23 / 24
23
しおりを挟む
我ながら名案だと思った。
伯爵家が取り潰しになれば、マリアベル嬢とアルマ殿は路頭に迷うことになるかもしれない。もちろんそうならないような全力で力を貸すつもりではあるが。
だったらいっそのこと、優秀なマリアベル嬢が女伯爵となれば、伯爵家を取り潰しにすることもなく、二人が困ることもない。
幸い、イゼルド王国は女も爵位を継げる。マリアベル嬢が伯爵となることは不可能ではない。私は思いついたまま声に出していた。
今後、二人は難しい立場に立たされる可能性がある。サーラント公爵家や王家が力添えをして、罪に問われることはなかったが、彼女達が主犯格の関係者であることは周知の事実。モーブ伯爵に恨みを持つ者がいれば、何者かに狙われる可能性だってあるかもしれない。それならば、手っ取り早く地位を手にしてもらい、私達が助けられる場にいてもらうのが一番いい。
だってあんなに頑張ってくれたマリアベル嬢が、今後に不安を抱いている状況なんて、絶対にあってはならない。ここまで努力してくれた彼女に報いる為に、私だって何かしたい。そして、公爵家の人間である私には力を貸すことができる。
「あ、あの、エルメア様、さすがにそれは」
「……エルメア、そんなことできるわけがないだろう」
「不可能ではないはずです。私がお父様に頼んでみます。難しいかもしれませんが、力になってくれるはずです。これからマリアベル嬢達は難しい立場に立たされる可能性があります。伯爵位を継いでくれれば、私だって力になれる。アルベルト殿下やコーネリアス公爵もです」
私の話に苦笑いを浮かべるマリアベル嬢とコーネリアス公爵。アルベルト殿下は頭を抱えだした。……え、駄目?私が「駄目でしょうか……」というと、マリアベル嬢がものすごく申し訳なさそうな顔をしながら話し出した。
「エルメア様、私の為を想って仰ってくださってるのはわかります。お心遣いは、本当に、本当にうれしいのですが……。私には荷が重いですし、分不相応です。もちろん母にも。私達は元々貴族とは縁遠い人間です。この場にいることすら、本来あってはならないことです」
「あってはならないなんて、そんな事言わないでください!マリアベル嬢は私の為に、ずっと頑張ってくれていたのに!」
「……もし、万が一伯爵位を私が継いだとしても、きっと何も出来ません。反発を生むだけです。それだけでなく、エルメア様に不利なことになるかもしれない。不幸を生み出すかもしれない。不躾ながら、伯爵家は取り潰し、モーブ伯爵領は王家の直轄領となるのが最善ではないかと」
「……私もマリアベル嬢の意見に同意だ。エルメア、思いつきで物を言うものじゃない」
「で、でも……マリアベル嬢が地位を得れば、きっと素晴らしい伯爵にっ」
「……エルメア嬢、私もマリアベル嬢の意見に同意いたします。エルメア嬢のおっしゃる通り、お二人は難しい立場に立たされることになりますし、危険があるやもしれません。しかしそれは地位を得ても同じこと。むしろ地位を得たからこそ、より危険になるのではないかと。彼女に非がないことを我々は理解していますが、モーブ伯爵が行ったことは、国中が知るところとなっている。娘である彼女が、モーブ伯爵のの地位を手に入れるとなれば、反発もあるでしょう。取り潰しはいわば、今後こんなことを起こさせない為にも、言い方は悪いですが見せしめとしても必要ではないかと思います」
アルベルト殿下の言い方には思わず言い返してしまったが、コーネリアス公爵の意見で、しっかり納得させられた。
今回の事件、解決はしたが苦しんだ国民がいたのも事実。主犯格であるモーブ伯爵家の取り潰しは、いわばパフォーマンス的にも必要、そしてそれは他の貴族達への抑止力にもなる、ということか……。
どうしてそこまで考えないかな、私は……。そして3人とも、そこまで考えを巡らせてるのが今の発言で理解できた。自分が情けなさ過ぎる……。
マリアベル嬢を助けてあげたいのに、それができないのがもどかしい。地位を得れば、マリアベル嬢はその優秀さで人々から尊敬される、素晴らしい女伯爵になるかと思ったけど……浅はかな考えだった…………。情けなさと恥ずかしさで、私は思わず顔を隠した。
「アルベルト殿下、コーネリアス公爵……すみません、浅はかでした。……マリアベル嬢もごめんなさい。よく考えもせずに勝手なことを……」
「エルメア様、私の身を案じていただいてありがとうございます。学園は辞めることになりますが、人間、どうとでも生きていけます。私はそもそも貧乏暮らしには慣れっこなのです。逞しく生きていきます!」
にこっと笑ってくれたマリアベル嬢が指の隙間から見えて、胸がぎゅっとなる。こんな良い子が!こんなに素敵な子が!私を助けてくれた優秀な女の子が!学ぶ機会も失って、母娘で危険と隣り合わせで生きていくの?
