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三日目
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「ちょっと!? 待って!」
背後で、キョウコの声がして、彼女がすぐに追いかけて来る気配がした。
全速力で走って火事の現場に到着したレンは、紅い炎に包まれつつある家を見上げ、ただちにその不自然さに気が付く。
(なんだ……?)
燃え盛る民家の玄関と窓のすべてには、なぜか外側から真新しい白い板が打ちつけられてあるのだ。
あれでは、誰も外から侵入できないのはもちろん、中の住人が外に脱出することもできないだろう。
(まさか……あの家に誰かを閉じ込めている……?)
(いや、そんなこと……あるわけ、ないか……)
レンは、そばで燃える家を愉しげに見つめている中年女の肩を叩いた。
「ちょっと、すみません!」
「なに?」女は振り向いて、親しげに微笑んだ。
「消防にはもう連絡してるんですよね?」
「もちろん、ちゃんとしてますよ」女は、はっきり断言した。
レンは、思わず言葉を失う。
(こんな小さな島だぞ……? 連絡さえすれば、五分もかからずに消防が現場に到着するんじゃないのか……?)
「……あの家、なんで、玄関と窓に板を打ちつけてあるんですか?」
「さあ? 水本さんは、ちょっと変わった人でしたから」
女は、なぜか過去形で話した。
「その、水本さんは、無事なんですよね?」
「さあ? そんなことあたしに訊かれても、ねえ」
女は、困ったように笑った。
「っ……」
レンは冷たい恐怖を感じて、思わずその場からじりじりと後退った。
(この女、いや、ここにいる島民全員、どうかしてる……)
(近所の住人の家が燃えてるってのに、どうして、みんなこんなに、愉しそうなんだっ!?)
その時――。
「ねえっ」
ふいに背後から声を掛けられて、レンは飛び上がった。
「どうしたの?」
振り向くと、キョウコと、残りの五人が不思議そうな顔でこちらを見つめて立っていた。
「いや……ちょっと」
レンは、口ごもり、視線を逸らす。
レンの頭にある恐ろしい考えは、所詮はただの推測に過ぎず、ここでそれを話したところで、キョウコはまともに取り合ってくれないだろう。
(昨日までの高宮だったら、きっとオレの話も真剣に聞いてくれただろうが、今のアイツは、もう……)
レンは、燃える家を見上げて不気味に微笑んでいる背の高い男を睨んで、口を歪めた。
今では、二階建の民家の全体が巨大な炎に包まれ、一本の太い火柱と化している。
たとえ、今すぐここに消防が到着したとしても、もう手の施しようがないのは明らかだった。
レンが己の無力さを恥じ、ぐっと奥歯を噛み締めた時――、
「っ! きゃあぁっ!」
燃え盛る家の二階あたりを見上げていたアキが、突然、悲鳴をあげた。
背後で、キョウコの声がして、彼女がすぐに追いかけて来る気配がした。
全速力で走って火事の現場に到着したレンは、紅い炎に包まれつつある家を見上げ、ただちにその不自然さに気が付く。
(なんだ……?)
燃え盛る民家の玄関と窓のすべてには、なぜか外側から真新しい白い板が打ちつけられてあるのだ。
あれでは、誰も外から侵入できないのはもちろん、中の住人が外に脱出することもできないだろう。
(まさか……あの家に誰かを閉じ込めている……?)
(いや、そんなこと……あるわけ、ないか……)
レンは、そばで燃える家を愉しげに見つめている中年女の肩を叩いた。
「ちょっと、すみません!」
「なに?」女は振り向いて、親しげに微笑んだ。
「消防にはもう連絡してるんですよね?」
「もちろん、ちゃんとしてますよ」女は、はっきり断言した。
レンは、思わず言葉を失う。
(こんな小さな島だぞ……? 連絡さえすれば、五分もかからずに消防が現場に到着するんじゃないのか……?)
「……あの家、なんで、玄関と窓に板を打ちつけてあるんですか?」
「さあ? 水本さんは、ちょっと変わった人でしたから」
女は、なぜか過去形で話した。
「その、水本さんは、無事なんですよね?」
「さあ? そんなことあたしに訊かれても、ねえ」
女は、困ったように笑った。
「っ……」
レンは冷たい恐怖を感じて、思わずその場からじりじりと後退った。
(この女、いや、ここにいる島民全員、どうかしてる……)
(近所の住人の家が燃えてるってのに、どうして、みんなこんなに、愉しそうなんだっ!?)
その時――。
「ねえっ」
ふいに背後から声を掛けられて、レンは飛び上がった。
「どうしたの?」
振り向くと、キョウコと、残りの五人が不思議そうな顔でこちらを見つめて立っていた。
「いや……ちょっと」
レンは、口ごもり、視線を逸らす。
レンの頭にある恐ろしい考えは、所詮はただの推測に過ぎず、ここでそれを話したところで、キョウコはまともに取り合ってくれないだろう。
(昨日までの高宮だったら、きっとオレの話も真剣に聞いてくれただろうが、今のアイツは、もう……)
レンは、燃える家を見上げて不気味に微笑んでいる背の高い男を睨んで、口を歪めた。
今では、二階建の民家の全体が巨大な炎に包まれ、一本の太い火柱と化している。
たとえ、今すぐここに消防が到着したとしても、もう手の施しようがないのは明らかだった。
レンが己の無力さを恥じ、ぐっと奥歯を噛み締めた時――、
「っ! きゃあぁっ!」
燃え盛る家の二階あたりを見上げていたアキが、突然、悲鳴をあげた。
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