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一日目

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「自殺、って……うそ……」

 口を開いたまま硬直するアキをみて、ユイが微笑む。

「ウソじゃないよ。先月、あの崖から飛び降りたの」

 そう言って、丘の向こうに見えている、海に細く突き出した高い崖を指差した。

「そんなっ、ちょっと、なんでそんな大事なこと言ってくれなかったのよぉっ!」
 
 ヒトミが怒鳴ると、ユイは視線を落とした。

「ごめんなさい。そのことを言ったら、みんながここに遊びに来てくれなくなるような気がしたから……」
「…………」

 皆は、無言で顔を見合わせる。

 ユイの言うとおり、先月ユイの母親が自殺した、という事実を彼女から聞かされていたら、誰も今回の旅行に参加しようとはしなかったにちがいない。

 しかし、だからといって、その事実を今日まで隠しておこうと判断するその思考は、はっきりいって――異常だ。

 重苦しい空気の中で誰もが言葉を失い、それを見たユイは、今にも泣きそうな顔で口をぎゅっと引き結んだ。

 すると――、キョウコが、おもむろにユイのもとへ近づいていって、彼女の体をぎゅっと抱き締めた。

「ひとりで、辛かったね……」キョウコは、目に涙を浮かべながら、優しく語りかけた。「ごめんね。ユイが苦しんでる時に、そばにいてあげられなくて」
「ううん……」

 ユイは、少し背の高いキョウコの肩に顔を寄せて、呟いた。

「わたしは、大丈夫。こうして、みんなとも会えたし。すごく悲しかったけど、でも、もう大丈夫」
「そっか……」

 ユイの美しい黒髪を何度も愛おしそうに撫でたキョウコは、皆の方を振り向いて、無言でうなずいてみせた。

 ユイのやったことはけして褒められたことではないけれど、だからといって、ここでいま彼女を責めるべきではない――キョウコの真摯な眼差しが、そう訴えていた。

 それをみて、皆も多少ぎこちなく、うなずく。

 この二年間、ユイは、この人里離れた洋館で、たったひとりで母親の介護をしてきたのだ。
 それが、どれだけ辛く苦しいことであったかは、察するに余りあるし、その孤独な日々のせいでユイが精神を少し病んでしまっていたとしても、なんら不思議はなかった。

「ごめんねっ! ユイ。知らなかったとはいえ、なんにも力になってあげられなくてさっ。でも、これからはもうちがうよっ。アタシらがそばにいて、なんでも相談に乗るから、ねっ!」

 ヒトミが元気にいうと、他の皆も口々にユイを励ました。

「ありがとう、みんな」

 ユイは、胸の前で手を合わせて、心底うれしそうに、満面の笑みをみせた。
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