ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

クロナミ

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二日目

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 その骨の長さは四十センチくらいあって、どうみても、イヌやネコのものではない。

(まさか……)

 骨にこびりついた肉がまだピンク色をしているところから見て、この骨の持主が死んで、そう長い時間はたっていないだろう。
 せいぜい昨日か、あるいは、今日かもしれない。

(もし、この骨が、人間のモノだったとしたら……もうバカンスどころの話じゃなくなるぞ……)

 レンが、その場に突っ立ったままどうしたものかと思案していると、彼のことが気になったのか、砂浜のほうからキョウコとユイが、のんびり笑いながらやってきた。

「こんなとこで、何してるのよ?」

 キョウコは、細い腰に手をあてながら、明るい調子で言う。

「いや、ちょっと……、これ、見てくれよ」

 対照的に、レンは暗い声音で答えた。

「なにそれ……、骨?」

 キョウコも、レンが指差すモノをみた瞬間、気色悪そうに顔を歪める。

「それ……なんの骨なの?」
「わからない。でも、大きさからみて、イヌやネコじゃないだろう。もしかしたら――」

 レンが、その恐ろしい言葉を口にしようとした、瞬間。

「ウシの骨ね」

 ユイが、微笑みを浮かべたまま、あっさりと言った。

「……ウシ?」

 レンは、半信半疑で女の顔を見つめる。

「ええ。それはウシの骨よ。この島にもウシを飼っている人が何人かいて、中には、病気で死んでしまったウシの死体をこんなふうに、勝手に海や山に捨てていっちゃう悪い人がいるの」
「ふうん。悪いヤツはどんなとこにもいるんだね……」

 キョウコが、ビキニに包まれた豊満な胸を持ち上げるように腕を組んで、うんざりしたように言う。

 それから、ユイは、おもむろに岩場にしゃがんで、その太い骨を素手でひょいと持ち上げると、止める暇もあらばこそ、海へ向かってぶんっ!と勢いよく投げてしまった。

「あっ」

 驚きに目を見開くレンの視線の先で、投げられた骨は波のある海面にばしゃんと落ちて、そのままあっという間に沈んで見えなくなる。

「おいっ!」レンは、思わずユイを睨みつけて、怒鳴った。「さっきの、本当にウシの骨だったのか!?」
「ええ。まちがいないわ」
 
 ユイは、やはり柔らかな笑みを浮かべたまま、自信に満ちた声で言う。

「っ……」

 レンが、ユイに敵意を込めた眼差しを送っているのに気づいて、キョウコが不安そうな顔をした。

「……ウシじゃないとしたら、レンは何の骨だと思ったの?」

 訊かれて、レンは、視線を落として口ごもる。

「いや、オレは、その……もしかしたら、人間の骨じゃないか、と思って……」

 その言葉を聞いた途端、キョウコは拍子抜けしたようにため息をついた。

「人間って……。そんなわけないでしょ。もしそうなら、大事件じゃない……」
「……」

 レンは、何も言い返すことができず、口惜しげに口を引き結ぶ。

(あの骨が手元から無くなってしまった以上、もはやここで何を言っても無意味だ)
(でも……あれが本当にただのウシの骨だったとしたら、なんでユイはわざわざ海に投げ捨てたりしたんだ……?)

 レンは暗い疑念を抱えたまま、砂浜へと戻っていくふたりの後をついて歩きはじめる。

(あれは、やっぱり人間の骨だったんじゃないのか……?)
(ユイは、誰よりも早くそのことに気づいて、恐ろしい事件の証拠をオレたちの目から隠そうとしたのでは……?)

 レンの視線の先で、ふいにユイがこちらを振り返って、あの右手の五本の指をゆっくりと、なんとも艶めかしく、淫らに動かしてみせた。

 それを見た瞬間、レンは息が止まるほどの恐怖を覚えたが、同時に、股間に熱い血が滾っていくのも感じた。

 ユイは、男の体内に湧きあがったその肉欲を見透かしたかのように、わずかに笑みを濃くすると、ふたたび前を向いて、キョウコと愉しげに談笑しながら、去っていった。

 レンは、みずからの恐ろしい未来を予感して、小刻みに震えながら、いつまでもその場に立ち尽くした。
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