ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

クロナミ

文字の大きさ
5 / 79
一日目

しおりを挟む
「え、ナニ? どしたの?」

 車内の全員が、一斉にリクの視線の先にあるモノに目を向ける。

「……なに、アレ?」

 緩いカーブの続く道の先に突如姿を現したのは、なんとなく食べかけの豆腐を思わせる、巨大な建造物。

 海岸に半分出っ張るようにして造られたその建物には、窓がひとつもなく、眩しいばかりの純白のその外観が、のどかな風景の中で、かなり異彩を放っている。

「……エヌバイオファーマっていう会社の、研究所みたいだな」

 スマホの検索結果を見つめながらリクが呟くと、ヒトミが眉を寄せた。

「研究所? こんなド田舎にぃ? 一体、何やってる会社なのよ?」
「……製薬会社、って書いてあるな。本社は……東京か」
「ふーん。まあ土地が安かったんだろうけど、わざわざこんなトコに研究所つくらなくてもいいのにねぇ。景観ブチ壊しじゃん」
「ほんとだね」

 アキも、研究所を気味悪そうに見つめながら、うなずく。

「ま、文句いっても仕方ないだろ」

 リクはそっけなく言うと、これで話は終わりだ、というようにスマホの画面を消して、前方に視線を戻した。

 そのまま研究所のそばを通り過ぎて、海岸沿いをさらに数分走ると、ふいに視界が開けて、海に面した小高い丘の上にたつ、大きな石造りの洋館が目に入った。

「うわぁ、オッシャレー。ホテルかな? それとも、金持ちの別荘?」

 ヒトミが目を輝かせて言うと、キョウコが首を振って、前方を指差した。

「ううん、あれがユイの実家だよ。ほら、見て」

 言われて、皆が目を凝らすと、丘の上の洋館から真直ぐ道を下ったところに、黒い日傘を差した女がひとり、立っているのが見えた。

「えっ、あれ、ユイ? ていうか、あれがユイの実家なの!? すごい、チョー金持ちじゃんっ!!」

 ヒトミが、マスカラで重さが三倍くらいになった睫毛をバサバサさせながら、叫ぶ。

「えー、なんか意外……」

 隣で、アキが複雑な表情で呟いて、ウェーブした髪の奥から、二年ぶりに会う旧友の姿をじっと見つめた。

 
 自動車が走れる道は洋館の真下で行き止まりになっていて、そこにある狭い空き地にミニバンを停めると、皆は一斉にクルマから降りて、黒のワンピースに身を包んだ色白の女を囲んだ。

「ユイーっ! 会いたかったよぉーっ!」

 ヒトミが、わざとらしく泣き真似をしながら抱きつくと、女は柔らかく笑って、うなずいた。

「ひさしぶりだね、ヒトミ。わたしも、会えてうれしい」
「うわっ、他人行儀っ! やめてよぉっ! ていうかユイ、肌、白っ! こんな島で暮らしてるからメッチャ焼けてるかと思ったのに、アタシより白いじゃんっ!」
「そうかな」

 女は曖昧に答えると、他の皆の顔を見回して、また微笑んだ。

「みんなも、わざわざこんな遠くまで来てくれて、ありがとう。こうして、またみんなと会えて、すごくうれしい」

 すると、キョウコが、いたずらっぽく笑いながらひょいと肩をすくめた。

「長旅で疲れちゃった。積もる話の前に、荷物を置かせてほしいかな」
「あっ、そうだね。ごめんなさい」

 ユイは少し慌てて言ったあと、後ろを振り向いて、丘の上の洋館を指差した。

「古い家だけど、部屋は人数分用意したから、ゆっくり過ごしてもらえると思う」
「人数分……ほんとに、ホテルだね……」

 ユウトがちょっと呆気にとられたような顔で呟くと、皆も同時にうなずいた。


 ユイに案内されて、洋館へと続く坂道を上っている途中、アキがおもむろに口を開いた。

「それで……ユイのお母さん、体の具合どうなの?」

 それは、皆がずっと気になっていたことで、これから本人と対面する前に是非とも聞いておきたいことだった。

「…………」

 ユイは、ふと立ち止まって皆の方を振り返り、少し寂しげに目を細めた。

「ごめんなさい。みんなには言ってなかったけど……母は、先月亡くなったの」
「えっ」

 予想外の事実に皆が驚き、思わず足を止める。

「先月って……? え、なんで? 何かの病気?」

 ヒトミの問いに、ユイはゆっくり首を横に振った。

「ううん。母は……、自殺したの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...