12 / 24
12
しおりを挟む
モーブ伯爵がマリアベル嬢に説明した内容はこうだった。サーラント公爵令嬢の婚約破棄とマリアベル嬢の悪事をアルベルト殿下自身にパーティーで宣言させる。
サーラント公爵令嬢が衆人の前で自分の罪を認めるはずがない。彼女が無実を主張した時に、私がサーラント公爵令嬢の罪を衆人の前で明らかにする。そしてそれを私と協力して暴いてくださった方を、その方の名誉をその場で回復させる、と。
ええ、そこまで言っちゃう……?アホでは……?と思った段階ではっとする。
「私達はその場を利用しようと考えた。モーブ伯爵が勇んで君の罪を発表し、それに援護するように出てきたロードレイ叔父上をその場で確保するために。モーブ伯爵の罪はすでに明らか。モーブ伯爵と繋がりがそこでわかれば、後はどうとでもなる」
それは、それはつまり、私はあの場で自分の無実を主張すると誰もが思っていたということだ。
それなのに、私があっさり婚約破棄を認め、しかもやってもいないくせに罪も認め、なおかつ自分で国外追放されますといって、早々と会場を後にしたため、予定はすべて狂った、ということ?
「私の逃走は……」
「誰も予期していなかった」
「つまり二人は……」
「いや、捕らえられた。……モーブ伯爵は未来の王妃である自分の娘に危害を加えた女を逃してはいけないと私達の目の前に出てきて、それにあわせてロードレイ叔父上も、さも、私を心配しているかのように、あの毒物事件を発表し始めてな、君を早急に捕らえるべきだと進言してきたよ」
「よ、よかったです」
「私はな、もう二人が出てきたことはどうでもよくなっていた。……婚約破棄をあっさり受け入れ、無実の罪を被って、国外へ行くと宣言した君のことを考えていた」
「いや、本当に申し訳ございません……」
「君はきっと自分の無実であると声をあげるだろうともちろん思っていたんだ。私も、コーネリアス公爵も、マリアベル嬢もだ。
だが実際は君はさも自分はどうでもいいですと言わんばかりの顔をしてすべて受け入れ去っていった。君は私の問いかけに対しても、もうすべて終わっているかのような顔で…」
「……これもモーブ伯爵が流していたのでしょうが、婚約破棄の噂を聞いていたのです。なので、下手に動くより、さっさと出て行ってしまえば公爵家の傷も小さく済むだろうと…」
「……自分が罪人に仕立て上げられていたんだぞ?私や、回りの人間たちに理不尽に扱われ続けてきた…。
君が会場を出ていく姿をどんな気持ちで見ていたと思う?現場は大混乱だった。私は君を追うに追えない」
「すみません…」
「その場で、名誉を回復すべき君もいない中、モーブ伯爵の罪を述べ、モーブ伯爵に加担したとして、ロードレイ叔父上 もその場で捕えた。奴等は何が起きたかわからず、不愉快に喚き散らしていたよ。その間、私は君がどうしてこんなことをしたのかをずっと考えていた」
「いや、本当になんと言っていいか…」
「うるさい二人を物理的に黙らせてる間に、いつの間にかコーネリアス公爵は君を追って出ていっていた」
「物理的に黙らせたんですか?!」
いや、あの冷静な殿下が物理的に黙らせるってどんな暴挙……?そ、そんなに作戦通りにいかなくて苛ついてたの?
