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秘密のお仕事
変わらない日常
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…サッ‥
あれから四年か…
時雨の部屋にて本のページを捲りながらふと、長い歳月に感傷に浸る。
桜鬼城に来てから今までの間にも太郎が亡くなった時の事と一緒に前世でのあのシーンをたまに見る事があった。でも、いつも携帯画面のあの言葉を見た瞬間に途切れてそれ以上の事は何も思い出せないんだよね…
この世界に転生して十年。自身の前世の記憶と向き合いつつ迫りゆくこれから起こる筈の出来事やゲーム開始の時間に不安が募っていた。
今は、師走中旬。私は、十歳になりゲーム通りなら元旦に狼が仲間と一緒にこの桜鬼城を襲撃する。でも、ゲームと違って黒道とヒロインである日華は桜鬼城に留まり黒道は鬼衆王を辞めていない。それに、月華と冷は既に桜鬼城で身を置いているからゲームとはかなり変わった筈。だから、本当に狼がこの桜鬼城を襲撃するのか分からないけど…
ふと、脳裏に過ぎった咲羅の死に顔を顰める。
この世界は乙女ゲームの世界。幾ら、私が話を変えた所で変わる事なんてないのかな…?
「考え事ですか?」
「っ‥」
突然、背後から声を掛けられ体が僅かに震えた。
「いえ、ただ話の内容に入り込んでいただけです」
「それならいいのですが…」
‥サッ…
ふぅ…
私は現在、昼食後の日華の自主勉強中にいつもの様に時雨の部屋で本を読み耽っていた。時雨と背中合わせで座りながら。何故、この様な事をするようになったかと言うと始まりは半年前。ミミズが這った様なこの世界の文字を見事に習得した私は時雨の指導の下に一通りの勉強を学んだ。ちなみに、女性限定の勉強は大人の女中達から学んだ。だが、ゲームの影響や前世の経験から一通りの事は知っていた私は習得するのが早く半年前には完全に学び終わったのだった。
だけど、時雨から息抜きにって本を一緒に読むようになったんだよね。その心理はよく分からないけど…
時雨の提案で始まった本を読む時間。だが、一人で読むと背中が猫背になると言う理由で互いに背中を合わせて読む様になったのだった。
傍から見たら何か言われても可笑しくないかも
鬼衆王とその侍従が背中を合わせて読む絵面に改めて実感し内心苦笑いが零れた。
…パタンッ‥
「私は読み終わりましたが…次に読む本をお持ちしましょうか?」
本を閉じ体を離し振り返った時雨に小さく首を横に振る。
「いえ、まだかなりありますしこの一冊だけで十分です。それに、そろそろ日華様の勉強も終わる頃ですし…」
壁に飾られた時計をチラ見しながら時雨の藍色の瞳を見つめる。
時雨もこの四年で益々見た目の格好良さに磨きがかかったなぁ…もうほぼ、ゲーム内での時雨と瓜二つだし…
十八歳になった時雨はその容姿に益々磨きがかかり城の女中のみならず街行く女性達から黄色い声が飛び交う程の美男子そのものになっていた。女性の様な中性的な外見とは反対に着物の上からでも分かる程よく鍛えられた肉体。隙間から見えるその白い肌を見た女性を背徳感に落ちさせるには十分だった。
私、黒の間で寝れるようになって本当に良かったなぁ…じゃないと、眠れない日々の連続だったかも…
胡麻柄の水色の着物に白の帯に羽織りをした時雨を見ながら心底そう思った。
黒道が仕事で他国にいる間は時雨の部屋で寝泊まりする事になっていたが日華が毎日一緒に寝たいと言い出した結果、時雨の部屋で寝泊まりする事はなく黒道が留守でも黒の間の自身の部屋で日華と一緒に寝る日々になったのだった。
「どうかしましたか?私の顔に何かついてますか?」
「あ、いえ‥っ」
時雨の顔を凝視したまま考え込んでいた為か、時雨は不思議そうな表情を浮かばせ首を傾げた。
「ただその…時雨様が綺麗だったので見惚れてしまいました。すみません…」
こう言えば、時雨は嫌がると分かっていながらもこの様な言葉しか出なかった自身に内心呆れつつ視線を逸らし俯いた。
「他の方に言われると嫌で仕方がないのですが…」
「…っ!?」
‥パタンッ…
腰の位置まで長く伸びた黒髪を白く綺麗な指先が掬い頭の上に影が落ち思わず読んでいた本が畳の上に落ち閉じた。
「…あなたから言われると嫌ではありません」
「っ…」
恐る恐る顔を上げると黒髪に唇を寄せる時雨の姿が視界に入り息が詰まる。
「髪…伸びましたね」
唇を離し小さく呟いた時雨に戸惑いながらも言葉を紡ぐ。
「えっと…咲羅様から頂いた簪が似合う様になりたくて…」
「そうですか…」
そう言うなり、少し悲しげに揺れた藍色の瞳に自身の言った言葉に後悔が湧き上がる。
失言だった…
‥ドタドタドタッ…
…?
