マスコット・ロールプレイ ―人外珍道中なんて聞いてない―

結城あずる

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魔法国珍道中

第12話 予期せぬ一期一会

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激闘と激動に追いやられたエルラをどうにか脱出した倫太郎。


やっと平穏がやって来る――――そんな期待でウキウキと気持ちが浮いていた倫太郎であったが、ミストラの転移によって飛ばされた体はまさにそのまま浮いていた。


「ん?んん!?」


転移先はまさかの空中。当然落下体勢に入る。


バキッ!バキキキキッ!!


豪快に、乾いた木の割れる音が鳴り響く。


「……」


落下した先は木造りの建物。その屋根を頭から突き破ってそのまま床も突き破る。


丁度お腹の辺りまで逆さで床に埋まったその姿は、犬〇家の一族のワンシーンのようになっていた。


「なぜこうなる……」


ぼやかずにはいられない倫太郎。見る人が見れば笑える格好だが、当の本人は笑えない。



いきなり出鼻を挫かれてテンションも急転直下である。


とにもかくにも、倫太郎は体勢を入れ替えて床から這い出る。


「ここは……小屋?」


木造りのそこはワンルームほどの広さの掘っ立て小屋だった。


椅子やテーブルなどもあり、生活するのに必要な家具は揃っている。


倫太郎は人様の家に侵入してしてしまったと一瞬焦るが、窓は打ち付けられて薄暗く、全体的に埃っぽくて生活感はない。


奥にも部屋があるがそこからも人の気配がしなかった為、長らく使われていない場所であると倫太郎は内心ほっとした。


それでも屋根と床を故意ながらも破壊してしまった事に居た堪れなく、倫太郎はそそくさと小屋から出た。


「お!おぉ!!」


小屋から出て風景を一望する倫太郎。


小屋は高台の上に建っていて周りをよく見通せる場所であった。


そこには窒息しそうな濃密な魔素も、焼き焦げる熱気もない。


もうそれだけで倫太郎の気持ちは跳ねているが、なによりも倫太郎の視界のその先にはいくつかの集落らしきものや町らしきものがしっかりと映っていた。


『人が住んでいる場所がある』
それが一番倫太郎のテンションをくすぐっていた。


「よし!あっち行ってみるか!」


倫太郎はすっかり浮かれて、大事な事を見落としていることに気付かないまま人がいるであろう場所へ向かった。









意気揚々と林道の中を歩く倫太郎。その足取りは軽やかである。


木々に囲まれた景色というのは白麓で嫌になるほど見てきたが、白麓と大きく違うのは誰かの手で作られた道があるということ。


エルラのように道なき道を歩いているのではない。人が行き来するのを想定した道があるという事だけで倫太郎はなぜか心が躍る。


道に興奮している。
字面だけ見ればかなり変態極まりないものであるが、夥しいくらいに平穏を脅かしてきたエルラで価値観をこれでもかと殴られた倫太郎にとっては、ただの道すら文化遺産級のものに見える。


つまり。リハビリを要するくらい現実感が狂わされた状態なのである。


そして。そんな自分の状態に気付いていない倫太郎はすぐに墓穴を掘ることになる。


「ん?」


風で揺れる草木の音に混じって聞こえる蹄と車輪の音。


倫太郎の視線の先には、荷馬車が数台林道の中を走って来ているのが見えた。


「おぉ!」


当然馬車にも興奮する倫太郎。今の倫太郎であれば馬車が高級外車にすら見えるほどである。


道の真ん中で向かって来る馬車を眺めていると、おもむろに先頭の馬車が手綱を引いて馬の足を止める。


距離にして数十メートル。お互いに姿を視認出来る距離である。


そこで倫太郎は先頭の馬車に乗る御者と目が合う。


「どうも」


軽く会釈をしてのフレンドリーな挨拶。それを受けた御者の顔つきがみるみると険しくなる。


「ま、魔物だぁ!!護衛!護衛!」
「え?」


声を荒げる御者。それに呼応するように、後ろの荷馬車から鎧をまとった屈強な男たちが飛び出して来て倫太郎の前に立ち塞がる。


剣に斧に槍。それぞれの武器が倫太郎に向けられている。


(あー……しまった。見た目のこと抜けてた……)


