鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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繁火への旅

李の嫉妬

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 繁火の中心に到着し一夜が明け、私は朝の朝餉を食べに行く為に誰も居ない部屋で一人支度をしていた。

「そう言えばこれ成り行きで貰う羽目になったけど、どうしよう…?」

 昨夜、夕食の前に湯浴みに向かう最中に偶然右頬に手を当てながら走っていた灯とぶつかった。

ドンッ…

『ご…ごめんなさい…っ!』

 顔を見ずに謝りその場から去ろうとする灯に慌てて口を開いた。

『待って!その頬、大丈夫?』

 赤く染まった右頬に気づき問いかけると灯は立ち去るのを止め振り向いた。

『あ…その…私…』

顔を見るなり動揺する灯に益々首を傾げた。

『何かあったの?』

『っ…、な…何でもないです!こ、これ代わりに処分して下さいっ!』

グイッ!

『え…』

 いきなり何かを手に握らされ戸惑いの声が漏れた。

『絶対に口にしたら駄目です!捨てて下さい!』

ドタバタドタバタ‥ドタドタッ…

『えー…』

 言うだけ言って一階に降りて行った灯に取り残された私は握らされた白い粉が入った小さな透明な瓶を凝視した。

『これって…‥』

そして、時は戻り現在…

「これって…鬼睡草だよね…?」

 灯から渡された白い粉が入った透明な瓶を確かめた際にここ最近何度も嗅いだ事のある匂いを思い出し直ぐに正体が鬼睡草の根だと分かり処分しようにも出来ずにいたのだった。

 何で、灯が鬼睡草を…?もしかして、李から奪ったとか?だから、処分してだなんて言ったのかな?

 灯の行動の理由に首を傾げていると隣から李の声が耳に届いた。

「月華は罪人です‥っ!護衛から外すべきです!」

っ‥!?

 聞き捨てならない言葉に鬼睡草の根の粉が入った瓶を懐に入れ隣の部屋へと駆け出した。

ドタドタドタッ‥バタンッ!ドタドタドタッ…

「…このかんざしは間違いなく咲羅様の物です!」

っ…!?

 隣の部屋に入るなり出かけていた筈の黄蘭と黄桃と頬が治り戸惑いの表情を見せる灯と咲羅から貰った桜の形をした飾り付きの赤い簪を手にした李の姿があった。

 何で、李があの簪を…?確か、風呂敷に入れていた筈だけど…

 混乱する頭で先程まで見ていた風呂敷の中身を思い出す。

 そう言えば、簪が見当たらなかった様な…?だとしたら、何時盗まれたんだろう?

自身の行動を順を追って思い出す。

 …あ!支度の前にかわやに行った時かな?黄蘭と黄桃は怪しい話の出処を探る為の情報収集で出かけてたしその後、私が厠に行ったから隙を狙って風呂敷の中から簪を盗んだんだ!

「黄桃様、月華を護衛から外して罪人として城で処罰して下さい!」

 黄桃に簪を見せながら訴える李の姿に体が動く。

咲羅様から貰った簪…取り返さなきゃ…っ!

 ❋

 時は少し遡り、朝餉の前に怪しい話の出処を探る為に街へと出かけていた黄桃は黄蘭と一緒に宿屋に戻り李と灯を呼びに二人の部屋へと訪れた。

スー…ガタッ‥

「黄桃様‥っ!」

「っ‥!?」

 桜の形をした赤い簪を手に勢いよく迫って来た李の姿に目を丸くする。

「月華は盗人です!」

 意味のわからない事を唐突に言う李に対し、黄桃はわざとらしく首を傾げながら瞳を金色に変えた。

「どういう事?」

「月華がこの簪を所持していました」

これは…

 李が持つ桜の形をした赤い簪を改めて凝視するなり既視感を覚え思考を巡らせる。

「この簪は間違いなく咲羅様が所持していた物です」

咲羅の簪…!?

