同僚がヴァンパイア体質だった件について

真衣 優夢

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24話 恋人が泊まるということ

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 恋人が自宅マンションに泊まるということは、恋人が自宅マンションに泊まるということだ。
 混乱するな、朝霧令一。
 桐生を泊めるのはこれが初めてではない。
 二人で宅飲みして、そのまま寝潰れたこともあったじゃないか。


 だから何も緊張することはない。
 桐生が泊まるというのは、桐生が泊まるということで、前にこいつが泊まった時布団どうした!?
 ええと、桐生は適当にソファや床で寝てて、オレが気づいて毛布を掛けて。
 その時はそれでよくても今回はたぶんダメで、客用の布団なんてないぞ、どうする!?


 とりあえず枕だけでもと、ベランダで予備の枕を干していると、桐生が買い物から帰ってきた。


「お待たせ朝霧。
 あれ、枕?
 今までそんなの一度も出してくれなかったのに、大サービスだね」


 買い物袋を脇に置いて靴を脱ぎながら、桐生が笑う。
 悪かったな! お前がいつも先に寝つぶれるからだろ!
 ……ん?


「今更聞くのもなんだが……。
 お前、夜は強いんだったな。
 アルコールにも耐性があるんだったな」

「そうだよ。
 体力勝負になるけど、三徹くらいは今でもギリいけるかな」

「でも桐生、いつも、飲んだら寝つぶれて」

「僕が先に寝ないと、朝霧が眠れないと思って。
 朝霧は夜更かしすると、職員室で船こいじゃうからね」


 狸寝入りだった、だと!?
 確かに、一人で飲んでも退屈だから、桐生が寝たらオレも就寝していたが。
 昔から気を遣われていたとか、恥すぎる!


「キッチン借りるね」

「調理器具、まともに置いてないぞ」

「大丈夫、ぱっと見てわかった。
 足りないものは100円ショップで買ったよ」


 桐生は鼻歌を歌いながら、たぶん100円ショップの産物だろう、絶妙に可愛くないクマがプリントされたパッションピンクのエプロンを身に着けた。
 他にデザインはなかったのか。こいつ長身だからな。一番大きいのを選んだらそれだったんだろうな。
 料理を始める手慣れた仕草と音。
 夕飯は桐生が手料理を振舞うと言い出して、オレは流されるまま頷いた。
 こいつ、自分では食べないのに、料理ができるのか。


「簡単なのでごめんね。
 味は保証するから。朝霧の好みの和風パスタだよ」

「オレの好みをなんで知ってる」

「ファミレスで打ち合わせ、何度もしたよね。
 好んで選ぶものくらい覚えてるよ?
 こってりよりあっさり派、たまにお肉が食べたくなるとハンバーグとか頼んで、味が濃くて食べきれないんだよね」

「そんなところまで見てたのか!」

「片思いの時間、4年だからね?」


 知らないうちに恋をされているのは恐ろしい。
 どこまで見られていたんだろう。
 こいつは完璧に友情ラインを守り抜いていたように思う。ある意味で、すごい。
 オレは、桐生に答えようと腹をくくってから、いろいろと動揺してばかりで隠す余裕はない。


「ビール飲むよね。冷やしておくよ。
 余ったら好きにしていいから」

「準備よすぎるだろ。
 家政夫かお前は」

「あははは、よく言われたなあ」


 何気ない会話だが、ちくりと胸に引っかかった。
 『よく言われた』、か。
 一度や二度ではなく、誰かにこうして、食事を作っていたんだな。


「お前が嫌でないなら……。その、過去の恋人はどんな人だったか、聞いてもいいか。
 オレはお前以外に知らなくて、参考資料として」

「ふふ、朝霧。マナー違反だなあ。
 昔の恋人を知りたいなんて、基本は言っちゃだめだよ。
 嫌がられるし、詮索されてると思うから」

「す、すまん!」

「ううん、僕は平気。
 むしろ聞いてほしいくらい」


 リビングとキッチンは、一人暮らしのマンションだとさほどの距離はない。
 お互いの気配は感じて、声も通って、顔だけ見えない。


「僕は、過去に恋人だった人たちに、とても失礼だったと思う。
 告白をされて、良かれと思ってOKして。
 でも、特別な感情はわかなくて。何をしても、僕の心に変化はなくて。
 相手もそれに気づくのか、僕がフラれるか相手に恋人ができて終わり。
 それを何回も繰り返しただけ。人数も、顔さえよく覚えていない」


 桐生はルックスがいいから、モテるだろうとは思っていた。
 予想通りであり、予想外だった。
 桐生は愛情深くて、恋人は溺愛すると思っていた。
 なのに、顔も覚えていない上に、人数も分からない?


「努力はしたんだ。
 こうすれば喜ばれるかな、とか、これは嬉しく思うかな、とか。
 恋人らしいことは全部やったと思う。
 望まれたことには、不可能なこと以外全部応えたよ。
 ただ、何も思えなかっただけ」

「全部、って」

「……全部」


 桐生もいい年の大人だ。全部というなら、全部なのだろう。
 愛してもいない相手に尽くして、望みをかなえて、努力して。
 それは桐生にとって、なんの意味があったんだろうか。


「お前は、その、それで幸せだったのか?」

「その時は、そんなことすら考えなかった。
 相手が僕を必要として喜んでくれるなら、僕にも価値があるんだと思ってね。
 そういう意味では嬉しかった。僕も、何かの役に立てるんだなって……。
 必要とされている間は頑張ったよ。
 今、ほんとうの恋をしてるから、やっとわかった。
 全然幸せじゃなかったし、楽しくもなかった」


 ……こいつは。
 自己価値が皆無に等しいのだと、理解した。



つづく

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