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二日目
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助手席に座るヒトミは、チューハイの缶を軽く振りながら、隣でハンドルを握るユウトに笑いかける。
「悪いねーっ、アタシだけ飲んじゃってっ♪」
「ううん、気にしないで。僕は、真壁さんとこうして一緒にいるだけで、じゅうぶん楽しいから」
ユウトが、前を見つめたまま言うと、
「そ、そう?」
ヒトミは、少しぎこちなくいって、ピーチ味の酒をグビグビとあおる。
港を挟んで、ちょうど島の反対側あたりまで走ると、ミニバンは脇道にそれて、舗装されていない林道を少しいったところで、停車した。
「この先に、むかし隠れキリシタンが建てた教会の跡地があるらしくてさっ。そこ、肝試しにはうってつけのスポットだと思うわけよ」
ヒトミが、スマホを振りながら笑うと、ユウトも周囲にひと気がないことを確認して、うなずいた。
「本当に、いい場所だね……」
ふたりが、葉が青々と茂った照葉樹のトンネルをのんびり歩いていくと、まもなく、少し開けた場所にコケの生えた石造りの廃墟が姿を現した。
屋根がすべて落ちて、壁だけになってしまったその細長い建物は、たしかに教会と言われれば、そう見えないこともなかった。
「うわぁっ、いいねぇっ! すっごい雰囲気あるよぉっ!」
建物の周囲を歩き回りながら、ヒトミが子供のようにはしゃぐ。
「肝試しはじめる前にさ、昔、江戸幕府から迫害された数百人の隠れキリシタンがこの教会で集団自殺をしたらしい……とかなんとか言ってやれば、みんな、めっちゃ怖がってくれる思うなぁーっ」
「そうだね……」
建物の中に入って、何かそれっぽいモノでも落ちてはいないかと、ヒトミがあちこち見て回っていると、ふいに、
「真壁さん……」
と、ユウトが、思い詰めたような声で彼女の名を呼んだ。
「ん、どしたぁ?」
ヒトミが振り返ると、すぐ目の前、互いの肌が触れんばかりのところにユウトが立って、真直ぐこちらを見下ろしていた。
「えっ、なに……?」
思わず身体を硬くするヒトミの前で、ユウトは黒眼鏡の奥の目を潤ませ、熱っぽい声で言った。
「こんな場所で伝えることじゃないのかもしれないけど……でも、もうこの気持ちを抑えられない……」
「は? なに?」
「真壁さん……僕は、高校の時からずっと……ずっと君のことが好きだった」
「……。えぇっ?」
「僕と、付き合ってほしい」
「え? いや、ちょっと……え?」
ユウトが、ずいと前に出ると、すっかり混乱したヒトミは、思わず後退って、壁際に追い詰められた。
「絶対、君を幸せにするから」
「いや、ちょ、待って……」
普段からわりと遊んでる雰囲気を出して、男女問わず恋愛相談も気軽に受けてきたヒトミではあったが、じつは、男から面と向かって告白をされたのはこれがはじめての経験で、咄嗟にどう対処するべきかわからず、途方に暮れた。
「だめ、かな……。やっぱり、僕なんかじゃ」
ユウトが視線を逸らせて、その悲しげな目に涙を浮かべると、ヒトミの胸がチクりと痛んだ。
「いや、すごく気持ちはうれしいんだけどさ……その、アンタのこと、そういう目で見たことないし……」
「……」
「だから、付き合うとかは……無理、かな……」
「そうか……」
「ごめん」
はっきり言うと、ユウトの目からぽろぽろ、ぽろぽろと、とめどなく涙が溢れ始めた。
それを見て、またヒトミの胸がズキンと痛む。
「……ごめん」
また謝ると、ユウトは無理して笑おうとしながら、かぶりを振った。
「僕のほうこそ、ごめん……」
「ううん……」
「今この時を一生の思い出にして、今日をかぎりに真壁さんのことはキッパリあきらめるよ」
「うん……」
「だからといっては、なんだけど……」
「なに?」
「最後にひとつだけ、僕にいい思い出を、くれないかな……?」
