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二日目
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正午。
昼食の準備を女たち三人に任せて、レンはリクを自分の部屋に連れていった。
「なんだよ、話って」
不思議そうな顔をするリクに、レンは、先ほどの岩場での一件について口早に話して聞かせる。
「――ユイは、あれをウシの骨だと断言したけど、オレは、やっぱりちがったんじゃないかと思ってる」
「つまり、人間の骨だと?」
「……ああ」
深刻な顔をする友人を見つめながら、リクは腕を組む。
「仮に、お前の考えが正しいとすると、八神は、重大事件の証拠隠滅を図った、ということになるな?」
「ああ」
「……もしかして、お前は、八神がこの島で殺人を犯したんじゃないか、と考えてるのか?」
「いや、そこまでは……」
「おい、一ノ瀬」
リクは、盛大にため息をついた。
「現実に戻ってこい。お前はたぶん、小説か漫画の読み過ぎだ。よりによって、八神が人殺しだなんて……」
「オレは冷静だよ、高宮」
レンは、やや語気を強めて言った。
「この島は、やっぱり、何かがおかしい。オマエも感じてるだろ? 八神だけじゃない。あのスーパーの店員も、駐車場であったばあさんも、この島の人間はみんな、ちょっとフツーじゃないよ」
「普通じゃない、って――」
言いかけたリクは、ふいに、ランニング中に目撃したあの奇妙な「行進」のことを思い出し、思わず身震いして視線を落とした。
「……オマエも、心当たりがあるんだな。今朝、ひとりで外へ出た時に、何か見たんだろ?」
「……」
「言ってくれ。何があったんだ?」
リクは、なおもしばし迷った末に、のろのろと話しだした。
「五時過ぎくらいに、町へ向かって走ってたら、その……ヘンな連中と出くわした――」
リクが自分の目で見た事実をありのままに話すと、レンは少しも笑ったりせずに、神妙にうなずいた。
「ただの散歩、じゃないな、それは。島の連中が、夜中にあの研究所に集まって、何かしていたのかもしれない……」
「何かって、なんだ?」
「それはわからない。正直、予想もつかないよ」
「…………」
ふたりは暗い表情で、無言のまま見つめ合った。
「……で、これからどうする?」
リクに問われて、レンは首を横に振った。
「べつに何もしない。というか、できないだろ。オレたちは、刑事でも探偵でもない、ただの大学生で、明後日にはこの島を出ていくんだ」
「……そうだな」
「ただ……用心はしておいたほうがいいと思う。とくに、この島の人間である、八神には」
レンは、昨夜あの砂浜でユイが自分にしたことをここで話すべきか迷ったが、結局、何も言わないでおくことにした。
それは、やはり「ルール違反」であるような気がしたし、何より、自分の中でまだユイとの関係を完全に断ち切る覚悟ができていない、ということもあった。
「まあ、何もないさ」リクは、気楽な調子で言った。「万が一、この島でいま、本当に恐ろしい陰謀が渦巻いているのだとしても、三泊四日のバカンスにやってきただけの俺たちには、まったく関係のない話だ。あと二日、このままダラダラ過ごして、たまに酒飲んで騒いで、島の連中にすっかり呆れられながら帰っていくだけだ」
レンがうなずいた時――、コン、コン、と部屋の扉が叩かれて、すぐにユイが顔を見せた。
「ごはん、できたよ」
「…………」
思わず、表情を硬くしてその場に立ち尽くすふたりをみて、女は微笑みながら首を傾げる。
「どうしたの? なにか、悪いことの相談でもしてた?」
「いや……。倉橋たちは、もう戻ってきたのか?」
リクが訊くと、女は首を横に振った。
「まだだけど、もう帰って来るよ」
「連絡があったのか?」
「ううん。でも、そろそろだと思う」
「わかった。すぐいく」
ユイが部屋を去ると、ふたりは思わず、ほうっと安堵の息を吐いた。
「あと二日だ」
「そうだな。それで、この島ともおさらばだ」
