鬼の乙女ゲーム世界で裏チートで生き残りたいだけなのに

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繁火への旅

桃と蘭 (後編)

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…ドンドンドンッ!!!

「誰かいないの?」

 逃げ出した黄桃と黄蘭は繁火の中心に向かうなり自身の家である黄瀬家に辿り着くとその大きな門を力一杯叩いていた。

ガタッ‥

「家に何の様だ?ガキ共…」

 隅にある潜り戸から黄土色の髪に檸檬色の瞳を持ち籠目柄の薄紫色の着物に灰色の帯をした男が出て来るなり顔を合わせると男は驚きの表情を見せた。

ザッザッザッ…

「この家の黄桃と黄蘭だ!早く中に入れろ!」

 二人揃って男に駆け寄るなりそう言うと男は顔を背け素知らぬ顔で口を開いた。

「黄桃?黄蘭?知らねぇな」

「はぁ?何言ってるんだよ!?黄瀬家の黄鈴の子供の黄桃と黄蘭だ!お前、同じ分家だろ?知らない筈ないじゃん!」

 黄桃がそう言い張るが男は知らぬ存ぜぬを突き通した。

「知らねぇもんは知らねぇよ。黄瀬家の者以外は入る事は出来ねぇから帰んな!」

「っ…」

 終始、顔を背けながら突き放す男に黄桃は唇を噛むと男の袖を引っ張った。

グイッ!

「ふざけんなっ!」

「なっ!?このガキ何しやがる!離せっ!」

 その瞬間、男は黄桃を引き剥がし地面へと突き放した。

ドンッ!

「っ…」

「黄桃っ!?」

ザッザッザッザ…

 地面に転がった黄桃に直ぐさま近寄った黄蘭を他所に、黄桃は角と牙を生やし瞳を金色にするとこちらを見下ろす男の檸檬色の瞳を真っ直ぐに見つめた。

『…お願いしますっ!ここから出して下さいっ!!!』

っ‥!?

 男の瞳を見るなり視界に映ったのは黄瀬家の地下の牢に閉じ込められた黄鈴の姿だった。

『黄蘭と黄桃を探しに行きたいの!だから、お願いします!ここから出して下さい!』

『それは出来ないと当主様から言われただろ?お前は黄瀬家のお金を盗み出した疑いにかけられてる。ここから出たかったら疑いを晴らすんだな』

『そんな…お金を盗むだなんて真似、私はしてません!』

『じゃあ、お前の旦那が盗んだかもしれねぇな?お前の旦那とガキ二人が消えた日に金も一緒に消えたんだ。お前が手引きしたんじゃないか?もしくは、盗み出した旦那の居場所を知っておきながら庇ってるんじゃないか?そう疑われてもおかしくはないんだ。いくら叫んだ所で疑いを晴らす証拠がないんじゃ意味が無いんだよ』

『私は本当に何も知らないのに…ただ私は黄蘭と黄桃に会いたいだけなのに…』

 絶望に打ちひしがれその場に泣き崩れる黄鈴の姿に胸が締め付けられた。

『…‥おい、聞いたか?あの女が毒を飲んで死んだらしい』

っ‥!?

 景色が変わり次に見えたのは灰色の髪に檸檬色の瞳を持つ男と記憶の持ち主である男が庭先で話し合う様子だった。

『毒?牢屋に居た筈だろ?』

『何でも当主様が自白薬と毒薬を間違えたらしい』

当主が…?

『どの道、疑いを晴らす証拠も無いんだから遅かれ早かれそうなっただろう』

『そうだな。当主様からの伝令も今頃黄瀬家の人間全員に行き渡っている頃だろう』

『伝令?』

『黄鈴を含め黄蘭と黄桃そして、想迫の話は外部の者に口外してはいけない。それと、もし想迫を含め黄蘭と黄桃が戻って来ようものなら部外者として追い返し決して中には入れるべからず…という事だ』

『なるほどな…』

 その瞬間、視界に映る景色が元に戻り今現在の男が見下ろす姿が視界に映り生えていた角と牙が消え金色の瞳が元の茶色の瞳に戻った。

「…死んだ?」

「黄桃…?」

「母様は死んだのか…?」

「そんな…‥」

 黄桃の疑問の声に隣にいた黄蘭は呆然と言葉をなくした。

「母様?誰だそれ?迷惑だから早くここから失せろ、ガキ共」

「っ…」

許さない…こいつら全員許さない‥っ!

 男の嘲笑うかのような顔に我慢の限界に達し妖力が溢れ出した。

「僕がやる…」

 隣に居た黄蘭も同じ気持ちらしく妖力が強まるのを肌で感じながらも突然の強い妖力に戸惑いを見せる目の前の男を睨みつける。

‥ガシッ!