私は考えた。そして一つの考えに行き着く。
私は難しいことを考えるのは正直苦手だ。そもそもこの先アルベルト殿下と結婚して国母としてやっていけるか怪しいレベルで頭が良くない。普通科にしか行けなかったし。目先のことに目が行きがちだし、裏の裏を読むのも苦手だ。だから浅はかな考えしか思いつかない。
もう、マリアベル嬢には側に居てもらえばいいのでは?
私はこれから、この国で生きていくしか道がない。もうどう頑張っても他国に行けそうにない。だったら、この貴族社会で頼りになる仲間がほしい。もちろん友達はいるが、側に優秀な人がいてくれたら、心強い。そしてそれがマリアベル嬢だったら、きっと素晴らしいだろうな、と思いついてしまった。
私の立場を利用して、マリアベル嬢を助け、なおかつ私も得する方法。私の側で働いてもらえば、それが叶う。そうすれば、私は公爵家の人間として、彼女をしっかり守ってあげられる。
それが、マリアベル嬢にとっていい方法かはわからないけれど。
私はふうと息を吐いて、顔を隠していた手のひらを膝の上に戻し、マリアベル嬢を見つめた。私の事を見返してくる美しい顔がふわっと笑顔になる。
「マリアベル嬢、もう一つ提案があるのですが」
「……エルメア、いい加減にしてくれ。彼女のことは王家としてもきちんと」
「いえ、私が力になりたいのです。……でもこれは私が得するだけかもしれないですし、マリアベル嬢にとって良いお話かどうかはわからないので、もちろん、断っていただいても構いません」
「……エルメア様?それはどういった……」
「マリアベル嬢、よければ、サーラント公爵家で働くというのはいかがですか?」
「えっ」
「私の側で、これからの私の力になってくれませんか?」
伯爵家が取り潰しになれば、マリアベル嬢とアルマ殿は路頭に迷うことになるかもしれない。もちろんそうならないような全力で力を貸すつもりではあるが。
だったらいっそのこと、優秀なマリアベル嬢が女伯爵となれば、伯爵家を取り潰しにすることもなく、二人が困ることもない。
幸い、イゼルド王国は女も爵位を継げる。マリアベル嬢が伯爵となることは不可能ではない。私は思いついたまま声に出していた。
今後、二人は難しい立場に立たされる可能性がある。サーラント公爵家や王家が力添えをして、罪に問われることはなかったが、彼女達が主犯格の関係者であることは周知の事実。モーブ伯爵に恨みを持つ者がいれば、何者かに狙われる可能性だってあるかもしれない。それならば、手っ取り早く地位を手にしてもらい、私達が助けられる場にいてもらうのが一番いい。
だってあんなに頑張ってくれたマリアベル嬢が、今後に不安を抱いている状況なんて、絶対にあってはならない。ここまで努力してくれた彼女に報いる為に、私だって何かしたい。そして、公爵家の人間である私には力を貸すことができる。
「あ、あの、エルメア様、さすがにそれは」
「……エルメア、そんなことできるわけがないだろう」
「不可能ではないはずです。私がお父様に頼んでみます。難しいかもしれませんが、力になってくれるはずです。これからマリアベル嬢達は難しい立場に立たされる可能性があります。伯爵位を継いでくれれば、私だって力になれる。アルベルト殿下やコーネリアス公爵もです」
私の話に苦笑いを浮かべるマリアベル嬢とコーネリアス公爵。アルベルト殿下は頭を抱えだした。……え、駄目?私が「駄目でしょうか……」というと、マリアベル嬢がものすごく申し訳なさそうな顔をしながら話し出した。
「エルメア様、私の為を想って仰ってくださってるのはわかります。お心遣いは、本当に、本当にうれしいのですが……。私には荷が重いですし、分不相応です。もちろん母にも。私達は元々貴族とは縁遠い人間です。この場にいることすら、本来あってはならないことです」
「あってはならないなんて、そんな事言わないでください!マリアベル嬢は私の為に、ずっと頑張ってくれていたのに!」
「……もし、万が一伯爵位を私が継いだとしても、きっと何も出来ません。反発を生むだけです。それだけでなく、エルメア様に不利なことになるかもしれない。不幸を生み出すかもしれない。不躾ながら、伯爵家は取り潰し、モーブ伯爵領は王家の直轄領となるのが最善ではないかと」
