婚約破棄されたのですが、どうやら真実を知らなかったのは私だけのようです

kosaka

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「エ、エルメア様、それは……」
「……ごめんなさい。やはり、マリアベル嬢にとってはこんな話……」
「そんな、願ってもないことです。わ、私のような者がサーラント公爵家で、エルメア様のもとで働けるのですか……?」


 はちみつ色の瞳にうっすら涙が浮かび、表情はきらきらした笑顔に変わる。……こ、こんなに嬉しそうにしてくれるとは。

 私はこれは好感触だ、と「マリアベル嬢のように優秀な方が私の側にいてくれれば、今後の生活も、アルベルト殿下と結婚したあとも、きっと心強いです」と駄目押しをする。
 マリアベル嬢は今までにないくらいの笑顔を浮かべた。そしてぱっと手のひらで顔を覆うと、か細い声で「こんなに幸せなことが」と言った。か、かわいい!

 そんなに喜ばれると私も嬉しい。私にとっては優秀でかわいくて頼りになる仲間が出来てありがたいし、もしマリアベル嬢が嫌でなければ、と思っていたが、こんなに喜んでくれるとは……!
 そんなマリアベル嬢の反応を見て、私も思わずにこにこしていたら、とてつもなく強い視線を感じた。ちらりとそちらに目を向けると、何故かアルベルト殿下が穴が開きそうなほど私を凝視している。……いや、アルベルト殿下はなんなの。怖い怖い。

 一瞬視線を合わせたが、表情が変わらず真顔のままじっと見つめられて怖かったので、すーっと視線を逸らし、とりあえずアルベルト殿下は無視した。
 そのままマリアベル嬢に話を続けようとしたのだが、そこにコーネリアス公爵が待ったをかけた。


「エルメア嬢、それはいけません。マリアベル嬢には事件解決の為、力を貸してもらいました。しかし……言いたくはありませんが、エルメア嬢との関係がわからない。マリアベル嬢を信じたい気持ちは私にもあります。ですが側で働いてもらうというのはいくらなんでも。しかも、お二人の結婚後も側に居てもらうつもりですか?……王家もアルベルト殿下もお許しにはならないはずです」
「……マリアベル嬢についてはアルベルト殿下も言及しないと」
「お二人の関係について言及しないと仰っただけです。すべてを許すとは仰っていません。エルメア嬢、お立場を考えてください。あなたは将来、殿下とともに国を統べるお方です」
「……アルベルト殿下はどうお思いですか?やはり、マリアベル嬢に私のもとに来ていただくのは反対ですか?」


 コーネリアス公爵の言葉に、ぐうと呻きたくなる。いや私も確かに気になるけど、言えない事情があるならしょうがない。いつか聞けたらいいなとは思うけど……。マリアベル嬢は良い子だよ……証拠を出せと言われたら困るけど……!
 確かに、立場上気をつけろというのもわかるし、そうすべきなのも理解している。そこらへんの町娘でもないのだ、わかってはいる。でも確信を持てるのだ、マリアベル嬢は何も企んではいないと。

 私は一応アルベルト殿下の意見も聞こうと彼に問いかけるが、返事は返ってこない。無言でじっと私を見つめてくるだけだ。……さっきからどうしたのだろう。

 私が「アルベルト殿下?」と再度声をかけたら、アルベルト殿下は私を見つめたまま口を開く。

 
「エルメアが…………」
「アルベルト殿下、エルメア嬢にしっかり仰ってください。それは難しいことだと」
「エルメアが……私との結婚を明言した……」
「ほら、アルベルト殿下も反対なさって……は?」
「聞いたか?エルメアが私と結婚したあとの話をしているぞ」


 マリアベル嬢もきらきらとした笑顔だったが、アルベルト殿下も負けず劣らずきらきらした笑顔でコーネリアス公爵に嬉々として語り始めた。

 それを聞いたコーネリアス公爵がなんともいえない目でアルベルト殿下を見ている。というか、考えることを放棄した顔だ。

 というかいきなり何の話!?


「エルメア、私と結婚すると言ったな?」
「え、ああ……それは、まあ……。王家と公爵家の決め事ですし、そう簡単に覆ることはないかと……。このまま何事もなくいけば、アルベルト殿下と結婚することにはなると思いますが……」
「二人の未来をきちんとエルメアの中でも想像できているんだな?」
「二人の未来!?というか、今その話をしているのではなくて、マリアベル嬢の話をしているのですが。……マリアベル嬢に私の側で働いてもらうこと、どう思われますか」
「……もういい、それはエルメアの好きにしてくれ。私が何を言っても押し通す気だろう?」
「……ご意見はちゃんときます」
「……やりたいと思うなら好きにすればいい。私が気をつければいいからな。今回のような事件は、もう誰にも起こさせない」
「……アルベルト殿下、よろしいのですか?」
「ああ、問題ない。コーネリアス公爵もともに注意深く見守ってくれるだろう?」
「わ、私もですか……」


 遠い目をしたコーネリアス公爵には心の中で謝った。ご、ごめんね!何か苦労をかけてごめんね!

 アルベルト殿下が好きにしていいと言ってくれたので、私は改めてマリアベル嬢に話をしようとしたが、アルベルト殿下が「一体どんな夫婦の想像をしたんだ」とか「二人の時間を大事にしよう」などと話し始めるので、とりあえずアルベルト殿下の話を終わらせるべく、彼に向き合った。


「殿下、その件は後ほど二人で話しましょう。その話をするべきは今ではないです」
「二人の将来についてか?わかった、ゆっくり話そう。ちゃんとじっくり話をしよう」
「わ、わかりました。……では、マリアベル嬢をサーラント公爵家で雇うというのは反対されないですね?」
「……私は反対はしない。……近くにいてくれたほうが対処もしやすいしな。陛下やサーラント公爵がどう判断するかはわからないが、君の思う通りにするといい。……だが、私は心の底から彼女を信頼できないというのは理解してくれ」
「……わかりました」


 信頼できないとはっきり言われると、私の事じゃないのに傷つく。マリアベル嬢、私は信じてるからね、という気持ちで彼女を見ると、マリアベル嬢は優しく笑っていた。
 ……こんなに優しく私達を見てる人が、私を害するとは思わない。私はしっかりとマリアベル嬢を見つめ、話の続きをする。


「では、改めて。……マリアベル嬢、アルベルト殿下からの許しも得ました。私の父と母にも了承を得なければなりませんが……どうか私のもとに来てください」
「……っ!エルメア様が望んでくださるのであれば!」


 弾けんばかりの笑顔で返事をしてくれたマリアベル嬢に、私はほっこりしてしまう。
 コーネリアス公爵は苦笑いしているが、これ以上何かを言うつもりはないようだ。

 アルベルト殿下が「何だ今の結婚してくださいみたいな言葉は」とごちゃごちゃ言っていたが無視だ無視。

 大丈夫、うまくいく。
 私が計画したことがこの人生でうまくいったことないけど、きっとうまくいくはず!……とりあえず父と母の説得方法を考えよう。
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