婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです

kosaka

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 またアルベルト殿下が私を怖い顔で見る。
 あの、アルベルト殿下は顔が綺麗だから怖い顔しないでほしい。迫力凄すぎる。


「………先に言っておくが、私が君へ向ける感情は愛しかないぞ」


 ん?


「………え、あ、あい?」
「愛している人間を信じ、その相手を救う為に動くことに理由なんかない。……君はコーネリアス公爵に様々なことを言っていたが、私は君を嫌ったことは一度もないし、私からは愛しかない。……君は愛などなかったと、大きな声で説明していたがな」
「……え、えっとアルベルト殿下?」


 アルベルト殿下からの愛してるの言葉がまだ頭で理解できない。それでもアルベルト殿下の話は続く。
 あ、あいして?


「……きっと何があっても自分を信じてくれるだろう、きっと悲しんでくれるだろう、きっと縋ってくれるだろう、そんなことを夢見ていた私が馬鹿だった。笑ってくれて構わない。追いかけた先で、私への愛などないと言われて、落ち着いていられなくなり、君を強引に連れ戻した私をどうか笑ってくれ」
「あ、あの殿下、その」
「……君の気持ちを聞いて、あっさり婚約破棄を受け入れた理由はわかった。……だが、聞きたい。何で今日、婚約破棄の時、自分は無実だと声をあげなかった?……私が理由か?」
「……えっと、殿下は絶対に私の無実など信じてくれないと思っていましたし、もしそれで下手に無実などと言おうものなら、公爵家と王家の全面対立になるのでは、と」
「サーラント公爵夫妻は、君を一等愛しているからな……そういうことか……」
「あとマリアベル嬢が大好きで目が曇ってそうなアルベルト殿下を刺激して、偽りを申す女なぞ処刑だ!なんて言われたら目も当てられないな、と」
「…目が曇ってそう…というか君私の事そんな風に思ってたんだな」
「あ、いや」


 アルベルト殿下が頭を抱え始めた。
 そしてそのままベッドの上でドサッと音をたてて後ろに倒れ、仰向けになった。


「……今日の作戦がうまくいかないはずだな……そもそも君との信頼関係も築けていなかったとは……いや、それだけの問題でもない気がするが」
「アルベルト殿下?」
「つまり君が今日あっさりと婚約破棄を受け入れ逃げ出したのは、ずっと嫌われていると思っていた婚約者に、約1年前好きな相手ができた、自分の悪い噂も出回っているが、それを釈明したとしても目が曇ってそうな愚かな王子に何を言ったところでどうせ信じてもらえない、公爵家と王家の間に無駄な争いを生むくらいなら、すべて受け入れこの国を出る、と、そういうことか?」
「ええ、まさにそうです」


 すごく的確に言語化してくれた。
私が返事をすると、顔を両手で隠して、アルベルト殿下は無言になった。


「はあ………、いや、君は悪くない。あの時は頭にきたし、なぜだと思った。私をあっさり捨てて、国を出る?ふざけるな、と。……でもそうか、根本から間違っていたとは思わなかった。完全に私の責任だ。マリアベル嬢にもコーネリアス公爵にも悪いことをした」


 はは、と乾いた笑いを漏らした殿下にぎょっとする。ははって笑った…すごい貴重では…?というか初めてでは…?両手で隠されて顔は見えないけど…。
 それを静かに眺めていると、アルベルト殿下が突然がばっと起き上がって私の肩を掴んできた。いや心臓に悪いからやめて!!


「エルメア」
「は、はい、何でしょう」
「先程も言ったが、私は君を愛してる。だから先に言っておこう。私は君を手放す気はさらさら無い。君以外を王妃にするつもりもない。……自由が欲しいなら与えよう。でもそれは、私のものとなってからだ」
「え…?」


 肩を強く掴んでいた手が離れ、腰と頭に回される。そのまま痛いぐらい強く抱きしめられた。
 おおう、抱きしめられたことなんてないから、さすがに恥ずかしい……。


「アルベルト殿下、あの」
「……すまない、君からしたら好きでもない男にされていることだ。嫌だろう。でも、1年…長かったんだ。君から遠ざかって……遠ざけなくてはならなくて、辛かった。だから、少しだけ、少しだけ許してくれ」
「わ、かりました」
「………ありがとう。……ああ、やっと、やっとだ。ずっとこうしたかった。……必要だから君を遠ざけた。それでも君が私の前に現れることもしなくなった時、どうにかなりそうだった。
 君の後ろ姿を見る度に、私がどんな気持ちでいたか……。もしかしたら、嫉妬してくれるのではなんて思っていたかつての自分が恥ずかしいが……もういいんだ。今日で、名実ともに君は私のものになる。君が私に興味があろうとなかろうと………もう君は私のものだ、逃さない、絶対に」
「あの、み、耳元で喋らないでください」
「エルメア……愛してるんだ、ずっと、君を愛してる」


 ぐおおお!!なに?!なんなの!!恥ずかしい!!何この甘い感じ!た、たしかに恋愛感情はないが、さすがに顔好きだから無理!恥ずかしい!!


「わかりました!!わかりましたからやめて!」
「……駄目だやめない。もう少し、このまま」


 そうしてしばらく無言で抱き締めてきた。いや、恥ずかしくて死にそう。
 やっと力が緩んだと思ったら、少し体を離して間近で顔を見てくる。相変わらず綺麗な顔だ。いや自分、そうじゃない。


「いやアルベルト殿下、ちょっと近いです」
「……エルメア、愛してる」

 そのまま顔が近づき………。

「いや待った待った!!」

 自分の顔とアルベルト殿下の顔の間に手を入れる。
 こ、この人今キスしようとした……?!なにごと??!
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