鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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出会い

明かされる真実

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 樹木が生い茂る中に隠されている古びた木製の小さな小屋の中に入ると至る所に武器が置かれ鉄の匂いと血の匂いが入混ざっていた。

ギシッ…

 床も古いし僅かに拭いきれなかった血の跡が…

ドンッ!?

「うっ‥」

 足元を見ていたせいか前にいた椿にぶつかってしまいおでこをさする。

「じゃあ、脱いで」

「へ………‥?」

 振り返った椿の一言に一瞬にして固まる。

えっと…‥脱ぐ…?

 呆然と見上げる私に、椿は何を思ったのか慌てて口を開いた。

「あ…ち、違うの!そういう意味じゃなくて…いや、半分はそうなんだけど…って、誤解だから!ただその…を確かめなきゃいけなくて…」

あー、そういう事か。鬼の印をがあるかないか確認する為にこの小屋に連れて来たのか…

「分かりました」

 言われるがままに自身の藍色の小袖に手をかけると、椿は武器だらけの棚奥に手を伸ばし衣服を取り出すなりその場に座り込んだ。

「や、やっぱり駄目っ!」

 ガシッ!

「え…?」

 上半分を脱ぎかけていた手を掴んだ椿は必死な顔で話を続けた。

「ここから出してあげるから逃げて!」

「逃げるって…?」

 予想外の言葉に驚きのあまり動揺していると、椿は視線を落とし暗い表情で話し始めた。

「私、狼の事が好きなの」

「そうですか…」

物好きもいるんだな

中身が極悪非道でも見た目は二十代後半の白髪に切れ長の灰色の瞳をした二枚目の男性な為、見た目だけなら女性が惹かれるのも頷けた。

「でも、こういうのは許せなくて…前にね、狼に目をつけられた女の人が連れてこられたの。あなたみたいに力を見る事は無かったから直ぐに、印を確認する為に私とこの小屋で二人になった。その人は人間で山を越えて違う国に行く予定だったらしくて…」

「…‥」

何故だろう?嫌な予感がする…

「でもね、その人は酷く悔やんでた。自分の子供を手放してしまったって…守れなかったって言っていたわ」

「っ…!?」

まさか…

「その人が連れてこられたのは三年前の師走半ばの時ですか?」

「そう。確か、旦那さんが辻斬りで亡くなって店を畳む事になって子供を手放したって言っていたわ」

やっぱり、その女の人って…‥駒だ

転生して初めて出会い最初の育ての親だった駒が椿が話している人物だと気づき震える手を抑え込む。

「でも、その旦那さんの辻斬りは狼がやったの…」

「え…?」

椿の思わぬ言葉にうつむいていた顔を上げる。

「あの大雪だった時、仲間の一人が依頼で街中にいたんだけどその日は狼も暇だったから監視として一緒にいたの。その仲間はまだ入って間もなかったからもしも関係ない人に見られてしまった時の為にね。だけど、その不安は的中した。依頼人の言う人物を斬った所をたまたま街中を歩いていた関係ない人に見られてしまったの」

「それって…」

「そう、その女の人の旦那さんだった」

…次郎

「見られてしまった事に動揺してしまった仲間に対し、狼はその旦那さんを斬った。そして、その後見られてしまった仲間も狼の手で…」

少しのミスも許さない、極悪非道の性格を持つ狼なら有り得る話だ

「その事をその女の人に話したら酷く動揺して涙を流していたわ…」

それは…そうだろう。心底愛していた最愛の人の亡くなった真相を知ってしまったのだから…

「私…その人を狼から助けたくて手を貸したの」

「え…でも、どうやって?」

狼のいる場所は、常に小さい針や糸を巡らせられていて草木を少しでも揺らそうものなら狼の耳に届き監視される。

「狼とは長い付き合いだから小さな隙ぐらい分かるわ」

「なるほど」

「だから、狼の目をくぐってその女の人を逃がした。だけど、失敗に終わった。その後、狼に逃がした事がバレて私は罰を受けその女の人は狼の執拗な追ってに負けてそのまま…」

