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一日目

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「え、ナニ? どしたの?」

 車内の全員が、一斉にリクの視線の先にあるモノに目を向ける。

「……なに、アレ?」

 緩いカーブの続く道の先に突如姿を現したのは、なんとなく食べかけの豆腐を思わせる、巨大な建造物。

 海岸に半分出っ張るようにして造られたその建物には、窓がひとつもなく、眩しいばかりの純白のその外観が、のどかな風景の中で、かなり異彩を放っている。

「……エヌバイオファーマっていう会社の、研究所みたいだな」

 スマホの検索結果を見つめながらリクが呟くと、ヒトミが眉を寄せた。

「研究所? こんなド田舎にぃ? 一体、何やってる会社なのよ?」
「……製薬会社、って書いてあるな。本社は……東京か」
「ふーん。まあ土地が安かったんだろうけど、わざわざこんなトコに研究所つくらなくてもいいのにねぇ。景観ブチ壊しじゃん」
「ほんとだね」

 アキも、研究所を気味悪そうに見つめながら、うなずく。

「ま、文句いっても仕方ないだろ」

 リクはそっけなく言うと、これで話は終わりだ、というようにスマホの画面を消して、前方に視線を戻した。

 そのまま研究所のそばを通り過ぎて、海岸沿いをさらに数分走ると、ふいに視界が開けて、海に面した小高い丘の上にたつ、大きな石造りの洋館が目に入った。

「うわぁ、オッシャレー。ホテルかな? それとも、金持ちの別荘?」

 ヒトミが目を輝かせて言うと、キョウコが首を振って、前方を指差した。

「ううん、あれがユイの実家だよ。ほら、見て」

 言われて、皆が目を凝らすと、丘の上の洋館から真直ぐ道を下ったところに、黒い日傘を差した女がひとり、立っているのが見えた。

「えっ、あれ、ユイ? ていうか、あれがユイの実家なの!? すごい、チョー金持ちじゃんっ!!」

 ヒトミが、マスカラで重さが三倍くらいになった睫毛をバサバサさせながら、叫ぶ。

「えー、なんか意外……」

 隣で、アキが複雑な表情で呟いて、ウェーブした髪の奥から、二年ぶりに会う旧友の姿をじっと見つめた。

 
 自動車が走れる道は洋館の真下で行き止まりになっていて、そこにある狭い空き地にミニバンを停めると、皆は一斉にクルマから降りて、黒のワンピースに身を包んだ色白の女を囲んだ。

「ユイーっ! 会いたかったよぉーっ!」

 ヒトミが、わざとらしく泣き真似をしながら抱きつくと、女は柔らかく笑って、うなずいた。

「ひさしぶりだね、ヒトミ。わたしも、会えてうれしい」
「うわっ、他人行儀っ! やめてよぉっ! ていうかユイ、肌、白っ! こんな島で暮らしてるからメッチャ焼けてるかと思ったのに、アタシより白いじゃんっ!」
「そうかな」

 女は曖昧に答えると、他の皆の顔を見回して、また微笑んだ。

「みんなも、わざわざこんな遠くまで来てくれて、ありがとう。こうして、またみんなと会えて、すごくうれしい」

 すると、キョウコが、いたずらっぽく笑いながらひょいと肩をすくめた。

「長旅で疲れちゃった。積もる話の前に、荷物を置かせてほしいかな」
「あっ、そうだね。ごめんなさい」

 ユイは少し慌てて言ったあと、後ろを振り向いて、丘の上の洋館を指差した。

「古い家だけど、部屋は人数分用意したから、ゆっくり過ごしてもらえると思う」
「人数分……ほんとに、ホテルだね……」

 ユウトがちょっと呆気にとられたような顔で呟くと、皆も同時にうなずいた。


 ユイに案内されて、洋館へと続く坂道を上っている途中、アキがおもむろに口を開いた。

「それで……ユイのお母さん、体の具合どうなの?」

 それは、皆がずっと気になっていたことで、これから本人と対面する前に是非とも聞いておきたいことだった。

「…………」

 ユイは、ふと立ち止まって皆の方を振り返り、少し寂しげに目を細めた。

「ごめんなさい。みんなには言ってなかったけど……母は、先月亡くなったの」
「えっ」

 予想外の事実に皆が驚き、思わず足を止める。

「先月って……? え、なんで? 何かの病気?」

 ヒトミの問いに、ユイはゆっくり首を横に振った。

「ううん。母は……、自殺したの」
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