ふたりは、互いを励ますように言って、のろのろと部屋を後にした。
昼食の準備を女たち三人に任せて、レンはリクを自分の部屋に連れていった。
「なんだよ、話って」
不思議そうな顔をするリクに、レンは、先ほどの岩場での一件について口早に話して聞かせる。
「――ユイは、あれをウシの骨だと断言したけど、オレは、やっぱりちがったんじゃないかと思ってる」
「つまり、人間の骨だと?」
「……ああ」
深刻な顔をする友人を見つめながら、リクは腕を組む。
「仮に、お前の考えが正しいとすると、八神は、重大事件の証拠隠滅を図った、ということになるな?」
「ああ」
「……もしかして、お前は、八神がこの島で殺人を犯したんじゃないか、と考えてるのか?」
「いや、そこまでは……」
「おい、一ノ瀬」
リクは、盛大にため息をついた。
「現実に戻ってこい。お前はたぶん、小説か漫画の読み過ぎだ。よりによって、八神が人殺しだなんて……」
「オレは冷静だよ、高宮」
レンは、やや語気を強めて言った。
「この島は、やっぱり、何かがおかしい。オマエも感じてるだろ? 八神だけじゃない。あのスーパーの店員も、駐車場であったばあさんも、この島の人間はみんな、ちょっとフツーじゃないよ」
「普通じゃない、って――」
言いかけたリクは、ふいに、ランニング中に目撃したあの奇妙な「行進」のことを思い出し、思わず身震いして視線を落とした。
「……オマエも、心当たりがあるんだな。今朝、ひとりで外へ出た時に、何か見たんだろ?」
「……」
「言ってくれ。何があったんだ?」
リクは、なおもしばし迷った末に、のろのろと話しだした。
「五時過ぎくらいに、町へ向かって走ってたら、その……ヘンな連中と出くわした――」
リクが自分の目で見た事実をありのままに話すと、レンは少しも笑ったりせずに、神妙にうなずいた。
「ただの散歩、じゃないな、それは。島の連中が、夜中にあの研究所に集まって、何かしていたのかもしれない……」
「何かって、なんだ?」
「それはわからない。正直、予想もつかないよ」
「…………」
ふたりは暗い表情で、無言のまま見つめ合った。
「……で、これからどうする?」
リクに問われて、レンは首を横に振った。
「べつに何もしない。というか、できないだろ。オレたちは、刑事でも探偵でもない、ただの大学生で、明後日にはこの島を出ていくんだ」
「……そうだな」
「ただ……用心はしておいたほうがいいと思う。とくに、この島の人間である、八神には」
レンは、昨夜あの砂浜でユイが自分にしたことをここで話すべきか迷ったが、結局、何も言わないでおくことにした。
それは、やはり「ルール違反」であるような気がしたし、何より、自分の中でまだユイとの関係を完全に断ち切る覚悟ができていない、ということもあった。
「まあ、何もないさ」リクは、気楽な調子で言った。「万が一、この島でいま、本当に恐ろしい陰謀が渦巻いているのだとしても、三泊四日のバカンスにやってきただけの俺たちには、まったく関係のない話だ。あと二日、このままダラダラ過ごして、たまに酒飲んで騒いで、島の連中にすっかり呆れられながら帰っていくだけだ」
レンがうなずいた時――、コン、コン、と部屋の扉が叩かれて、すぐにユイが顔を見せた。
「ごはん、できたよ」
「…………」
思わず、表情を硬くしてその場に立ち尽くすふたりをみて、女は微笑みながら首を傾げる。
「どうしたの? なにか、悪いことの相談でもしてた?」
「いや……。倉橋たちは、もう戻ってきたのか?」
リクが訊くと、女は首を横に振った。
「まだだけど、もう帰って来るよ」
「連絡があったのか?」
「ううん。でも、そろそろだと思う」
「わかった。すぐいく」
ユイが部屋を去ると、ふたりは思わず、ほうっと安堵の息を吐いた。
「あと二日だ」
「そうだな。それで、この島ともおさらばだ」
ふたりは、互いを励ますように言って、のろのろと部屋を後にした。
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