ヘヴンリー・ヘル ~姦ノ島~

クロナミ

文字の大きさ
30 / 79
二日目

29

しおりを挟む
 助手席に座るヒトミは、チューハイの缶を軽く振りながら、隣でハンドルを握るユウトに笑いかける。

「悪いねーっ、アタシだけ飲んじゃってっ♪」
「ううん、気にしないで。僕は、真壁さんとこうして一緒にいるだけで、じゅうぶん楽しいから」

 ユウトが、前を見つめたまま言うと、

「そ、そう?」

 ヒトミは、少しぎこちなくいって、ピーチ味の酒をグビグビとあおる。

 港を挟んで、ちょうど島の反対側あたりまで走ると、ミニバンは脇道にそれて、舗装されていない林道を少しいったところで、停車した。

「この先に、むかし隠れキリシタンが建てた教会の跡地があるらしくてさっ。そこ、肝試しにはうってつけのスポットだと思うわけよ」

 ヒトミが、スマホを振りながら笑うと、ユウトも周囲にひと気がないことを確認して、うなずいた。

「本当に、いい場所だね……」

 ふたりが、葉が青々と茂った照葉樹のトンネルをのんびり歩いていくと、まもなく、少し開けた場所にコケの生えた石造りの廃墟が姿を現した。

 屋根がすべて落ちて、壁だけになってしまったその細長い建物は、たしかに教会と言われれば、そう見えないこともなかった。

「うわぁっ、いいねぇっ! すっごい雰囲気あるよぉっ!」

 建物の周囲を歩き回りながら、ヒトミが子供のようにはしゃぐ。

「肝試しはじめる前にさ、昔、江戸幕府から迫害された数百人の隠れキリシタンがこの教会で集団自殺をしたらしい……とかなんとか言ってやれば、みんな、めっちゃ怖がってくれる思うなぁーっ」
「そうだね……」

 建物の中に入って、何かそれっぽいモノでも落ちてはいないかと、ヒトミがあちこち見て回っていると、ふいに、

「真壁さん……」

 と、ユウトが、思い詰めたような声で彼女の名を呼んだ。

「ん、どしたぁ?」

 ヒトミが振り返ると、すぐ目の前、互いの肌が触れんばかりのところにユウトが立って、真直ぐこちらを見下ろしていた。

「えっ、なに……?」
 
 思わず身体を硬くするヒトミの前で、ユウトは黒眼鏡の奥の目を潤ませ、熱っぽい声で言った。

「こんな場所で伝えることじゃないのかもしれないけど……でも、もうこの気持ちを抑えられない……」
「は? なに?」
「真壁さん……僕は、高校の時からずっと……ずっと君のことが好きだった」
「……。えぇっ?」
「僕と、付き合ってほしい」
「え? いや、ちょっと……え?」

 ユウトが、ずいと前に出ると、すっかり混乱したヒトミは、思わず後退って、壁際に追い詰められた。

「絶対、君を幸せにするから」
「いや、ちょ、待って……」

 普段からわりと遊んでる雰囲気を出して、男女問わず恋愛相談も気軽に受けてきたヒトミではあったが、じつは、男から面と向かって告白をされたのはこれがはじめての経験で、咄嗟にどう対処するべきかわからず、途方に暮れた。

「だめ、かな……。やっぱり、僕なんかじゃ」
 
 ユウトが視線を逸らせて、その悲しげな目に涙を浮かべると、ヒトミの胸がチクりと痛んだ。

「いや、すごく気持ちはうれしいんだけどさ……その、アンタのこと、そういう目で見たことないし……」
「……」
「だから、付き合うとかは……無理、かな……」
「そうか……」
「ごめん」

 はっきり言うと、ユウトの目からぽろぽろ、ぽろぽろと、とめどなく涙が溢れ始めた。
 それを見て、またヒトミの胸がズキンと痛む。

「……ごめん」

 また謝ると、ユウトは無理して笑おうとしながら、かぶりを振った。

「僕のほうこそ、ごめん……」
「ううん……」
「今この時を一生の思い出にして、今日をかぎりに真壁さんのことはキッパリあきらめるよ」
「うん……」
「だからといっては、なんだけど……」
「なに?」
「最後にひとつだけ、僕にいい思い出を、くれないかな……?」

 ユウトは、涙を流しながらそう言うと、おもむろにヒトミの手をとって、自分の股間を触らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...