婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです

kosaka

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「えっと……すべて芝居だったと……?」
「ああ、……実行犯以外の情報が何も出てこないまま、私達が学園最後の年を迎えた時に、新入生として入ってきたマリアベル嬢に声をかけられた。……サーラント公爵家のエルメア嬢が王都で起きた感染症事件、毒物事件の犯人にされそうになっていることを知っている。犯人を捕まえる為に、協力させてもらえないか、と」
「マリアベル嬢が……?どういうことです?」
「最初は信用できなかった。何故毒物事件であることを知っているのか、マリアベル嬢こそが、真犯人なのだと私もコーネリアス公爵も考えていた。詳細に話を聞くため日を改めたんだが、その際彼女はある証人を連れてきた。彼女の母親だ」


 一体、何がなんだか……。すべて芝居だったことも、アルベルト殿下もマリアベル嬢も私の為に動いていたということも、それ等全部の情報が私が知らない情報で、頭割れそう。



 マリアベル嬢の母、アルマ殿は自分がしたすべてのことを語った
 モーブ伯爵の愛妾だったアルマ殿は、ある時モーブ伯爵から王都にいる人物にある物を渡して欲しいと頼まれた。かなり詳細に行動を指定されて。


 このドレスを着て、この店に行き、その人物にこれを渡せ、顔はケープを被って必ず隠せと言われていたそうだ。


 彼女は何をさせられているのか怪しんだが、ただ頼まれた物を渡すだけだと、言われた通り王都に向かい、伝えられていた人物にその物を渡した。

 しかし、全てが終わってしばらくした後に、モーブ伯爵はアルマ殿にこう告げたという。

 お前が渡した物は、ある毒物。
 受け取った人物は、お前が渡した毒物で事件を起こした。最近王都で問題になっていた感染症事件は、本当は感染症などではなく、毒物による事件。
 全てお前が引き起こしたことだ、と。
 しかし、安心して構わない、その事件の真犯人は、サーラント公爵令嬢ということになっている。お前が罪を問われることはない。だが、もしこれを誰かに話すのであれば、お前のしたことも明るみに出る。極刑は免れないだろうと言われたという。


「な、なんという卑劣な……!」
「……アルマ殿が毒物を渡す際に指定されたドレスは、君も持っているドレス。君がよく行く店に、君が持っているドレスを着て、顔を隠して毒物を渡させた。……アルマ殿は君と背格好も似ていて、銀の髪。完全に君に罪を着せる為に行われていた計画だった」
「……だから私を見たという証言が……」
「同じ場に呼ばれていたマリアベル嬢はモーブ伯爵からこう言われたそうだ。私はサーラント公爵令嬢でもアルマでも、どちらが犯人になっても構わない。自分に捜査の手が及んでも、何も証拠は残っていないからだ。母親をもし救いたければ、私の言う通りに動けと」
「卑劣すぎる……!!!」
「落ち着け、そしてマリアベル嬢が何をすればいいか聞くと、モーブ伯爵は、まずは私に近付けと言ってきたらしい」
「アルベルト殿下に?」
「これから入学する学園で私に近付き、寵愛を得て、エルメアを追い落とせ、と」
「……なぜそんなことを……いやそれより、なぜマリアベル嬢は全て明かしたのです?……下手をすれば、殿下達に捕らえられる可能性だってあった。……私と彼女は何の関係もないのに、なぜ自分と母を危険にさらしてまで……」
「アルマ殿も、マリアベル嬢も、君に恩があるのだと言っていた。詳細は語らなかったが」
「……マリアベル嬢のお母様には会ったこともありませんし、マリアベル嬢には学園入学後お会いしたのが初めてかと思うのですが……あんな美人、忘れそうもありませんし…」
「まあ、それはいつか二人に聞くといい。……恩ある君をとんでもないことに巻き込んでしまったことを、アルマ殿はとても悔やんでいた。自分はきちんと罪を償う、だがモーブ伯爵をこのまま野放しにしておけば、君が何をされてしまうかわからない。どうか彼女の為に協力させてくれないかと言ってきた」


 マリアベル嬢のことも、アルマ殿のことも、記憶を遡っても全くピンとこない。それでも二人が危険を冒してまで私の無実を証明しようとしてくれていたことに、少し泣けた。
 いや、見た目もかわいくて中身も素晴らしいとかやっぱりヒロインじゃない??ヒロインすぎない??


「アルマ殿が証言した日時や内容が、実行犯が供述した内容と合致していたので、こちらも彼女達を信用し、モーブ伯爵について調査した。……しかし、何も出てこなかった。当たり前だろうな、もしバレてもアルマ殿一人に全ての責任を負わせるつもりで行動している人間が、証拠を残すはずもない。
 ……だからモーブ伯爵がマリアベル嬢に指示したことを、こちらで実行してみることにした。何が目的かまだわからない段階だったが、マリアベル嬢がうまくやったと思い込めば、奴は必ず動くと考えて」
「……では、二人が恋仲になったのは……」
「モーブ伯爵の言う通り、私がマリアベル嬢に懸想しているかのように装う為に、共にいるようにしただけだ。誓って何もない。君には何も説明せず、迷惑をかけた……申し訳ない」
「な、なるほど……皆さん私の為に色々と動いてくださっていたのですね……。では、今日の婚約破棄も事件解決のために……?」
「ああ」


 私、色々な方にご迷惑を……いや、モーブ伯爵のせいだが。


「その後奴は周囲の人間にこう触れ回るようになった。自分の優秀な娘が、アルベルト殿下に目をかけられている。しかしエルメア嬢はそれを不愉快に思い、マリアベルに幾度となく嫌がらせを繰り返しているようだ、と」
「……私の悪い噂はモーブ伯爵から広まっていたのですね」
「いや、それだけじゃない。奴が触れ回ると同じ時期に、サーラント公爵令嬢はとんでもない女だ、と同じように語る貴族達が複数出てきた」
「……それは私が嫌われているからでは……あとその、パワーが……」
「パワー?……その人物達を調べてみると、何故かその時期から羽振りがよくなっていてな。マリアベル嬢がモーブ伯爵家の金の流れを調べたところ、用途不明の金の流れが複数あった」
「つまり、モーブ伯爵に雇われて私の噂を?」
「そういうことになる」


 噂の件、悪役令嬢パワーでもなんでもなかった。めちゃくちゃ人為的に広められている。なんだよ悪役令嬢パワーって。恥ずかしいな自分。
 話を聞きながら当時を振り返る。悪い噂が流れ始めた時は然程気にしてはいなかったが、なるほど。途中どんなに火消しを行っても、どこからともなく噂が出たのはそういうことか。
 そしてマリアベル嬢が本当に危険を冒しながら協力してくれていることに驚く。

 ……私いつ彼女と会ったんだろう……。
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