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一日目

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 うだるような暑さの八月のある月曜日、午前十時三十分。

 長崎港の、巻貝に似た奇抜な形のターミナルビルに駆け込んだ一ノ瀬レンは、海に面した待合室に懐かしい顔ぶれの五人組を見つけて、思わず笑みを浮かべた。

「あ、一ノ瀬だ。うわっ、全然かわってなーいっ」

 パンクな柄の紫色のTシャツを着た小柄な女が振り向いて、ケラケラと大袈裟に笑う。
 
「真壁、か……?」

 女のド派手なメイクと、鮮やかなライトグリーンに染めたショートカットの髪をみて、レンは思わず眉を寄せる。

 やたらと目立つその女の名は、真壁ヒトミ。
 高校の時から性格は人一倍明るかったが、あの頃の地味な見た目とくらべると、今はほとんど別人だ。

「なんとか間に合ったみたいだね」

 グレーのポロシャツ姿の痩せた男が、黒眼鏡の奥の目を細めて、ほっとしたように言う。

 こちらは、倉橋ユウト。
 高校時代は学年トップの秀才だったが、国公立の受験に失敗して、今は都内の某私大に通っている。
 会うのは二年ぶりだが、以前より髪が三センチほど長くなったくらいで、高校の頃と見た目はほとんど変わっていない。

「ひさしぶり」
「元気してた?」

 ストレートの長髪を暗めのブラウンに染めたグラマラスな女と、ふんわりウェーブさせたピンクベージュの髪の可愛らしい女が、レンを見てニッコリ微笑む。

 永瀬キョウコと、桜井アキ。
 ふたりともこの二年でぐっと大人びて、すっかり美人になっているが、高校時代と印象はそれほど変わっておらず、ヒトミほどの大変身はしていない。

 レンは、他の四人と少し離れて立っている、スポーツウェアを着た長身の男に視線を移して、軽く手を振った。

「おっす」
「おう」

 こちらは、高宮リク。
 陸上長距離でインターハイにも出場したアスリートでありながら、ユウトを差し置いて帝大法学部にあっさり現役合格した、文武両道の秀才。
 高校の時から変わっていなければ、将来の夢はたしか国際弁護士になることで、その夢もきっとそう遠くないうちに実現させるだろう。

「んじゃ、みんな揃ったことだしっ、いよいよ夢の島での三泊四日のバッカァーンスに出発しますかーっ!」

 ヒトミが無意味に声を張り上げて細い腕を突き上げると、残りの五人は顔を見合わせて苦笑しつつ、五島列島行きのジェットフォイルが待つ乗り場へと向かって歩き出した。
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