とにかく気持ちが浮ついていた倫太郎。ミスの中で一番あり得ないミスを犯す。


「なんだコイツは?見たことない種族だぞ?」
「ウサギか?でも二足歩行してるぞ」
「顔もなんか薄気味悪いな」


目の前に立つ初物の生物を見て警戒心を露にする護衛たち。


人側から見ればどこをどう見ても魔物にしか映らないのだから当然の反応である。


護衛たちは見たことない魔物の様子を窺いなら陣形を組んでいく。


槍を構える二人を前衛に、剣を持つ護衛二人がサイドを固め、後衛に斧を持つ護衛が待機する。


完全な臨戦態勢を取られてしまった倫太郎であるが、元より戦う気はない。


その意思を示そうと両手を挙げて無害を主張しようとしたが、その動きがかえって護衛たちを反応させてしまう。


「い、威嚇か!?」


武器を握り締める護衛。ハンズアップ状態で制止する二足歩行のウサギ。


一触即発の中、後ろの荷馬車に乗っていた行商人と思しき格好の男が声を張り上げる。


「何をしているんだ!魔物なんか早く仕留めろ!」


その言葉を受けて出方を窺っていた護衛たちが攻勢に出る。


「〈エアースピア〉!」


槍の一人が、風魔法の追い風に乗せて推進力を増大させた刺突を繰り出す。


が。それを意にも介さずあっさりと躱す倫太郎。


(え?遅くない?)


遅い遅くないと問われれば、風魔法が付与された今の刺突は決して遅くはない。護衛たちの戦闘スキルも高いので技の熟練度も申し分ない。


しかし、エルラの住人たちの攻撃速度に比べると話は全く別になる。


エルラのえげつない攻撃をその身で受け続けた倫太郎は、必然的にそのレベルに慣れてしまっていた。


世界をくまなく探しても、最凶レベルの攻撃を慣れるまで受けた者はいない。慣れる前に絶命必至なのだから当然である。


結果として次元が違う経験値を叩き込まれた倫太郎には、護衛の動きを見切るのは瞬きをするより容易くなっていたのだった。


槍の間合いをキープしながら追撃を繰り返す護衛。しかし当たらない。


そこにもう一方の槍護衛が挟み込むように刺突で応戦する。しかし当たらない。


「〈火炎斬〉!」
「〈鎌鼬〉!」


両脇でポジションを取っていた剣の護衛が、それぞれ属性攻撃で範囲を広げ連携を繰り出す。しかし当たらない。


「〈ストーンショット〉!!」


見かねた斧の護衛が石礫を弾丸のように撃ち出して多角的攻撃を放つ。しかし当たらない。


決して洗練された動きをしているわけではないが、得体の知れない二足歩行のウサギへの攻撃がことごとく当たらない。


護衛たちに明らかな動揺が生まれる。


なぜ当たらない?
なんだこの魔物は?
なんだ?なんだ?なんなんだ?


次第に湧き上がる気味悪さ。表情の変わらないラビ太のフェイスもそれを一層増長させる。


「隙間を埋めて囲め!!」


斧の護衛のその一言で即座に倫太郎を取り囲むように陣取る護衛たち。


「かかれぇ!!」


逃げ場のない同時攻撃。これはさすがに倫太郎も動きの取りようがなく、5人全員の一撃をその身に受ける。


「「「「「ぐはっ!!」」」」」


ユニゾンする呻き声。


漏れなく〈ミラージュ〉が炸裂し、護衛全員が同時にその場に倒された。


「…………いや、こんなつもりじゃ」


覇気の無い声で呟いた倫太郎には戦う意思はこれっぽちもなかった。だからあえて攻撃を躱して〈ミラージュ〉を発動しないよう頑張っていたのだ。


しかし。結果はその頑張りが実らなかった。


「くっ……」


倫太郎の背面で倒れていた護衛の一人が振り絞るように手を空に向けて、魔法で練った光球をそのまま上空へ放つ。


光球は花火のように空へ上がっていき、一瞬強く発光して消えた。


「え?なに?」


護衛の謎行動に困惑する倫太郎。意味もなく周りをキョロキョロ見回す。


そこで小刻みに震える行商人らしき男と目が合う。


「あの」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!は、早く逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


情けない叫び声を上げて、御者を引っ叩きながら荷馬車を一心不乱に走らせる男。


「こんなつもりじゃないんだよ……」


遠退いていく荷馬車を見つめながら倫太郎は物悲しく呟いた。
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