「っ‥!?」

 不意に、背後から頭に大きな手が置かれ目を見開く。

「やっと見つけた」

 聞いた事のない男の低い声に二人は顔を上げると黒髪に黒い瞳を持ち紗綾形さやがた柄の黒の着物と帯をした浅黒い肌が特徴的な大柄男が笑みを浮かべていた。

「おじさん、誰…?」

「お、おじ‥っ!?俺はまだ二十二だ!‥って詳しい話は後だな」

 浅黒い男は目の前の黄土色の髪の男に視線を移すと、二人の頭に置いていた手を離し堂々と目の前の男に近寄った。

「部外者は立ち入り禁止だ!中に入れる事は出来ない!」

「俺は別に黄瀬家に用はねぇよ。俺が用があるのは後ろの双子だけだ」

ザッ‥ザッ…

「そ、そうか…」

 威圧する様に真っ直ぐに睨みつける浅黒い男に黄土色の髪の男は息を呑み後退った。

「だが、鬼衆王になるあいつらを傷つけた事は見過ごせねぇ…」

「鬼衆王?何を言ってるんだ!?あいつらはただの鬼のガキじゃねぇか!」

「お前、まだ分からねぇのか?あいつらから感じる妖力の強さは完全に鬼衆王そのものだ。鬼衆王の俺が言うんだから間違いねぇよ」

「鬼衆王!?」

「はぁ…滅多に実家にも帰らねぇし黄瀬家に行く事も殆ど無いから仕方ねぇが、名前くらいは知ってるだろ。俺は鬼衆王の一人、黒道だ」

「黒道!?…って、あの黒楊家の黒道!?」

黒楊家?それに、鬼衆王って…

ガシッ!

「うっ‥!?」

 黒道は不快な顔をしながら目の前で驚く黄土色の髪の男の頬を右手で掴んだ。

「ごちゃごちゃうるせぇよ…鬼衆王の妖力を分からねぇ奴が黄瀬家の分家とは呆れて何も言えねぇな」

「うっ‥うっ…、っ‥!?」

 その瞬間、頬を掴む手が黒く染まり掴まれていた男が目を見張り眉を顰めた。

「…こんなもんか」

 黒道は小さく呟くと、男の頬から手を離すのと同時にそのまま地面に叩きつけた。

‥ドンッ!ザッザッ…

「うっ‥ゴホッ!ゴホッ!ゴフッ‥!」

 地面に叩きつけられた男は苦しそうに悶えながら口から血を吐いた。

何が起こってるんだ…?

 目の前の状況に理解が追いつけず苦しむ男から視線を外し黒道の方を見ると掴んでいた手が元の浅黒い肌へと戻っていた。

ザッ…ザッ‥…

「その毒はもって一日って所だ」

 黒道は地面の上で悶え苦しむ男に近寄り身を屈ませ膝を着くなり冷たい声で話し始めた。

「声も出せず足も手も動かせない。息も上手く出来ず心臓が針で刺され続けるような痛みが続く。ちなみに、その毒の解毒薬は送風の草樺家と緑淵家にしかないが黄瀬家に…しかも、お前みたいな分家の一人に高価な薬をやる事はないだろう。精々、一日が終わるまで苦しむんだな」

それは、黒道からの死刑宣告そのものだった。

「ゴホッ!ゴホッ!…うっ…ぐはっ‥‥」

ザッ‥ザッザッ…

 黒道は男から視線を外し立ち上がると背を向け背後に居た二人へと近寄った。

「待たせたな」

「おじさんが鬼衆王って本当…?」

「だから、おじさんじゃねぇよ!黒道だ!」

「黒道は鬼衆王なの?」

 そう問いかけると黒道は身を屈ませ片膝を着くと先程の冷たく威圧する様な表情とは違い屈託ない笑みを向けた。

「そうだ。んで、お前らも今日から鬼衆王の一人だ」

「…?」

「どういう事?」

 黄桃と黄蘭が首を傾げ問いかけると黒道は悩ましげな顔をしながら口を開いた。

「俺は鬼衆王の中でも正選見せいせんけんの役職を担ってるんだが、その役職はそれぞれの城や各国の人々を見る相談役兼、選別役なんだ。んで、ずっと前から不在の黄の間の鬼衆王になる奴を探してたんだが最近になって黄瀬家で鬼衆王になるんじゃないか?という程の強い妖力を持つ双子がいるという話を聞いたんだ。それで、黄瀬家に一度行ってみたはいいもののそんな双子はいねぇって言うし…」