「……私もマリアベル嬢の意見に同意だ。エルメア、思いつきで物を言うものじゃない」
「で、でも……マリアベル嬢が地位を得れば、きっと素晴らしい伯爵にっ」
「……エルメア嬢、私もマリアベル嬢の意見に同意いたします。エルメア嬢のおっしゃる通り、お二人は難しい立場に立たされることになりますし、危険があるやもしれません。しかしそれは地位を得ても同じこと。むしろ地位を得たからこそ、より危険になるのではないかと。彼女に非がないことを我々は理解していますが、モーブ伯爵が行ったことは、国中が知るところとなっている。娘である彼女が、モーブ伯爵のの地位を手に入れるとなれば、反発もあるでしょう。取り潰しはいわば、今後こんなことを起こさせない為にも、言い方は悪いですが見せしめとしても必要ではないかと思います」
アルベルト殿下の言い方には思わず言い返してしまったが、コーネリアス公爵の意見で、しっかり納得させられた。
今回の事件、解決はしたが苦しんだ国民がいたのも事実。主犯格であるモーブ伯爵家の取り潰しは、いわばパフォーマンス的にも必要、そしてそれは他の貴族達への抑止力にもなる、ということか……。
どうしてそこまで考えないかな、私は……。そして3人とも、そこまで考えを巡らせてるのが今の発言で理解できた。自分が情けなさ過ぎる……。
マリアベル嬢を助けてあげたいのに、それができないのがもどかしい。地位を得れば、マリアベル嬢はその優秀さで人々から尊敬される、素晴らしい女伯爵になるかと思ったけど……浅はかな考えだった…………。情けなさと恥ずかしさで、私は思わず顔を隠した。
「アルベルト殿下、コーネリアス公爵……すみません、浅はかでした。……マリアベル嬢もごめんなさい。よく考えもせずに勝手なことを……」
「エルメア様、私の身を案じていただいてありがとうございます。学園は辞めることになりますが、人間、どうとでも生きていけます。私はそもそも貧乏暮らしには慣れっこなのです。逞しく生きていきます!」
にこっと笑ってくれたマリアベル嬢が指の隙間から見えて、胸がぎゅっとなる。こんな良い子が!こんなに素敵な子が!私を助けてくれた優秀な女の子が!学ぶ機会も失って、母娘で危険と隣り合わせで生きていくの?
私は考えた。そして一つの考えに行き着く。
私は難しいことを考えるのは正直苦手だ。そもそもこの先アルベルト殿下と結婚して国母としてやっていけるか怪しいレベルで頭が良くない。普通科にしか行けなかったし。目先のことに目が行きがちだし、裏の裏を読むのも苦手だ。だから浅はかな考えしか思いつかない。
もう、マリアベル嬢には側に居てもらえばいいのでは?
私はこれから、この国で生きていくしか道がない。もうどう頑張っても他国に行けそうにない。だったら、この貴族社会で頼りになる仲間がほしい。もちろん友達はいるが、側に優秀な人がいてくれたら、心強い。そしてそれがマリアベル嬢だったら、きっと素晴らしいだろうな、と思いついてしまった。
私の立場を利用して、マリアベル嬢を助け、なおかつ私も得する方法。私の側で働いてもらえば、それが叶う。そうすれば、私は公爵家の人間として、彼女をしっかり守ってあげられる。
それが、マリアベル嬢にとっていい方法かはわからないけれど。
私はふうと息を吐いて、顔を隠していた手のひらを膝の上に戻し、マリアベル嬢を見つめた。私の事を見返してくる美しい顔がふわっと笑顔になる。
「マリアベル嬢、もう一つ提案があるのですが」
「……エルメア、いい加減にしてくれ。彼女のことは王家としてもきちんと」
「いえ、私が力になりたいのです。……でもこれは私が得するだけかもしれないですし、マリアベル嬢にとって良いお話かどうかはわからないので、もちろん、断っていただいても構いません」
「……エルメア様?それはどういった……」
「マリアベル嬢、よければ、サーラント公爵家で働くというのはいかがですか?」
「えっ」
「私の側で、これからの私の力になってくれませんか?」
17
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる