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俺の「一年で戦を終わらせる」という言葉は本当になった。これもリノ・アルムへの想いがそうさせたモノだ。
この一年で何度も彼の前に現れた俺は、彼に自分を認識させる事に成功した。もちろん、敵だからある程度は戦わないといけない。彼を殺さない程度に攻撃して、死に至るまでの傷は負わせないよう、念入りに計算しながら事を運んだ。
「今度こそ死ね」
「殺してやる」
彼から放たれる言葉は辛辣なモノだったが、俺はそれでも満足していた。会えただけで、そばに来れただけで幸せだった。
今まで、戦をしていて幸せだったと思った事はない。自分の生死がかかっているのだから当たり前の事だが、彼に関してだけは特殊なのだろう。俺と彼の戦闘を見ていた部下達は、彼の事を「俺が手こずる強い相手」という目で見ていた。まあ、確かに彼は強い。レガラドでも副長や幹部になれる実力を持っている。
だが、俺が望んでいるのは上司と部下という関係ではない。夫婦、そして、番という関係だ。幾度となく剣を交えるうちに、想いが抑えきれなくなり、そろそろ我慢の限界がきたなと思った俺は、一気にリオスを叩く事を決意した。
戦に決着がついた後、最初はリオスの王を殺し、国も侵略して終わりにしようと思っていた。だが、彼との戦闘中の会話の中で、彼がリオスの王に恩義を感じているのを感じ取れた。王を殺したら彼は後を追って死ぬだろう。そう思った俺は、陛下にリオスを属国として従え、レガラドをより大きな国へと発展させるように進言した。その方が、リオスにとっても精神的ダメージが大きいと訴えた。
俺の言葉を信じた陛下は、リオスの王を殺さず、レガラドの属国となるように使者を送ると話していた。その際、待ちに待っていた褒美の話が話題に上がった。
「ユアン、お前に褒美をやろう。何が望みだ?」
「……どんな物でもよろしいでしょうか?」
「ああ。お前は長年の戦に決着をつけた英雄だ。何でも言ってみるがいい」
「……では、リオスの騎士、リノ・アルムを所望します」
「リノ・アルム? リオスの副長か?」
「はい。彼はオメガの騎士だと聞いております。戦で戦った際、強く、気高く美しい姿に惹かれました。彼を妻に……番にしたいと思っております」
「……惚れておるのか?」
「はい」
俺が正直にそう言うと、陛下は豪快に笑い「ついにお前にもそのような感情が芽生えたか」と言い放った。
「……ククク……それは面白い。そうだな、副長クラスの者を我がレガラドに……それもお前のような地位のある者に嫁がせれば、リオスの者全てが国が敗北したと理解するだろう……良い。お前の願い、叶えよう」
「はっ! ありがたき幸せに存じます」
こうしてリノ・アルムは俺に嫁ぐこととなった。
婚儀は一ヶ月後……としていたが、さまざまな事情で少し延びる事になった。戦争の後始末や他国への事情説明、その他さまざまな準備に時間を要したからだ。
俺は彼がレガラドに着いたと聞いてから、すぐに会いに行こうと思っていた。だが、騎士団長という地位がそうさせてくれなかった。会いたい会いたいと願いながら、気づけば三ヶ月が経っていた。
そして、ついに結婚式の日がやってきた。ようやく会えると思ったが、あまりにも会えなかったせいで俺は憶病になっていた。俺らしくないとは思ったが、会いに行くか行かないかで迷っているうちに、どんどん時間は迫ってくる。俺は焦っていた。
すると、控室に来ていたカウイが聞いてきた。
「ラミレス様、アルム殿にはお会いしたのですか?」
「……一度も会っていない」
「……は? 今日、ご結婚されるんですよね?」
「機会を逃してしまった」
「今からでも遅くはありません。一言だけでも会話してきてください。いくら敵国の方でも、相手に失礼です」
カウイは俺を無理やり控室から追い出し、すぐに行けと追い打ちをかけた。
リノ・アルムの控室は俺の控室の隣だった。俺は覚悟を決めて、扉をノックした。
「はい」
中から聞こえたのは、愛しい者の声だった。本当にここに存在している。そう思っただけで胸が震えた。
俺が中に入ってみると、婚礼衣装の着付けをしていた使用人全員が俺の姿をみるなり作業をやめて頭を下げた。リノ・アルム本人は、びっくりしたような表情で俺を凝視してきた。
「……」
綺麗だった。鎧に身を包んだ姿も良かったが、やはり婚礼用の、特別な真っ白な衣装は彼の美しさをより強調させていた。俺は彼に見とれるあまり、こう発するのがやっとだった。
「……アルム殿」
「ラミレス殿、お久しぶりでございます」
ああ……彼が、俺と普通に会話をしている。しかも、俺の名を呼んでくれた。感動しすぎて言葉に詰まり、それを悟られないように顔をしかめた。彼は不思議そうに眺めていたが、何かを言わないといけない。そんな思いが頭に浮かんだ。
「これからあなたは俺の伴侶になる。よろしく」
「……あなたとこのような関係になるとは思ってもいませんでした」
「……よろしく」
「はい」
俺は限界だった。話せただけで、彼の花嫁姿を見れただけで舞い上がってしまった。顔が熱くなってくるのを感じ、俺はそそくさと控室を出て行った。
……彼の言葉遣いが戦の時と違うという事に、俺はその時、全く気づかないでいた。
俺の「一年で戦を終わらせる」という言葉は本当になった。これもリノ・アルムへの想いがそうさせたモノだ。
この一年で何度も彼の前に現れた俺は、彼に自分を認識させる事に成功した。もちろん、敵だからある程度は戦わないといけない。彼を殺さない程度に攻撃して、死に至るまでの傷は負わせないよう、念入りに計算しながら事を運んだ。
「今度こそ死ね」
「殺してやる」
彼から放たれる言葉は辛辣なモノだったが、俺はそれでも満足していた。会えただけで、そばに来れただけで幸せだった。
今まで、戦をしていて幸せだったと思った事はない。自分の生死がかかっているのだから当たり前の事だが、彼に関してだけは特殊なのだろう。俺と彼の戦闘を見ていた部下達は、彼の事を「俺が手こずる強い相手」という目で見ていた。まあ、確かに彼は強い。レガラドでも副長や幹部になれる実力を持っている。
だが、俺が望んでいるのは上司と部下という関係ではない。夫婦、そして、番という関係だ。幾度となく剣を交えるうちに、想いが抑えきれなくなり、そろそろ我慢の限界がきたなと思った俺は、一気にリオスを叩く事を決意した。
戦に決着がついた後、最初はリオスの王を殺し、国も侵略して終わりにしようと思っていた。だが、彼との戦闘中の会話の中で、彼がリオスの王に恩義を感じているのを感じ取れた。王を殺したら彼は後を追って死ぬだろう。そう思った俺は、陛下にリオスを属国として従え、レガラドをより大きな国へと発展させるように進言した。その方が、リオスにとっても精神的ダメージが大きいと訴えた。
俺の言葉を信じた陛下は、リオスの王を殺さず、レガラドの属国となるように使者を送ると話していた。その際、待ちに待っていた褒美の話が話題に上がった。
「ユアン、お前に褒美をやろう。何が望みだ?」
「……どんな物でもよろしいでしょうか?」
「ああ。お前は長年の戦に決着をつけた英雄だ。何でも言ってみるがいい」
「……では、リオスの騎士、リノ・アルムを所望します」
「リノ・アルム? リオスの副長か?」
「はい。彼はオメガの騎士だと聞いております。戦で戦った際、強く、気高く美しい姿に惹かれました。彼を妻に……番にしたいと思っております」
「……惚れておるのか?」
「はい」
俺が正直にそう言うと、陛下は豪快に笑い「ついにお前にもそのような感情が芽生えたか」と言い放った。
「……ククク……それは面白い。そうだな、副長クラスの者を我がレガラドに……それもお前のような地位のある者に嫁がせれば、リオスの者全てが国が敗北したと理解するだろう……良い。お前の願い、叶えよう」
「はっ! ありがたき幸せに存じます」
こうしてリノ・アルムは俺に嫁ぐこととなった。
婚儀は一ヶ月後……としていたが、さまざまな事情で少し延びる事になった。戦争の後始末や他国への事情説明、その他さまざまな準備に時間を要したからだ。
俺は彼がレガラドに着いたと聞いてから、すぐに会いに行こうと思っていた。だが、騎士団長という地位がそうさせてくれなかった。会いたい会いたいと願いながら、気づけば三ヶ月が経っていた。
そして、ついに結婚式の日がやってきた。ようやく会えると思ったが、あまりにも会えなかったせいで俺は憶病になっていた。俺らしくないとは思ったが、会いに行くか行かないかで迷っているうちに、どんどん時間は迫ってくる。俺は焦っていた。
すると、控室に来ていたカウイが聞いてきた。
「ラミレス様、アルム殿にはお会いしたのですか?」
「……一度も会っていない」
「……は? 今日、ご結婚されるんですよね?」
「機会を逃してしまった」
「今からでも遅くはありません。一言だけでも会話してきてください。いくら敵国の方でも、相手に失礼です」
カウイは俺を無理やり控室から追い出し、すぐに行けと追い打ちをかけた。
リノ・アルムの控室は俺の控室の隣だった。俺は覚悟を決めて、扉をノックした。
「はい」
中から聞こえたのは、愛しい者の声だった。本当にここに存在している。そう思っただけで胸が震えた。
俺が中に入ってみると、婚礼衣装の着付けをしていた使用人全員が俺の姿をみるなり作業をやめて頭を下げた。リノ・アルム本人は、びっくりしたような表情で俺を凝視してきた。
「……」
綺麗だった。鎧に身を包んだ姿も良かったが、やはり婚礼用の、特別な真っ白な衣装は彼の美しさをより強調させていた。俺は彼に見とれるあまり、こう発するのがやっとだった。
「……アルム殿」
「ラミレス殿、お久しぶりでございます」
ああ……彼が、俺と普通に会話をしている。しかも、俺の名を呼んでくれた。感動しすぎて言葉に詰まり、それを悟られないように顔をしかめた。彼は不思議そうに眺めていたが、何かを言わないといけない。そんな思いが頭に浮かんだ。
「これからあなたは俺の伴侶になる。よろしく」
「……あなたとこのような関係になるとは思ってもいませんでした」
「……よろしく」
「はい」
俺は限界だった。話せただけで、彼の花嫁姿を見れただけで舞い上がってしまった。顔が熱くなってくるのを感じ、俺はそそくさと控室を出て行った。
……彼の言葉遣いが戦の時と違うという事に、俺はその時、全く気づかないでいた。
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