「あ、あの殿下、私知らなかったとはいえ、多大なご迷惑を……」
「いや、もういい、首謀者は捕らえられた。……まあロードレイ叔父上は自分の無実を主張するだろうが……あとは私達がどうにでもする。……それよりも、すべての事情を聞いた上で君がどうしてあんな事をしたのか聞きたいんだが」
「……ご迷惑をおかけし、申し訳ございません……いや、でも説明しておいていただければ私も……」
「できるか?……君はそういうことが苦手だろう?貴族の腹の探り合い、演技、騙したり騙されたり、すべて」
まあ、苦手だ。恐らく私は話されていたとしても上手くこなせなかった自信がある。それにしたって、そんなに皆が動いてくれていたのに気づかないとは……。自分が悪役令嬢的立場になって、婚約破棄されてという結果しか考えられず、なおかつオルマー王国に行く気満々になっていた私は大馬鹿者だった。
「私、大馬鹿者すぎますね……何をしていたのか……」
「それで。何故逃げたんだ、すべて捨てて。無実の罪まで被って」
すべて説明し終わったアルベルト殿下は無表情だが厳しい顔で私を見る。そりゃそうだ。
……でも正直、何故アルベルト殿下がずっと私を信じてくれていたのかが全くわからない。
マリアベル嬢とアルマ殿の証言がなければ、モーブ伯爵は事件の犯人にもあがってこなかっただろう。どれだけ調べても私が犯人という証拠しか出てきていないのに、なぜ?
「……すみません。それが本当に最善だったと思ったのです。………一つ聞いてもよろしいですか?」
「……ああ」
「アルベルト殿下は……殿下はなぜ私を信じてくれていたのですか?お話を聞く限り、マリアベル嬢とアルマ殿の証言がなければ、私が犯人という証拠しかなかったではないですか。結果としてロードレイ殿下とモーブ伯爵は捕らえられたとのことですが、最初の証拠は私が犯人であると……」
「なぜ信じたか?……君はそんな大それたことはできないだろ」
「いや、まあそれはそうなのですが……。だってアルベルト殿下は私が……私がお嫌いでしたよね?……そんな嫌いな人間の為に、何故殿下がそこまでご尽力いただけたのかと……ある意味嫌いな婚約者と、合法的に婚約破棄もできる機会でもあったわけですし……」
「……自分の事を嫌っていたはずの婚約者が、愛なんてなかったはずの婚約者が、自分の為に動いた理由が知りたいと?」
「え、ええ、そうです……」
「……先に言っておくが」
サーラント公爵令嬢が衆人の前で自分の罪を認めるはずがない。彼女が無実を主張した時に、私がサーラント公爵令嬢の罪を衆人の前で明らかにする。そしてそれを私と協力して暴いてくださった方を、その方の名誉をその場で回復させる、と。
ええ、そこまで言っちゃう……?アホでは……?と思った段階ではっとする。
「私達はその場を利用しようと考えた。モーブ伯爵が勇んで君の罪を発表し、それに援護するように出てきたロードレイ叔父上をその場で確保するために。モーブ伯爵の罪はすでに明らか。モーブ伯爵と繋がりがそこでわかれば、後はどうとでもなる」
それは、それはつまり、私はあの場で自分の無実を主張すると誰もが思っていたということだ。
それなのに、私があっさり婚約破棄を認め、しかもやってもいないくせに罪も認め、なおかつ自分で国外追放されますといって、早々と会場を後にしたため、予定はすべて狂った、ということ?
