オメガの騎士は愛される

マメ

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 ◇


 リノ・アルムに出会ったあと、俺はリオスの騎士について資料を詳しく調べた。どうやら本当に彼はオメガのようだった。ひたすら資料に没頭する俺に気づいた部下のカウイは、不思議そうに話しかけてきた。
「ラミレス様、珍しいですね。何の資料ですか?」
「リオスの……オメガの騎士だ」
「……リノ・アルムですか?」
「知っているのか?」
「普通、敵国の重要人物の名は覚えるのでは? 副長の名を知らないのはあなたくらいですよ」
「どうせ殺す相手だ。この世からいなくなる者の名など知ってどうする?」
「……」
「どうした?」
「……い、いえ、あなたらしいと言えば、そうかもしれませんが……」
 カウイは顔色が悪くなっていた。何か変な発言をしただろうか。
 戦場は弱肉強食。強い者が生き、弱い者は死ぬ。戦の絶えないこの国に生まれ、両親も騎士だった俺は、その精神を幼い頃から叩きこまれていた。だから、敵を何人殺そうが、味方が何人死のうが気にした事がなかった。
 弱いから死んだ。ただ、それだけ。それだけしか思わなかった。


 まだ、兵士として未熟だった頃、偶然陛下が騎士団の宿舎を訪れ、偶然近くにいた俺に聞いた事がある。
「お前は、戦についてどう思っている?」と。
 俺はさっきカウイに言った言葉をそのまま陛下に告げた。勝ったら生きる、負けたら死ぬ。負けたら自分が未熟だったという事だ、と。
 それを聞いた陛下は一瞬目を見開き、「お前のような騎士を待っていた。死ぬなよ」と、俺に告げた。そして、当時の騎士団長に俺の名と出身などを詳しく聞いていた。
 俺のどこを気に入ったのかは分からない。でも、それから陛下は何度も俺に会いに来るようになった。俺が昇進する度に喜び、もっと強くなれと励ましてくれた。まわりの仲間は羨ましいと、どうやって陛下に取り入ったのか聞いてきたが、答えようがなかった。取り入った、という自覚がないからだ。
 強いて言えば、陛下は強く、簡単に死なない兵士を気に入っているようだから、強くなる事だとしか言えなかった。
 それから俺は鍛錬を重ね、戦でも結果を残し、入団してから十五年後、二十五歳の時に騎士団長に就任した。今まで二十代の若さで団長になった者はいなかったようだ。異例の就任に大臣たちから反対の声も上がったようだが、俺の強さと戦での様子を知っている者達は、当然の事のように喜んだ。
 俺も全ての者に認められなければ陛下に申し訳ないと、戦が始まれば必ず勝利をレガラドにもたらした。その結果、今の俺がいる。団長に就任してから四年の月日が経っていた。
 だが、今までどの国と戦おうが、どんな人物と話そうが、心が動かされる事はなかった。人に興味を持ったのも、リオスとの戦が始まってから……いや、リノ・アルムに出会ってからだった。
 懐かしい思い出に浸っていると、ずっとそばにいたらしきカウイがまた話しかけてきた。
「で、なぜ、リノ・アルムを調べているんですか?」
「興味が湧いた」
「あなたがですか?」
「ああ。おかしいか?」
「おかしいです。熱でもあるんですか? 誰に誘われようと、何を言われようと気にしない、興味を持たないあなたが敵国の騎士に興味が湧くなんて……」
「酷い言われようだな」
「そのくらいあなたには人としての感情がなかった、という事ですよ」
「そうか」
「はい。リノ・アルムを調べてどうするんですか? どうせ殺すんでしょう?」
「……いや、殺さない」
「は?」
「リノ・アルムは殺さない。俺の番にする」
「何を言って……相手は敵国の騎士ですよ!?」
 カウイは慌てたようにまくしたてた。でも、今そう思ってしまったのだから仕方がない。俺は、リノ・アルムに惚れたのだ。俺が人に興味を持つ……つまりはそういう事だろう。なぜだか分からないが、直感でそう思った。
「戦に勝てば褒美をもらえる。陛下にはリノ・アルムと結婚したいと伝えるつもりだ」
「……本気で言ってるんですか? リオスとの決着がつくまで何年かかると……」
「一年だ」
「はい?」
「一年。リオスとの戦は、あと一年で終わらせる」
「本気ですか?」
「ああ。本気だ。だから、これからリオスとの戦の時は、俺がリノ・アルムと戦う。他の者には近づけないように。お前は団長の相手をしてろ」
「そういうの、職権乱用っていうの知ってますか?」
「ああ。分かってて言っている」
「……」
 カウイは盛大なため息を吐いた後、俺の目を見てこう言った。
「あなたの恋が叶った時は盛大にお祝いしてあげますよ」
「そうか。ありがとう。お前もモリーをちゃんと躾けとけ。この前俺に迫ってきたぞ」
「は……も、申し訳ございません!」
 モリーというのはカウイの番のオメガだ。性に関して自由奔放な人間で、番がいるというのに他の男や女に手を出している。俺も何度か誘われたが、興味がないので無視していた。
「俺がリノ・アルムと結婚して、あいつが彼に手を出したら殺す。お前が何を言ってもだ。いいな?」
「……はい」
 カウイはゴクリと息を飲み、俺の本気を知ったようだった。


 自分の部屋に戻り、複製して持ち帰った資料を改めて眺めてみる。そこには、リノ・アルムの様々な写真が載っていた。スパイとしてリオスに潜入している者が作成したものだ。
「……欲しいな」
 彼の姿を思い出すだけで股間が熱くなってくる。こんなのは初めてだった。
 俺は、自分のズボンのベルトを緩め、下着の中からペニスを取り出すと、右手でゆるゆると扱き始めた。
「ああ……リノ……」
 彼は俺に組み敷かれたら、どんな表情をするのだろう。戦の時のように忌々しい態度で罵倒するか、それとも、絶望した表情か。
 でも、彼がどんな表情をしていても抱ける自信はあった。なぜなら、今も写真だけで俺のペニスはドクドクと脈を打ち、すぐにでも放出しそうになっているから。
 俺のペニスを彼の中に収める……そんな妄想をしていたら、俺の精液がビュッ……と勢いよく出てしまった。
「はあ、はあ……」
 ダメだ。早くこの手で触れたい。甲冑の中の彼を取り出して、この手で剥いて、頭の先からつま先まで、俺の手で愛撫したい。そう思えば思うほど、再び俺のペニスは固くなった。これでは、いざ本人を抱くという段階に来たらすぐにでも終わってしまいそうだ。
「リノ……必ず……この手の中に……」
 もう一度大きく膨張した俺のペニスは、彼の姿を思い浮かべただけで、何度も何度も精を放っていた。
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