ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

クロナミ

文字の大きさ
4 / 79
一日目

しおりを挟む
 長崎港からジェットフォイルとフェリーを乗り継いで約三時間でたどり着く、五島列島、黒賀島。

 人口千人弱の漁村があるだけの、何の変哲もない小さな島だが、エメラルドグリーンの美しい海と、隠れキリシタンにまつわるいくつかの名所のおかげで観光業も一応成り立っていて、毎年夏には物好きな旅行客がわずかばかり訪れる。

「――だから、こんな島でも、こうしてレンタカーを借りたりできるんだ」

 海岸沿いの曲りくねった道をのんびり走るミニバンの車内。
 運転席のユウトがちょっと得意気に言うと、最後部の三列目に座るヒトミが不満の声をあげた。

「それはいいんだけどさっ、ユイも入れたらアタシら七人だよ? 七人乗りに七人乗るのはキツイって。もうちょっと大っきいヤツなかったのーっ?」
「いや、あったんだけど、予算のカンケイで……」
「ちぇっ、みみっちぃなぁっ! アタシら、バカンスに来てんだよ、バカンスにぃっ! 学校の宿泊研修じゃないんだからさぁーっ!」
「まぁまぁ、べつにいいじゃん?」

 アキが、ふんわりウェーブした髪を振りながら、隣のヒトミにニッコリと笑いかける。

「こんな小さな島だもん。クルマに乗ってる時間だってそんなに長くないんだからさ?」
「まー、そりゃそうかもしんないけどさぁー」

 ヒトミがしぶしぶ納得すると、二列目にいるレンは、隣に座る女の横顔を見つめた。

「八神の実家まで、どのくらいかかるんだ?」
「もうすぐよ。たぶん、あと五分くらい」

 キョウコは、スマホの画面に目を落としたまま答える。

 八神ユイ。
 他の五人と同じく、レンの高三の時の同級生だが、クラスの中では唯ひとり、どこへも進学せずに、急死した父親にかわって身体の不自由な母親を介護するため、この島にある実家へと戻った。
 
 卒業後も連絡を取り合っていたキョウコのもとに、先月、ユイから「夏休みにこっちに遊びに来ないか」という誘いがあり、キョウコが、せっかくだからと、高校時代に仲が良かった五人にも声をかけて、今回の旅行が計画された、というわけだ。

 八神家はこの島の名家で、その邸宅もかなり大きいらしく、六人は、この三泊四日丸ごとそこでお世話になることになっている。

「とりあえず、着いたらすぐ海で泳いでー、夜はバーベキューと花火かなーっ」

 ヒトミが、明るい緑髪の下で思わせぶりに口の端をつり上げる。

「んでぇ、あしたの夜は肝試しだね、やっぱ。来る前にちょっと調べたんだけどさー、この島のあちこちに、むかし迫害されたキリシタンが大勢殺されたり、集団自殺した場所があるんだってー。それを知っちゃったらさー、もうやるっきゃないよね、肝試しー。史上初の、肝試しスタンプラリー、やっちゃおうよぉーっ」
「え……肝試し? うち、そういうのダメなんだけど……」

 アキが不安そうに言うと、運転席でユウトが珍しくテンションを上げた。

「いや、やろうよっ! 肝試し! うん、絶対盛り上がるよっ!」
「おっ、倉橋ィ、いいねぇー。ねっ、キョウコもやるよねっ?」
「……わたしは、べつに、どっちでもいいけど」
「よしっ、じゃ賛成、ということで。一ノ瀬は? 一ノ瀬もやりたいよねっ?」
「んー、おれも、どっちでもいいかな」

 レンが適当に答えると、ヒトミがこれで決まり! とでも言いたげにパンと手を叩いた。

「よしっ! 賛成が四票ということで、肝試し大会、開催けってーいっ!」
「えぇ……」

 アキが露骨にイヤな顔をしてため息をついた、その時。

「なんだ、あれ……?」 

 それまで助手席で、我関せずという顔でじっと前方を見つめていたリクが、ふいに訝しげな声を出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...