「あ……」

それ以上は何も言えなくなり口を噤んだ。その先は聞かなくても分かってしまったからだ。

ドサッ…

「大丈夫っ!?」

突然、力無く座り込んでしまった私に椿は慌てて声を掛けた。

「大丈夫です。ただちょっと…‥」

力無く首を横に振ると何かを悟った椿が真っ青な顔で口を開いた。

「あなた、まさか…‥花火?」

「っ…」

失くした名前を呼ばれ胸がキュッと締め付けられた。

「その女の人が言っていたの。狼に捕まって連れこられた時、”花火、ごめんなさい…”って…」

「…‥そんな名前の人は知りません」

花火はもういない…

「え、でも…」

花火はもういないから…

「私には名前はありません」

「っ…」

胸が苦しくなるのを抑えながらそう言うと、椿は懐から赤い髪紐を取り出し差し出した。それは、銀髪の少年との戦いの最中で髪を切った際に一緒に捨てた筈の髪紐だった。

「私と逃げる?」

それは大きな選択だ。もしここで彼女の手を取って逃げた未来と逃げなかった未来…どちらが生き残れるかという大きな選択…

「…逃げません」

「本当にいいの…?」

「もし、ここで逃げてしまったら手を貸したお姉さんは今度は確実に狼の手にかかりますよね?」

「それは…‥」

否定は出来ないのか、椿は言いかけた言葉を飲み込んだ。

「私が助かって誰かが犠牲になる事は嫌です」

「っ…あの女の人と同じ事を言うのね」

駒も椿が犠牲になる事を望んでなかったんだ。それでも、椿は逃げる事を説得したんだろう…

「だからと言って、自分の命も諦めていません。だから、逃げるなら自分の力で逃げます」

「え…ちょっと待って!?そんな事出来るわけ‥」

「お姉さん、さっき言いましたよね?狼の小さな隙ぐらい分かるって」

「言ったわ」

「それって、長い付き合いじゃなくても分かる様になるんじゃないですか?」

真っ赤な瞳を真っ直ぐに見つめると、椿は戸惑いの表情を浮かべた。

「それは…でも、分かるようになるにはそれなりの力がないと‥」

「大丈夫です。観察眼には自信がありますし、強さも時間はかかるかもしれませんがそれなりに強くなる自信もあります」

月華の身体能力は人並み以上だからね

「それより、その髪紐は女の人の傍に置いてくれますか?」

椿の手のひらの中にある赤い髪紐に視線を向けそう言うと椿は小さく頷いた。

「分かったわ」

椿を完全に信じた訳ではないが自身が危険になるのをかえりみず逃がし、その後狼から罰を受けたのにまた人を助けようとした人だ。駒が狼の手で亡くなったと聞いて何もしないとは考えにくい。

「あなたって、あの銀髪の少年に似てるわね」

「え?どこが?」

それは、凄く嫌なんですけど…

冷たく睨む水晶の様な水色の瞳や口々と言われた蔑む言葉を思い出し嫌な気持ちでいっぱいになった。

「感情が顔に出ないところかな」

「感情が…‥?」

思わず自身の頬に触れると椿は小さく笑を零した。

「ふふっ、あなたも気づいてなかったのね」

「も?」

「あの少年が狼の仲間に入った頃に同じ事を言ったら”だから、何?”ってどうでもいい様に言っていたの。多分、ここまで来るのに色々あり過ぎて気づかない内に感情を表に出せなくなって…それが当たり前として受け入れてしまったのだと思う。あなたもそうじゃないかなって…」

「私は…‥」

私はともかく月華はそうだったのかもしれない。月華は、感情が表に出る事がなく口数も少なく誰に対しても素っ気なく冷たい口調で話し命令されたら淡々とこなす一匹狼感が強いキャラクターだった。だけど、そうなってしまった原因が花火としての人生や狼の部下として生きた年月が原因だとしたら納得がいく。月華と冷は同じだったんだ…‥

「答えなくてもいいわ。そうだとしてもあなたなら大丈夫な気がする。私より強いから」

「強い?」

首を傾げると椿は自身の胸に手を当てた。

「ここがね」

困った様に笑った椿の笑顔は少し切なく辛そうに見えた。

 ❋

雪が一つ、二つと降り続けるのが戸の隙間から見えながら一人の十四歳ぐらいの少年は机に向かって筆を動かしていた。

「出て来ていいですよ」

少年が筆を動かしながら声を出すと、青色の短冊の様なピアスを左耳につけた青色の髪の少年が戸の隙間から顔を出し入るなり座りながら静かに戸を閉めた。

時雨しぐれ様、報告します」

時雨と呼ばれた腰まである水色の長い髪に藍色の瞳を持つ中性的な少年は筆を置くと戸の前に座る少年に顔を向けた。

「辻斬りと思われる家に行きましたが一人の少年を除く四人の家族全員が同じ様な斬り方で切られ、残された一人の少年も山沿い付近で見つけましたが同じ斬り方で斬られていました。その際、少年の傍らに使用したと思われる刀を発見しましたがそれ以外の手掛かりはありませんでした」

「山の中には行きましたか?」

「はい。ですが、日も落ちていたので奥まで行く頃には何も見えず行く道でのそれらしい手掛かりや人影も何もありませんでした」

「それでは、明日の朝また‥」

「無駄だと思うぜ?」

「うっ!?こ、黒道こくどう様!?」

突然入って来た黒道と呼ばれた黒髪に黒い瞳、浅黒い肌を持つ二十二歳ぐらいの大柄な男は青色の髪の少年の頭をゴツゴツした片手で抑えつけ時雨の顔を見るなり笑いかけた。

「突然入って来てなんですか?」

顔を見るなり時雨は怪訝な顔で見つめ返すと、痛くも痒くもないように笑みを浮かべながら黒道が口を開いた。

「そのままの意味だ。その辻斬りがだとしたら明日になったらとっくに消えてる。小さな痕跡さえ残さずにな。だから、探しても無駄骨だと思うぜ」

「ちっ…山犬のくせに足跡すら出さないとは…‥」

苦虫を噛み潰したような顔で言った時雨の皮肉は冷たい雪の中へと消えていった。














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