引きずり出すために行っていた芝居なんだ。
 だから私もコーネリアス公爵も、マリアベル嬢も、君が無実なことを知っている。……マリアベル嬢は君が毒物事件の犯人ではないことを証明する為、共に動いてもらっていたんだ」


 つまり、つまり………どういうこと??
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