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そう、私はやる気に満ち溢れていたのだ。
しかし、この世界が私の知っている小説の通りに進んでいない事を知るのはその後すぐだった。
悪役である王弟ロードレイが、サーラント公爵夫人を襲った罪で国を追放されたからだ。
本来、ロードレイは悪役としてこの国にのさばり続ける。ありとあらゆる悪事に手を染めるが、国王でも有力貴族達でも彼を止めることはできず、思いを寄せていたサーラント公爵夫人に無体を働いても、無罪放免。そんなとんでもない悪党だった。
原作通りだと被害者であるサーラント公爵夫人は、そのまま気を病んでしまい、エルメア様が小さい時に儚く散っているはずだった。
しかしサーラント公爵夫人はピンピンしているらしい。
そしてロードレイ追放に続くように、彼に力を貸していた貴族たちも次々と処罰されていった。
新聞で国中に駆け巡ったそれを見た瞬間、私は自分以外の転生者がこの物語を変えるべく動いていると確信した。
わ、私のエルメア様救済計画が!誰かに取られる!
そんなことを一瞬考えていたのだが、この件に一役買ったのがサーラント公爵家のご令嬢、エルメア様だと知った時、私は愕然とした。
ええ……エルメア様も絶対に転生者じゃん……。
幼児がご近所にあった新聞を読みながら唸っていたのは、ひどく滑稽だっただろう。
なーんだ。エルメア様が転生者なら私すること無いじゃん。というかもはやそれは私の推しのエルメア様ではない。つまりエルメア様の為に努力する必要性もない。一気にやる気が削がれた。
……でもまあいいか。
ロードレイの手に堕ちた国はひどい有様になってしまうのだが、エルメア様自身でいろいろ変えてもらえて住みやすい国になるなら、それはそれで!
私はエルメア様救済計画がなくなった落胆はあったが、この後捕まるだろう父からの援助がなくても生きていけるよう、今まで以上に周囲に愛想を振りまき、勉強し、いつかに備えて生きていた。
しかし、何故か父であるモーブ伯爵は捕まらなかった。共に悪事を働いていたロードレイ、そして周囲の人間が次々捕まっていったにも関わらず、それでもずる賢く逃げおおせた。
待てど暮らせど、父であるモーブ伯爵が捕まる様子はない。転生者であるだろうエルメア様は新たに動く様子もない。そうこうしている間に何年も何年も何年も過ぎて、私が10代になっても何も起きなかった。私はやっと理解した。成り代わりエルメア様がこれ以上何かするつもりがないことに。
なんで!?あとはもうモーブ伯爵捕まえるだけじゃん!悪党は全部捕まえればいいじゃん!そうしたらハッピーエンドじゃん!あいつの悪事なんて適当に捏造したっていいよ!あいつロードレイ居ないときっと何も出来ないから!
私は毎日のように新聞を読んでいたが、新たな動きがないまま時は過ぎていった。
しかも最悪な事に、私は父の指示で伯爵家に入ることが決まってしまっていた。父の援助なく生きて行けるように見た目の愛らしさを活かしつつ前世の記憶をフル活用して近所で賢く振る舞っていたのだが、それが仇となった。母がマリアベルはとても賢いのだと父に報告し、父の興味を引いてしまったのだ。
伯爵家に入りたかったのは原作のエルメア様救いたかったからで、成り代わりエルメア様の時点で伯爵家に入るメリットなんてないんだよ!
むしろ悪党のもとになんて行ったら、今後父が捕まった時に私も罪に問われる可能性があるじゃん!最悪なんだが!
嫌すぎて逃げようとも思ったが、そもそも父はそれを許さない。悪党は悪党なので、最悪殺される可能性を考えると、動くに動けなかった。
どうする……もう伯爵家入る前に前世で知っている父の罪を王家に密告する?いや、転生者であるエルメア様がどんな人物かもわからないのに、下手な動きしたらむしろあいつ目障りだって消されたりする?
エルメア様が父を捕まえないのには何か意味があるかもしれないから私が動くのはまずいの??
