婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです

kosaka

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 はわわ。私が推しのエルメア様を困らせてしまっている。なんてやつだ自分よ。
 でも思わず言ってしまったのだから仕方ない。いや仕方なくないけど。ただでさえ怪しい女から怪しい発言飛び出したら怖いだろう。

 ごめんなさいエルメア様……!私のこと庇ってくれたのが嬉しすぎて思わず歓喜が言葉になってしまったんです……!



 私の先程の涙ながらの謝罪。
 ちょっと、いやかなりパフォーマンス感もあったし、我ながら嘘くさくない!?と思っていたけど思いの外3人に響いていて驚いた。
 エルメア様にいらぬ心労をかけたことへの謝罪はもちろん本心だけど、良い子に思われたいという欲望が8割だったからさ……。実際騙しているのだが、あんなに信じてもらえちゃうと良心が痛む。

 何かいかにも大団円みたいな感じで席に座らせてもらえたので、私はもう一仕事終えた気分でいた。いやあ、良かった良かった!これで皆死なずに済むわ!

 そしてここに来て一番の問題を私はすっかり忘れていた。エルメア様との関係性の説明だ。私がエルメア様に恩があるとか適当な事言ってアルベルト殿下達に近づき、事件解決に協力させてもらっていたので、もちろん聞かれるだろうと思っていたが、正直何も思いつかないままここまで来てしまった。

 そのせいでエルメア様との関係をうまく答えられず、言いたいけど言えない関係、みたいな苦し紛れの言い訳になってしまって心の中で頭を抱えたくなった。

 ああ、もっと設定を練りに練ってればよかった……と思うけど、設定凝り過ぎるとむしろボロが出そうなんだよね!だからいっそのこと含みのある怪しい女でいくしかない!ってもう心に決めた!

 いやだって私、ただエルメア様から信頼を勝ち得たいだけだったんだもん!エルメア様にありがとう、貴女がいてよかったって言われたかっただけなんだもん!そんな難しいこと考えてないわけよ!
 だからもうお礼を言われて微笑まれたら私の目的は達成しちゃってるわけで……。
 だから気が緩んで心の声が思わず漏れてしまって、より怪しさ満点になってしまっても、最早自分ではどうすることもできない!

 でもすみません!
 変な事言ってすみません!
 だからアルベルト殿下もコーネリアス公爵もエルメア様に見られてないからって睨まないでくれないかな……冷や汗かいてきた。二人共こわ。

 お二人にも本当に申し訳ないんだけどね。信じて色々手伝わせてくれてたのに、何だこいつ実は怪しい奴か?ってなるよね……でも大丈夫だから!

 私ちょっと前世で皆さんのこと知ってる、無害な一般人だから!!
 もはや物語から逸脱したこの世界がどうなるのかは知らないけど、とりあえず今後も私頑張るので!お願いだからこの世から消したりしないでね!!



 自分が生まれ変わっていると気づいたのは赤ん坊の時。いつどうやって死んだかもわからないまま赤ん坊になってた時はさすがに泣いた。

 そしてとびきり美しい見目の母の腕に抱かれながら「マリアベル、母を救ってくれる偉大な子」と呪いのように言われ続けた私は、面倒そうな母親の元に生まれてしまった……と虚無感に襲われていた。

 そして少し大きくなってから母から説明された自分の立場を聞き、私は頭が痛くなったのをよく覚えている。

 伯爵の妾とその子供。

 新しい人生の立場最悪すぎない?と地団駄を踏みたくなる立場に生まれてしまっていた。しかも伯爵家に入れて貰えるどころか、少ない金で捨て置かれている母と私。
 人生終わってる、と1歳を過ぎた時に私は悟っていたが、それでも母は私がいつか伯爵家に迎え入れられ、自分を救う存在であると信じて疑っていなかった。いやポジティブゥ!
 私が生まれてから父が1度も現れたことない時点でもうお察しなのよ!諦めなよ母よ!

 これは両親は頼りにならないと、私はよちよち歩きの時からこの儚げな美貌と愛くるしさを活かし、ご近所でお小遣い稼ぎをしまくっていた。最初は、あそこの親子は伯爵家の……みたいな陰口が凄まじかったが、私の愛くるしさと純粋さに皆さんメロメロになり、それはもう良くしてもらっていた。いっそのこと近所に貰ってほしかった。

 まあその度に母が、貴女は伯爵家の人間なのだから、一般人に施しを受けては駄目だと私を叱っていたのだが。

 う、鬱陶しい……貴女も私も一般人だよ……現実見ろよ……とは思っても言わなかった。私は愛くるしい幼児なので、はあい!お母様!が口癖だった。

 もちろん叱られたすぐ後に外行ってたけどね!