ユウトは、涙を流しながらそう言うと、おもむろにヒトミの手をとって、自分の股間を触らせた。
「悪いねーっ、アタシだけ飲んじゃってっ♪」
「ううん、気にしないで。僕は、真壁さんとこうして一緒にいるだけで、じゅうぶん楽しいから」
ユウトが、前を見つめたまま言うと、
「そ、そう?」
ヒトミは、少しぎこちなくいって、ピーチ味の酒をグビグビとあおる。
港を挟んで、ちょうど島の反対側あたりまで走ると、ミニバンは脇道にそれて、舗装されていない林道を少しいったところで、停車した。
「この先に、むかし隠れキリシタンが建てた教会の跡地があるらしくてさっ。そこ、肝試しにはうってつけのスポットだと思うわけよ」
ヒトミが、スマホを振りながら笑うと、ユウトも周囲にひと気がないことを確認して、うなずいた。
「本当に、いい場所だね……」
ふたりが、葉が青々と茂った照葉樹のトンネルをのんびり歩いていくと、まもなく、少し開けた場所にコケの生えた石造りの廃墟が姿を現した。
屋根がすべて落ちて、壁だけになってしまったその細長い建物は、たしかに教会と言われれば、そう見えないこともなかった。
「うわぁっ、いいねぇっ! すっごい雰囲気あるよぉっ!」
建物の周囲を歩き回りながら、ヒトミが子供のようにはしゃぐ。
「肝試しはじめる前にさ、昔、江戸幕府から迫害された数百人の隠れキリシタンがこの教会で集団自殺をしたらしい……とかなんとか言ってやれば、みんな、めっちゃ怖がってくれる思うなぁーっ」
「そうだね……」
建物の中に入って、何かそれっぽいモノでも落ちてはいないかと、ヒトミがあちこち見て回っていると、ふいに、
「真壁さん……」
と、ユウトが、思い詰めたような声で彼女の名を呼んだ。
「ん、どしたぁ?」
ヒトミが振り返ると、すぐ目の前、互いの肌が触れんばかりのところにユウトが立って、真直ぐこちらを見下ろしていた。
「えっ、なに……?」
思わず身体を硬くするヒトミの前で、ユウトは黒眼鏡の奥の目を潤ませ、熱っぽい声で言った。
「こんな場所で伝えることじゃないのかもしれないけど……でも、もうこの気持ちを抑えられない……」
「は? なに?」
「真壁さん……僕は、高校の時からずっと……ずっと君のことが好きだった」
「……。えぇっ?」
「僕と、付き合ってほしい」
「え? いや、ちょっと……え?」
ユウトが、ずいと前に出ると、すっかり混乱したヒトミは、思わず後退って、壁際に追い詰められた。
「絶対、君を幸せにするから」
「いや、ちょ、待って……」
普段からわりと遊んでる雰囲気を出して、男女問わず恋愛相談も気軽に受けてきたヒトミではあったが、じつは、男から面と向かって告白をされたのはこれがはじめての経験で、咄嗟にどう対処するべきかわからず、途方に暮れた。
「だめ、かな……。やっぱり、僕なんかじゃ」
ユウトが視線を逸らせて、その悲しげな目に涙を浮かべると、ヒトミの胸がチクりと痛んだ。
「いや、すごく気持ちはうれしいんだけどさ……その、アンタのこと、そういう目で見たことないし……」
「……」
「だから、付き合うとかは……無理、かな……」
「そうか……」
「ごめん」
はっきり言うと、ユウトの目からぽろぽろ、ぽろぽろと、とめどなく涙が溢れ始めた。
それを見て、またヒトミの胸がズキンと痛む。
「……ごめん」
また謝ると、ユウトは無理して笑おうとしながら、かぶりを振った。
「僕のほうこそ、ごめん……」
「ううん……」
「今この時を一生の思い出にして、今日をかぎりに真壁さんのことはキッパリあきらめるよ」
「うん……」
「だからといっては、なんだけど……」
「なに?」
「最後にひとつだけ、僕にいい思い出を、くれないかな……?」
ユウトは、涙を流しながらそう言うと、おもむろにヒトミの手をとって、自分の股間を触らせた。
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