「私の逃走は……」
「誰も予期していなかった」
「つまり二人は……」
「いや、捕らえられた。……モーブ伯爵は未来の王妃である自分の娘に危害を加えた女を逃してはいけないと私達の目の前に出てきて、それにあわせてロードレイ叔父上も、さも、私を心配しているかのように、あの毒物事件を発表し始めてな、君を早急に捕らえるべきだと進言してきたよ」
「よ、よかったです」
「私はな、もう二人が出てきたことはどうでもよくなっていた。……婚約破棄をあっさり受け入れ、無実の罪を被って、国外へ行くと宣言した君のことを考えていた」
「いや、本当に申し訳ございません……」
「君はきっと自分の無実であると声をあげるだろうともちろん思っていたんだ。私も、コーネリアス公爵も、マリアベル嬢もだ。
だが実際は君はさも自分はどうでもいいですと言わんばかりの顔をしてすべて受け入れ去っていった。君は私の問いかけに対しても、もうすべて終わっているかのような顔で…」
「……これもモーブ伯爵が流していたのでしょうが、婚約破棄の噂を聞いていたのです。なので、下手に動くより、さっさと出て行ってしまえば公爵家の傷も小さく済むだろうと…」
「……自分が罪人に仕立て上げられていたんだぞ?私や、回りの人間たちに理不尽に扱われ続けてきた…。
君が会場を出ていく姿をどんな気持ちで見ていたと思う?現場は大混乱だった。私は君を追うに追えない」
「すみません…」
「その場で、名誉を回復すべき君もいない中、モーブ伯爵の罪を述べ、モーブ伯爵に加担したとして、ロードレイ叔父上 もその場で捕えた。奴等は何が起きたかわからず、不愉快に喚き散らしていたよ。その間、私は君がどうしてこんなことをしたのかをずっと考えていた」
「いや、本当になんと言っていいか…」
「うるさい二人を物理的に黙らせてる間に、いつの間にかコーネリアス公爵は君を追って出ていっていた」
「物理的に黙らせたんですか?!」
いや、あの冷静な殿下が物理的に黙らせるってどんな暴挙……?そ、そんなに作戦通りにいかなくて苛ついてたの?
「あ、あの殿下、私知らなかったとはいえ、多大なご迷惑を……」
「いや、もういい、首謀者は捕らえられた。……まあロードレイ叔父上は自分の無実を主張するだろうが……あとは私達がどうにでもする。……それよりも、すべての事情を聞いた上で君がどうしてあんな事をしたのか聞きたいんだが」
「……ご迷惑をおかけし、申し訳ございません……いや、でも説明しておいていただければ私も……」
「できるか?……君はそういうことが苦手だろう?貴族の腹の探り合い、演技、騙したり騙されたり、すべて」
まあ、苦手だ。恐らく私は話されていたとしても上手くこなせなかった自信がある。それにしたって、そんなに皆が動いてくれていたのに気づかないとは……。自分が悪役令嬢的立場になって、婚約破棄されてという結果しか考えられず、なおかつオルマー王国に行く気満々になっていた私は大馬鹿者だった。
「私、大馬鹿者すぎますね……何をしていたのか……」
「それで。何故逃げたんだ、すべて捨てて。無実の罪まで被って」
すべて説明し終わったアルベルト殿下は無表情だが厳しい顔で私を見る。そりゃそうだ。
……でも正直、何故アルベルト殿下がずっと私を信じてくれていたのかが全くわからない。
マリアベル嬢とアルマ殿の証言がなければ、モーブ伯爵は事件の犯人にもあがってこなかっただろう。どれだけ調べても私が犯人という証拠しか出てきていないのに、なぜ?
「……すみません。それが本当に最善だったと思ったのです。………一つ聞いてもよろしいですか?」
「……ああ」
「アルベルト殿下は……殿下はなぜ私を信じてくれていたのですか?お話を聞く限り、マリアベル嬢とアルマ殿の証言がなければ、私が犯人という証拠しかなかったではないですか。結果としてロードレイ殿下とモーブ伯爵は捕らえられたとのことですが、最初の証拠は私が犯人であると……」
「なぜ信じたか?……君はそんな大それたことはできないだろ」
「いや、まあそれはそうなのですが……。だってアルベルト殿下は私が……私がお嫌いでしたよね?……そんな嫌いな人間の為に、何故殿下がそこまでご尽力いただけたのかと……ある意味嫌いな婚約者と、合法的に婚約破棄もできる機会でもあったわけですし……」
「……自分の事を嫌っていたはずの婚約者が、愛なんてなかったはずの婚約者が、自分の為に動いた理由が知りたいと?」
「え、ええ、そうです……」
「……先に言っておくが」
27
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる