鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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出会い

月夜の椿

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キー…キー…‥

「はぁ…はぁ…‥」

 急いで帰らないと疑われて洞穴に入れてもらえなくなっちゃう…っ

 内側からしか開かない洞穴の中で眠っている銀色の髪の少年を思い浮かべながら山の中を走る足が速くなる。

 椿が言っていた通りなら動物が一番強く鳴いているのはこの辺の筈なんだけどなぁ…

『月が闇を照らす時、動物の鳴き声が強く響く方に来て』…という椿の言葉通りにやって来た場所は大きな草木が生い茂り僅かに水の匂いがした。

「あ…‥」

見つけた!

 草木を掻き分けながら光が差す方へと出ると、木に登る小さな猿に木の実をあげる椿の姿が会った。

「…来てくれてありがとう。怪我してない?」

「してません」

「良かった。じゃあ、先にここに座って」

 椿は猿に木の実を与え終わるとすぐ側にあった大きな岩を見て座るよう促した。

「ここって川があるんですね…」

 促されながら岩に座ると物珍しそうに辺りを見渡す。

 小さな川だけど水音が癒されるし、月が水面に映って綺麗…

「うん。他にも似たような川があるんだけど、そこは狼や他の仲間達が居るからここは私だけが来る場所なの。だけど、念には念を込めて月が夜に出ている時だけ来るようにしてて…」

「だから、"月が闇を照らす時"なんですね」

「うん、あと絶対に近づけない様に猿達にも協力してもらってるの。猿がいると何かを盗まれるって思うからね」

「なるほど」

だから、猿に餌をやっていたのか…

「それより、今日切った髪を整えないとね」

「整える?」

 椿はそういうと持っていた大きな風呂敷からハサミと赤いべっ甲のくしを取り出しボサボサの黒髪に触れた。

チョキチョキチョキ…

「たまに、狼や他の仲間達にもこうやって切ってあげてるの」

「そうなんですね」

チョキチョキ…

「あと、ここには髪や体を洗いにも来ているんだけどあなたもここで洗いに来ればいいわ。ここなら、誰にも見つからないで洗えるから」

チョキチョキ…

「はい、そうします」

「でも、今日は無理そうね」

「…?」

 小さく呟かれた言葉に首を傾げると、いつの間にか切り終わったのかハサミを風呂敷に戻し櫛で優しく梳く。

「ねぇ、この黒い手拭い解いていい?」

 左目を隠す為に付けている黒い手拭いの結び目に触れられ慌てて口を開く。

「それは…‥」

「駄目だった?」

「……」

椿の問いかけに口を噤むと下を向いて俯く。

 椿もこの目を見て何も思わないわけがない。もし、この目を見てこの優しさが変わってしまうのが怖い…

「見られたくないならいいわ。無理強いするつもりはないから。ただちょっと、気になっただけ」

椿は顔を覗き込むなり優しい笑みを浮かべた。

「私ね…この山で狼に出会ったの」

「え…?」

 髪を梳きながらポツリと漏らした椿の言葉に聞き返すと、苦笑い混じりに話を続けた。

「私は、捨て子だったの。私が住んでいた家は貧乏で子供を育てるには苦しい環境だった。だけど、追い打ちをかけるように賭博とばくをした父が借金して首が回らなくなって挙句の果てにはこの山に捨てられた。母は泣きながら何度も私に謝ってそのまま背中を向けて居なくなってしまった。今のあなたと同じ歳の時だったわ」

「……」

状況は違うけど捨てられたのは少し似てる気がする…

「それで、行く宛てもなく山の中を彷徨っている所を偶然この山に来ていた狼に拾われたの。当時の狼は雪羅せつらから来たばっかりでまだ今みたいな仕事をしてなくて仲間を集めている最中だった。それで、偶然出会った捨て子の私を見て使えるって思ったのかも…でもね、私はそれでも良かった。初めてって言ってくれたから…」

 雪羅とは北の方に位置する国で一年中雪が降り続ける極寒で主に鉄や銅、金などが採れる国だった。

「元の家では両親からずっとって言われ続けてたから…まぁ、そう言われても仕方ないんだけどね。実際、お金がなくて苦しいのに私がいるから尚更苦しかったんだろうし…」

悲しげに言う椿の声に複雑な感情になった。

 狼は極悪非道の人間。使えないと思えば直ぐに切り捨てるそんな人間。それでも、椿にとっては初めて必要としてくれた人で大切な人…利用されてると知りながらも大切だと思える人か……

「よし、綺麗になった!…どうかな?」

 複雑な感情でぐるぐると考え込む私を他所に、梳き終わった椿は風呂敷に櫛を戻すとそれと同時に赤い手鏡を取り出し目の前に差し出した。

「大丈夫です、ありがとうございます」

 鏡に映る肩まである黒髪は綺麗に整えられており椿の腕がいいのがよく分かった。

「あ!頬も拭いておかないと…」

 椿は懐から赤い手拭いを取り出すと川の水に少し濡らし頬に触れた。

「冷たっ!」

「ふふっ、我慢してね。直ぐに、終わるから」

 頬に付いていた僅かな血痕が濡れた手拭いによって綺麗に拭かれると、椿は誰も居ない筈の草木に向かって話しかけた。

「終わったから連れて帰ってもいいわよ」

「…?」

ガサガサッ…

「…!?」

 椿の言葉に草木から顔を出した銀色の髪に水晶の様な瞳を持つ少年の姿に驚き過ぎてその場で固まった。

「いつから気づいていたんだ?」

「最初からかな?何となく動物達の反応に違和感を感じたの」

「はぁ…さすが、狼の女と言った所か」

「褒め言葉として受け取っておくわ。それより、次からは覗き見したら駄目よ」

 片目を瞑って注意する椿に、少年は怪訝な顔で言い返す。

「不細工の体には興味ない」

「なっ…!?」

 少年の嫌そうな言葉に一瞬にして我に返り怒りが込み上げる。

 何度も何度も不細工って…ふざけんなぁっ!一体、どんな目をしてるのよ!ヒロインには負けるかもしれないけど、月華は将来美人に育つんだから!

「帰るぞ」

「え…?」

「死にたくなかったら着いて来い。お前を野放しにしたらバラすかもしれないからな」

あー、そういう事ですか…

「今、行く」

 渋々返事をすると椿に会釈をし少年の元へと駆け寄った。

「……可愛くないんだから」

 銀色の髪をした少年と左目を隠した黒髪の少女が去って行くのを見ながら、椿は可笑しそうに言いながら小さな笑を零した。




























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