突然、聞こえてきた近づいて来る足音に時雨は髪から手を離し私は出入口の戸へと視線を向けた。
‥スー…パタンッ…
「月華、一緒に街に遊びに行こっ!」
四年前とは違い静かに戸を開け入って来た行動とは反面に明るく元気な声を上げた日華に安堵する。
タイミング良過ぎるよ
ふわりと揺れる金色の長い髪に陽だまりの様な明るい笑顔が沈んでいた空気を晴れやかにし幸せな空気がその場を包み込んだ。
あれから四年か…
時雨の部屋にて本のページを捲りながらふと、長い歳月に感傷に浸る。
桜鬼城に来てから今までの間にも太郎が亡くなった時の事と一緒に前世でのあのシーンをたまに見る事があった。でも、いつも携帯画面のあの言葉を見た瞬間に途切れてそれ以上の事は何も思い出せないんだよね…
この世界に転生して十年。自身の前世の記憶と向き合いつつ迫りゆくこれから起こる筈の出来事やゲーム開始の時間に不安が募っていた。
今は、師走中旬。私は、十歳になりゲーム通りなら元旦に狼が仲間と一緒にこの桜鬼城を襲撃する。でも、ゲームと違って黒道とヒロインである日華は桜鬼城に留まり黒道は鬼衆王を辞めていない。それに、月華と冷は既に桜鬼城で身を置いているからゲームとはかなり変わった筈。だから、本当に狼がこの桜鬼城を襲撃するのか分からないけど…
ふと、脳裏に過ぎった咲羅の死に顔を顰める。
この世界は乙女ゲームの世界。幾ら、私が話を変えた所で変わる事なんてないのかな…?
「考え事ですか?」
「っ‥」
突然、背後から声を掛けられ体が僅かに震えた。
「いえ、ただ話の内容に入り込んでいただけです」
「それならいいのですが…」
‥サッ…
ふぅ…
私は現在、昼食後の日華の自主勉強中にいつもの様に時雨の部屋で本を読み耽っていた。時雨と背中合わせで座りながら。何故、この様な事をするようになったかと言うと始まりは半年前。ミミズが這った様なこの世界の文字を見事に習得した私は時雨の指導の下に一通りの勉強を学んだ。ちなみに、女性限定の勉強は大人の女中達から学んだ。だが、ゲームの影響や前世の経験から一通りの事は知っていた私は習得するのが早く半年前には完全に学び終わったのだった。
だけど、時雨から息抜きにって本を一緒に読むようになったんだよね。その心理はよく分からないけど…
時雨の提案で始まった本を読む時間。だが、一人で読むと背中が猫背になると言う理由で互いに背中を合わせて読む様になったのだった。
傍から見たら何か言われても可笑しくないかも
鬼衆王とその侍従が背中を合わせて読む絵面に改めて実感し内心苦笑いが零れた。
…パタンッ‥
「私は読み終わりましたが…次に読む本をお持ちしましょうか?」
本を閉じ体を離し振り返った時雨に小さく首を横に振る。
「いえ、まだかなりありますしこの一冊だけで十分です。それに、そろそろ日華様の勉強も終わる頃ですし…」
壁に飾られた時計をチラ見しながら時雨の藍色の瞳を見つめる。
時雨もこの四年で益々見た目の格好良さに磨きがかかったなぁ…もうほぼ、ゲーム内での時雨と瓜二つだし…
十八歳になった時雨はその容姿に益々磨きがかかり城の女中のみならず街行く女性達から黄色い声が飛び交う程の美男子そのものになっていた。女性の様な中性的な外見とは反対に着物の上からでも分かる程よく鍛えられた肉体。隙間から見えるその白い肌を見た女性を背徳感に落ちさせるには十分だった。
私、黒の間で寝れるようになって本当に良かったなぁ…じゃないと、眠れない日々の連続だったかも…
胡麻柄の水色の着物に白の帯に羽織りをした時雨を見ながら心底そう思った。
黒道が仕事で他国にいる間は時雨の部屋で寝泊まりする事になっていたが日華が毎日一緒に寝たいと言い出した結果、時雨の部屋で寝泊まりする事はなく黒道が留守でも黒の間の自身の部屋で日華と一緒に寝る日々になったのだった。
「どうかしましたか?私の顔に何かついてますか?」
「あ、いえ‥っ」
時雨の顔を凝視したまま考え込んでいた為か、時雨は不思議そうな表情を浮かばせ首を傾げた。
「ただその…時雨様が綺麗だったので見惚れてしまいました。すみません…」
こう言えば、時雨は嫌がると分かっていながらもこの様な言葉しか出なかった自身に内心呆れつつ視線を逸らし俯いた。
「他の方に言われると嫌で仕方がないのですが…」
「…っ!?」
‥パタンッ…
腰の位置まで長く伸びた黒髪を白く綺麗な指先が掬い頭の上に影が落ち思わず読んでいた本が畳の上に落ち閉じた。
「…あなたから言われると嫌ではありません」
「っ…」
恐る恐る顔を上げると黒髪に唇を寄せる時雨の姿が視界に入り息が詰まる。
「髪…伸びましたね」
唇を離し小さく呟いた時雨に戸惑いながらも言葉を紡ぐ。
「えっと…咲羅様から頂いた簪が似合う様になりたくて…」
「そうですか…」
そう言うなり、少し悲しげに揺れた藍色の瞳に自身の言った言葉に後悔が湧き上がる。
失言だった…
‥ドタドタドタッ…
…?
突然、聞こえてきた近づいて来る足音に時雨は髪から手を離し私は出入口の戸へと視線を向けた。
‥スー…パタンッ…
「月華、一緒に街に遊びに行こっ!」
四年前とは違い静かに戸を開け入って来た行動とは反面に明るく元気な声を上げた日華に安堵する。
タイミング良過ぎるよ
ふわりと揺れる金色の長い髪に陽だまりの様な明るい笑顔が沈んでいた空気を晴れやかにし幸せな空気がその場を包み込んだ。
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