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二日目

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 レンとリクが一階に下りた時、ユイの予言どおり、ちょうどユウトとヒトミも帰ってきて、皆に明るい笑顔をみせた。

「ごめーん。遅くなっちゃった♪」

 なぜか、すっかり汗だくになっているヒトミは、隣にたつユウトの腕を軽く拳で叩きながら、謝った。

 ユウトが、ユイのほうを見てひとつうなずくと、彼女はそっと笑みを浮かべる。

「肝試しの下見は、上手くいったの?」
 
 キョウコが訊くと、ヒトミは小さな胸を精一杯張ってみせた。

「バッチリ。今夜は、サイコーの夜になるよ……」

 言って、ユウトと見つめ合い、柔らかく微笑む。

「……」

 ふたりの雰囲気が、午前中とは少しちがっているように感じたレンは、食堂にいくと、さりげなくヒトミの隣の席に腰を下ろした。

 そして――、

「っ!?」

 いま、彼女のカラダからも、あの濃厚に甘くて、苦い、刺激的な匂いが立ち昇っていることに気づいて、思わず全全身を硬直させた。

(まさかっ、ユウトと……!?)

 よく見ると、ヒトミの明るい緑髪には細い枯草が何本かからまっていて、肘や膝、背中もところどころ土で汚れている。

 しかし、パッと見どこにも怪我はないし、彼女が満足げな笑みを浮かべていることからしても、無理やり犯された、というわけではないようだ。

(ふたりは、前からデキてたのか? いや、でも、ほんの数時間前まで、そんな雰囲気はまったく感じなかった……)

「アタシのカラダに、何かついてる?」

 ヒトミが横目でこちらを見つめていることに気づいて、レンは慌てて視線を逸らせる。

「いや、べつに……」

(一体、何がどうなってるんだ……?)
(今朝は、ユイの愛液の匂いがユウトの体についていて、今は、同じ匂いがヒトミの体からも……)
(三角関係、ってやつなのか……? でも、昨日までは、三人ともただの友人同士にしか見えなかった……)

 レンは、離れた席にいるリクのほうをうかがったが、彼はキョウコと何かを熱心に話し込んでいて、ヒトミたちの異変に気づいてはいないようだった。

(いま、この洋館で何が起きてるんだ……?)
(わからない……。わかっていることは、ただひとつ)
(すべては、ユイからはじまっている、ということだけだ……)

 自分の皿に目を落として、眉根を寄せたまま黙々と料理を口に運びはじめたレンをみて、ユイとユウトはそっくり同じ、穏やかな微笑みを浮かべた。
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