「あ…‥」

「…‥」

 その言葉に二人は暗くなり俯くと黒道は話を続けた。

「仕方ねぇから街中で聞き込みをしていたらある装飾品を作る店で黄瀬家についてのある話を聞いたんだ。その話の内容は、最近黄瀬家で盗みがあり犯人として分家の人間が疑われたという話だった」

黒道の言葉に思わず黄桃は顔を上げた。

「何でその話が‥」

「人の口に戸は立てられないって事だ」

「っ…」

「んで、何かが怪しいと思ってまた来てみたらお前らが門の前に居たって訳だ」

「僕達はこれから鬼衆王になるの?」

 隣に居た黄蘭が戸惑いながらも問いかけると黒道は笑みを向けながら頷いた。

「ああ、二人ともだ」

「黄桃も…?」

「黄蘭も…?」

「鬼衆王になる奴が双子だった場合、二人とも鬼衆王になる力を持つ事が多い。その際は、双子揃って鬼衆王になれるんだ。現に、お前らは既に鬼衆王として妖力が覚醒してる」

「覚醒?」

「どういう事?」

「最近…いや、さっきまでか?いつもより妖力が強く感じたり使えた事のない妖力を使えたりした事があるだろ?」

 その問いかけに黄桃と黄蘭は南街での出来事が脳裏を過ぎった。

「そう言えば…」

「…‥」

 黄桃は相手の心の声のみならず相手の過去まで見える事ができ、黄蘭はいつもより数倍の腕力が使える様になった事に対し二人は言葉をなくした。

「それが、鬼衆王になる者の力だ。んで、お前らこれから俺と一緒に桜鬼城で暮らす事になるが…お前らはどうしたい?」

「それ、拒否権ないやつでしょ?」

「決定事項じゃん」

「いや、一応お前らの気持ちを聞いておかないとだろ?嫌だと言ったら一旦諦めてまた会いに来るし…」

「…行く」

「っ…」

 小さく呟いた黄桃の言葉に黒道が目を見張ると隣に居た黄蘭も頷いた。

「僕も行く」

「いいんだな?」

「だって、黄蘭と離れなくて済むんでしょ?」

「黄桃と一緒ならそっちの方がいい」

 黒い瞳を真っ直ぐに見つめて言うと黒道は屈託ない笑みを浮かべた。

「よし、分かった!一緒に帰るか!」

「うん!」

「あ、でも先に…これを渡しとかねぇとな…」

「…?」

 黒道は思い出したかのように懐から小さな四角い木箱を二つ取り出すとそれぞれに差し出した。

「話を聞いた装飾品を作る店で黄瀬家の女から依頼された物が完成したが全然受け取りに来ねぇから代わりに渡してくれって頼まれたんだ。その依頼した女が言うには双子の子供に誕生日に贈る物だったらしくてな…」

 黒道は説明しながら木箱の蓋を開け見せるとその中にはそれぞれ桃色の小さな桃の花のピアスと白色の小さな蘭の花のピアスが入っていた。

「あ…‥」

「これ…‥」

「お前ら誕生日は?」

「長月の九日」

「貰うにはまだ早いな」

「うん…」

「‥…」

 黒道の言葉に二人は小さく頷くとそれぞれピアスに手を伸ばし受け取った。

「…母様」

「っ…」

 手に取るなり涙が溢れ出しもうこの世には居ない母の面影を思い出す。

「…‥」

ガシガシッ…

 黒道は木箱を懐に入れ無言で二人の檸檬色の髪を無造作に撫でると、二人は黒道の胸の中に飛び込み抱き着いた。

「ひっ‥く…っ…」

「うぅ…ん…っ…‥」

「泣きたい時は泣けばいい」

「…うん」

「…ん」

ぐぅぅぅぅぅぅ…‥

「っ‥!?」

「うっ…!?」

 突然、鳴ったお腹の音に二人は顔を上げると黒道は可笑しそうに笑みを浮かべた。

「あははははっ!帰る前にまずは飯だな」

「…黒道」

「ん?」

「…背中貸して」

「…僕も」

 甘えた様にポツリと呟いた黄桃と黄蘭に黒道は困った様に笑った。

「仕方ねぇな…二人一緒は無理だから一人は抱っこで我慢しろよ」

「…うん」

「…‥」

 黒道は黄桃を背中に背負い黄蘭を抱き上げると黄瀬家に背を向け歩き出した。

黄蘭と一緒にいられるならそれでいい…

 黄桃は黒道の大きな背中に頬を埋めるとその温かさに安堵しゆっくりと瞼を閉じたのだった。









































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