私はどう動くのが正解!?
そうして私が悶々と考えている間に、何故かあの事件が起こった。そう、事件が起こったのだ。エルメア様が処刑される原因となる事件が。
しかも母を利用した父の手によって。小説とは全く違う流れで起きた事件だったが、その裏に追放されたはずのロードレイがいることは確実だった。だって父はこんなに大きな事を一人で出来る人間じゃない。
じ、事件起きちゃったじゃん!え!?なんで!?成り代わりエルメア様何してるの!?目的は何!?
事件が起こった後に父に全てを明かされた母は半狂乱だった。そりゃそうだろう。父に裏切られ、国を揺るがす事件に手を貸してしまったのだから。伯爵家で幸せになるどころか大罪人だ。
そして、母を救いたくば自分の言う事を聞くようにと私に偉そうに話をしてくる父に、私はげんなりしていた。
もうさ……これは当初の予定通りエルメア様の事を救う為に動けという神のお導き……?なんなの……?
母とか正直どうでもいいが、このままでは私も不利益を被りそう。
父に何かさせられてるな、とは思ってたけど、まさか事件の片棒担がされていたとは。見て見ぬふりしてた私の所為でもあるし、これはやるしかない……。
小説通りであれば、この事件の犯人としてエルメア様はすぐに捕まるはずだった。しかし実際は事件の詳細が国民に知らされることは無く、秘密裏に処理されている。
恐らく本来の首謀者ロードレイがいない為、上手く事が運ばないのだろう。父だけでは、エルメア様を即刻捕まえられる程の力は無い。物語と同じように事件は起こせたが、話の流れは変わっていた。
この事件すら成り代わりエルメア様の何かしらの作戦なのか?とも考えたけど、もはやそれを確認する為にはエルメア様に接触するしかない。
恐らくだが、エルメア様を追い詰める為に父は私をエルメア様に近づけるはず。その時に成り代わりエルメア様の真意を聞き、私は味方です!と大声で伝えるしかない。
そうして私は父に従うフリをして行動を開始した。
しかし、この世界が私の知っている小説の通りに進んでいない事を知るのはその後すぐだった。
悪役である王弟ロードレイが、サーラント公爵夫人を襲った罪で国を追放されたからだ。
本来、ロードレイは悪役としてこの国にのさばり続ける。ありとあらゆる悪事に手を染めるが、国王でも有力貴族達でも彼を止めることはできず、思いを寄せていたサーラント公爵夫人に無体を働いても、無罪放免。そんなとんでもない悪党だった。
原作通りだと被害者であるサーラント公爵夫人は、そのまま気を病んでしまい、エルメア様が小さい時に儚く散っているはずだった。
しかしサーラント公爵夫人はピンピンしているらしい。
そしてロードレイ追放に続くように、彼に力を貸していた貴族たちも次々と処罰されていった。
新聞で国中に駆け巡ったそれを見た瞬間、私は自分以外の転生者がこの物語を変えるべく動いていると確信した。
わ、私のエルメア様救済計画が!誰かに取られる!
そんなことを一瞬考えていたのだが、この件に一役買ったのがサーラント公爵家のご令嬢、エルメア様だと知った時、私は愕然とした。
ええ……エルメア様も絶対に転生者じゃん……。
幼児がご近所にあった新聞を読みながら唸っていたのは、ひどく滑稽だっただろう。
なーんだ。エルメア様が転生者なら私すること無いじゃん。というかもはやそれは私の推しのエルメア様ではない。つまりエルメア様の為に努力する必要性もない。一気にやる気が削がれた。
……でもまあいいか。
ロードレイの手に堕ちた国はひどい有様になってしまうのだが、エルメア様自身でいろいろ変えてもらえて住みやすい国になるなら、それはそれで!
