婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです

kosaka

文字の大きさ
19 / 24

19(side:M)

しおりを挟む
 そう、私はやる気に満ち溢れていたのだ。

 しかし、この世界が私の知っている小説の通りに進んでいない事を知るのはその後すぐだった。

 悪役である王弟ロードレイが、サーラント公爵夫人を襲った罪で国を追放されたからだ。

 本来、ロードレイは悪役としてこの国にのさばり続ける。ありとあらゆる悪事に手を染めるが、国王でも有力貴族達でも彼を止めることはできず、思いを寄せていたサーラント公爵夫人に無体を働いても、無罪放免。そんなとんでもない悪党だった。
 原作通りだと被害者であるサーラント公爵夫人は、そのまま気を病んでしまい、エルメア様が小さい時に儚く散っているはずだった。

 しかしサーラント公爵夫人はピンピンしているらしい。
 そしてロードレイ追放に続くように、彼に力を貸していた貴族たちも次々と処罰されていった。

 新聞で国中に駆け巡ったそれを見た瞬間、私は自分以外の転生者がこの物語を変えるべく動いていると確信した。

 わ、私のエルメア様救済計画が!誰かに取られる!

 そんなことを一瞬考えていたのだが、この件に一役買ったのがサーラント公爵家のご令嬢、エルメア様だと知った時、私は愕然とした。

 ええ……エルメア様も絶対に転生者じゃん……。

 幼児がご近所にあった新聞を読みながら唸っていたのは、ひどく滑稽だっただろう。

 なーんだ。エルメア様が転生者なら私すること無いじゃん。というかもはやそれは私の推しのエルメア様ではない。つまりエルメア様の為に努力する必要性もない。一気にやる気が削がれた。

 ……でもまあいいか。
 ロードレイの手に堕ちた国はひどい有様になってしまうのだが、エルメア様自身でいろいろ変えてもらえて住みやすい国になるなら、それはそれで!

 私はエルメア様救済計画がなくなった落胆はあったが、この後捕まるだろう父からの援助がなくても生きていけるよう、今まで以上に周囲に愛想を振りまき、勉強し、いつかに備えて生きていた。

 しかし、何故か父であるモーブ伯爵は捕まらなかった。共に悪事を働いていたロードレイ、そして周囲の人間が次々捕まっていったにも関わらず、それでもずる賢く逃げおおせた。
 待てど暮らせど、父であるモーブ伯爵が捕まる様子はない。転生者であるだろうエルメア様は新たに動く様子もない。そうこうしている間に何年も何年も何年も過ぎて、私が10代になっても何も起きなかった。私はやっと理解した。成り代わりエルメア様がこれ以上何かするつもりがないことに。

 なんで!?あとはもうモーブ伯爵捕まえるだけじゃん!悪党は全部捕まえればいいじゃん!そうしたらハッピーエンドじゃん!あいつの悪事なんて適当に捏造したっていいよ!あいつロードレイ居ないときっと何も出来ないから!

 私は毎日のように新聞を読んでいたが、新たな動きがないまま時は過ぎていった。
 しかも最悪な事に、私は父の指示で伯爵家に入ることが決まってしまっていた。父の援助なく生きて行けるように見た目の愛らしさを活かしつつ前世の記憶をフル活用して近所で賢く振る舞っていたのだが、それが仇となった。母がマリアベルはとても賢いのだと父に報告し、父の興味を引いてしまったのだ。

 伯爵家に入りたかったのは原作のエルメア様救いたかったからで、成り代わりエルメア様の時点で伯爵家に入るメリットなんてないんだよ!

 むしろ悪党のもとになんて行ったら、今後父が捕まった時に私も罪に問われる可能性があるじゃん!最悪なんだが!

 嫌すぎて逃げようとも思ったが、そもそも父はそれを許さない。悪党は悪党なので、最悪殺される可能性を考えると、動くに動けなかった。

 どうする……もう伯爵家入る前に前世で知っている父の罪を王家に密告する?いや、転生者であるエルメア様がどんな人物かもわからないのに、下手な動きしたらむしろあいつ目障りだって消されたりする?

 エルメア様が父を捕まえないのには何か意味があるかもしれないから私が動くのはまずいの??

 私はどう動くのが正解!?

 そうして私が悶々と考えている間に、何故かあの事件が起こった。そう、事件が起こったのだ。エルメア様が処刑される原因となる事件が。

 しかも母を利用した父の手によって。小説とは全く違う流れで起きた事件だったが、その裏に追放されたはずのロードレイがいることは確実だった。だって父はこんなに大きな事を一人で出来る人間じゃない。


 じ、事件起きちゃったじゃん!え!?なんで!?成り代わりエルメア様何してるの!?目的は何!?


 事件が起こった後に父に全てを明かされた母は半狂乱だった。そりゃそうだろう。父に裏切られ、国を揺るがす事件に手を貸してしまったのだから。伯爵家で幸せになるどころか大罪人だ。

 そして、母を救いたくば自分の言う事を聞くようにと私に偉そうに話をしてくる父に、私はげんなりしていた。
 もうさ……これは当初の予定通りエルメア様の事を救う為に動けという神のお導き……?なんなの……?

 母とか正直どうでもいいが、このままでは私も不利益を被りそう。
 父に何かさせられてるな、とは思ってたけど、まさか事件の片棒担がされていたとは。見て見ぬふりしてた私の所為でもあるし、これはやるしかない……。

 小説通りであれば、この事件の犯人としてエルメア様はすぐに捕まるはずだった。しかし実際は事件の詳細が国民に知らされることは無く、秘密裏に処理されている。
 恐らく本来の首謀者ロードレイがいない為、上手く事が運ばないのだろう。父だけでは、エルメア様を即刻捕まえられる程の力は無い。物語と同じように事件は起こせたが、話の流れは変わっていた。

 この事件すら成り代わりエルメア様の何かしらの作戦なのか?とも考えたけど、もはやそれを確認する為にはエルメア様に接触するしかない。

 恐らくだが、エルメア様を追い詰める為に父は私をエルメア様に近づけるはず。その時に成り代わりエルメア様の真意を聞き、私は味方です!と大声で伝えるしかない。

 そうして私は父に従うフリをして行動を開始した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...