「ただの女中だった月華が咲羅様の簪を所持しているだなんて普通に考えてありえません。きっと、咲羅様から盗んだに違いありません」

 真剣な顔でそう訴える李に黄桃は表面上は嫌悪の表情をしながらも内心は溜息を零し呆れていた。

はぁ…馬鹿馬鹿しい…

「月華は罪人です‥っ!護衛から外すべきです!」

『早く黄桃様の護衛から外れて居なくなればいい』

 訴える李の言動の反面、心の内は個人の嫉妬や邪険の塊の様な声に内心冷ややかな感情で聞き流す。

「本当に咲羅の簪なの?」

「前に咲羅様がこの簪と同じ物を身につけていたのを見た事があります。断言出来ます。この簪は間違いなく咲羅様の物です!」

『間違いない。咲羅様が身につけていた簪と同じ物よ。どうやって盗んだのかは知らないけど、これで確実に月華が黄桃様の護衛から外れるわ』

咲羅の簪だというのは本当か…

 不意に、李の背後に立つ灯が視界に入り目を合わせようとするも彼女は困惑した表情をしたまま視線を逸らしていた。

何か知ってるのか…?

「黄桃様、月華を護衛から外して罪人として城で処罰して下さい!」

『早く黄桃様の視界から消えればいい!』

「…あの!」

っ‥!?

 突然、背後から聞こえた声に振り向くと必死な顔で立ち尽くす月華の姿があった。

「その簪を返して下さい!その簪は咲羅様から頂いた大切な簪なんですっ!」

『咲羅様から頂いた簪…黒道様からも持っててくれって言われたのに…っ』

っ…

 初めて聞こえたどうでもよくない必死な月華の心の声に心がざわつく。

「嘘つかないで下さい!ただの女中だったあなたが咲羅様から簪を頂くなんてありえません!」

「嘘じゃありません!桜の宴が始まる前に咲羅様から頂いたんです!」

『大事にするって約束したのに…』

 月華の心の声に唇を噛むと李の方へと足を向けた。

「黄桃…?」

 不思議そうな声で問いかける黄蘭を他所に、李の檸檬色の瞳を真っ直ぐに見つめ笑みを浮かべた。

「黄桃‥様…?」

『…かっこいい』

「その簪は咲羅があいつに渡した物だよ」

「え…」

『…嘘』

「黒道が前に桜の宴で咲羅があいつに簪を渡した事を言っていたのを思い出したんだ。だから、間違いなくその簪は咲羅があいつに渡した物だよ」

「そ…そんな…」

『これじゃ、黄桃様の傍から引き剥がすことが出来ない…』

「だから、返して?その簪」

 あからさまに動揺する李を見ながら笑みを浮かべ手を差し出した。

「っ…」

 一瞬、怯えた表情を見せながらも戸惑いながら持っていた簪を手の上に置いた李に対し簪を握ると口を開いた。

「確かな証拠も無しに疑ったら駄目だよ。ほら、こいつにちゃんと謝って?」

「え…」

『黄桃様がそんな事を言うなんて…』

 呆然とする李を見ながら可愛らしく笑みを零す。

「悪い事をしたら謝る。常識でしょ?」

「……」

『こんな女に謝るだなんて…』

 李は躊躇いがちに恐る恐る月華に近づくと少しの間の末に口を開いた。

「…‥すみませんでした」

 小さく呟き頭を下げた李に対し、月華は驚きながらも慌てて声を上げた。

「そ、そんな頭を上げて下さい!…私は返して頂けるだけで大丈夫です」

「…‥」

 月華の言葉にゆっくりと頭を上げた李を他所に、黄桃は簪を手にしたまま月華に近づいた。

「はい、これ…」

 簪を差し出すと、月華は何度か瞬きしながらもその桜の形をした赤い簪を受け取った。

「…ありがとうございます」

『ありがとう…黄桃』

「っ…」

 無表情な顔とは裏腹に心の声は優しく囁くような感謝の言葉に息が詰まった。

「…‥様ぐらいつけてよね」

「…?」

「何でもない‥っ!」

ドタドタッ…

 首を傾げる月華に対し、顔を背けるとそのまま逃げる様に部屋から出て行った。

「黄桃、待ってよ~!」

ドタドタドタッ…

 


















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