私はエルメア様救済計画がなくなった落胆はあったが、この後捕まるだろう父からの援助がなくても生きていけるよう、今まで以上に周囲に愛想を振りまき、勉強し、いつかに備えて生きていた。
しかし、何故か父であるモーブ伯爵は捕まらなかった。共に悪事を働いていたロードレイ、そして周囲の人間が次々捕まっていったにも関わらず、それでもずる賢く逃げおおせた。
待てど暮らせど、父であるモーブ伯爵が捕まる様子はない。転生者であるだろうエルメア様は新たに動く様子もない。そうこうしている間に何年も何年も何年も過ぎて、私が10代になっても何も起きなかった。私はやっと理解した。成り代わりエルメア様がこれ以上何かするつもりがないことに。
なんで!?あとはもうモーブ伯爵捕まえるだけじゃん!悪党は全部捕まえればいいじゃん!そうしたらハッピーエンドじゃん!あいつの悪事なんて適当に捏造したっていいよ!あいつロードレイ居ないときっと何も出来ないから!
私は毎日のように新聞を読んでいたが、新たな動きがないまま時は過ぎていった。
しかも最悪な事に、私は父の指示で伯爵家に入ることが決まってしまっていた。父の援助なく生きて行けるように見た目の愛らしさを活かしつつ前世の記憶をフル活用して近所で賢く振る舞っていたのだが、それが仇となった。母がマリアベルはとても賢いのだと父に報告し、父の興味を引いてしまったのだ。
伯爵家に入りたかったのは原作のエルメア様救いたかったからで、成り代わりエルメア様の時点で伯爵家に入るメリットなんてないんだよ!
むしろ悪党のもとになんて行ったら、今後父が捕まった時に私も罪に問われる可能性があるじゃん!最悪なんだが!
嫌すぎて逃げようとも思ったが、そもそも父はそれを許さない。悪党は悪党なので、最悪殺される可能性を考えると、動くに動けなかった。
どうする……もう伯爵家入る前に前世で知っている父の罪を王家に密告する?いや、転生者であるエルメア様がどんな人物かもわからないのに、下手な動きしたらむしろあいつ目障りだって消されたりする?
エルメア様が父を捕まえないのには何か意味があるかもしれないから私が動くのはまずいの??
私はどう動くのが正解!?
そうして私が悶々と考えている間に、何故かあの事件が起こった。そう、事件が起こったのだ。エルメア様が処刑される原因となる事件が。
しかも母を利用した父の手によって。小説とは全く違う流れで起きた事件だったが、その裏に追放されたはずのロードレイがいることは確実だった。だって父はこんなに大きな事を一人で出来る人間じゃない。
じ、事件起きちゃったじゃん!え!?なんで!?成り代わりエルメア様何してるの!?目的は何!?
事件が起こった後に父に全てを明かされた母は半狂乱だった。そりゃそうだろう。父に裏切られ、国を揺るがす事件に手を貸してしまったのだから。伯爵家で幸せになるどころか大罪人だ。
そして、母を救いたくば自分の言う事を聞くようにと私に偉そうに話をしてくる父に、私はげんなりしていた。
もうさ……これは当初の予定通りエルメア様の事を救う為に動けという神のお導き……?なんなの……?
母とか正直どうでもいいが、このままでは私も不利益を被りそう。
父に何かさせられてるな、とは思ってたけど、まさか事件の片棒担がされていたとは。見て見ぬふりしてた私の所為でもあるし、これはやるしかない……。
小説通りであれば、この事件の犯人としてエルメア様はすぐに捕まるはずだった。しかし実際は事件の詳細が国民に知らされることは無く、秘密裏に処理されている。
恐らく本来の首謀者ロードレイがいない為、上手く事が運ばないのだろう。父だけでは、エルメア様を即刻捕まえられる程の力は無い。物語と同じように事件は起こせたが、話の流れは変わっていた。
この事件すら成り代わりエルメア様の何かしらの作戦なのか?とも考えたけど、もはやそれを確認する為にはエルメア様に接触するしかない。
恐らくだが、エルメア様を追い詰める為に父は私をエルメア様に近づけるはず。その時に成り代わりエルメア様の真意を聞き、私は味方です!と大声で伝えるしかない。
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