 そうして私は幼児らしく愛くるしく過ごしながら、周囲に助けられ図太くたくましく生きていたのだが、その人生が変わったのは、私が生まれてから数年後、父が初めて私達の元を訪れた時だった。

 初めて会う父を見て名前を知った瞬間、私は驚愕し、そして自分が置かれている立場を正しく理解した。

 私の父は、前世でよく知る小説の番外編に出てくる小悪党、モーブ伯爵だったのだ。


 モーブ伯爵が出てくるのはとある小説の番外編。
 エルメア・サーラントという公爵令嬢が主人公の悲しいお話。
 小説の本編が繰り広げられる国とは別の国で生まれた公爵令嬢であるエルメア・サーラント。
 優しく美しい彼女は、公爵領の領民からも、婚約者からも友人であるご令嬢達からも愛されていた存在。賢いが少しおっちょこちょいな部分もある彼女は、まさにヒロイン。
 ずる賢く立ち回り、時には人を追い落とす、そんな事は出来ない、思いやり溢れる真っ当な貴族だった。
 しかしそんな美しく優しい彼女は、サーラント公爵家に恨みを持つ王弟ロードレイ、そしてロードレイに追従するモーブ伯爵、その他の貴族達の手によって、とある事件の犯人に仕立て上げられてしまう。
 彼女はもちろん無実を訴えたが、彼女が犯人であるという証拠が出揃ってしまい、王太子殿下やサーラント公爵家の嘆願虚しく、エルメア・サーラントはあっさり処刑されてしまう。

 王弟ロードレイはその流れに乗るかのようにクーデターを起こし、国王陛下、王太子殿下を殺害、サーラント公爵家や公爵家と懇意にしていた人間達も次々に殺され、この国はロードレイの手に堕ちる。
 そんなロードレイの手に堕ちた国が、とある小説の続編に関わってくるのだが……。


 私は歓喜した。
 私はこの番外編が結構好きだったのだ。というかエルメア様がめちゃくちゃ好き。圧倒的光属性のヒロインなのに、あっという間に死んだ時は泣いた。推しの退場が早過ぎて泣いた。
 そして私は今、そんな推しのエルメア様を救えるかもしれない立場にいる。

 よっしゃああ!!最悪な人生が今報われたああ!!

 私は悪党側の血縁者。しかし物語には影も形も登場しない、名前すら出ない存在。つまり何をしても大丈夫ということ。これは素晴らしい立場では?もはや私救世主では?

 でもエルメア様って今何歳なんだろう……。これでもう来年事件起きますとか言われたらさすがに幼児の私には何も出来ない……。あとでご近所さんに新聞とか読ませてもらって色々聞き出すしかないな。

 とにかく、これは父に気に入られて伯爵家に潜り込み、エルメア様の事件を解決する為に動けという神のお導きに違いない!!

 私は初めて対面する父に向かって満面の笑みを浮かべ、愛くるしい感じでパパー!って抱きつきにいってやった。
 どうだ、かわいかろう。この顔の幼女のハグに落ちない人間なんていない!!

 それなのに突き飛ばされた時の感情を述べよ。
 私はショックだった。この愛らしさか通じないなんて……さすが悪党……。

 母は私に駆け寄ると、父に失礼だろうと私を叱った。
 いやいや、幼児突き飛ばすクソジジイが圧倒的に悪いでしょうよ!
 しかし私は反論せずに悲しそうな顔をしてごめんなさい……と謝った。演技派な私、さすがだ。

 その後の二人の話を盗み聞きしていると、父は母のしつこい連絡に耐えかねてやって来ただけだったようだった。
 マリアベルは非常にかしこい、必ず伯爵家の役に立つと頻りに連絡していたようだ。いつもなら迷惑な母だが、今回ばかりはグッジョブ母よ。


 帰る際に父は冷ややかに私を見つめると、愚鈍な娘にしか見えないが見目だけはいいな、とだけ吐き捨てて金を置いて出ていった。

 なんだこのクソ野郎!いつか必ずとっ捕まえてやるからな!覚悟しておけよ!!

 絶対にこいつとロードレイにはエルメア様を殺させない。私はマリアベル・モーブとして生まれて初めて、やる気に満ちていた。
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