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三日目
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「どうした!?」
レンが慌てて訊くと、アキは二階の端の窓のあたりを指差して、かすれた声で呟いた。
「てっ……てっ……」
「て?」
「て……いま、人の手がっ、見えたっ……」
「っ!」
ありきたりのアルミサッシの窓は、その四分の三以上が幅の広い板で覆われているが、たしかに、残ったわずかな隙間から暗い室内を覗くことができる。
レンが食い入るようにその隙間を見つめていると、ほんの一瞬、痩せ細った白い手のようなモノがガラスにびたと張りつき、そのままずるずると下がって、すぐに見えなくなった。
(あれは――っ!)
「人が、家の中にまだ人がいますっ!」
レンが叫ぶと、周囲にいた住民全員が彼の方を振り返り、無言のまま微笑んだ。
「っ!? 人がいるんです! まだ家の中にっ!」
まもなく、住民たちは互いに顔を見合わせ、苦笑した。
「人がいるんだって。お前、見たか?」
「いいや。お前は?」
「いいや」
「わたしも、見えなかったねえ」
「わたしも」
「たぶん、見間違いだね」
「そうだね」
住民たちのリアクションはそれだけで、誰ひとりその場から動くこともなく、またのんびり燃える家を見物しはじめる。
「あの中に人がいるって、本当なの?」
キョウコが半信半疑の顔で訊くと、レンはうなずいた。
「あれは、たしかに、人の手だった……」
「アキも、見たの?」
問われて、アキは視線を落とした。
「た、たぶん……。ほんのちょっとだけど、見えた気がした……」
「ほんとに、人間だったの? 何か、べつのモノを見間違えたんじゃなくて?」
「そ、そういわれると……。見間違いだったの、かも……」
アキは自分の記憶に自信がないようで、俯いたまま視線を泳がせた。
「でも、この家の住人の行方がわからないのは、間違いないんだ」
レンは、周囲を警戒しながら、低い声で言った。
キョウコはため息をつき、炎に包まれた家を深刻な表情で見上げる。
「でも……万が一、本当に中に人がいたのだとしても、もうどうすることもできないわ……」
「……」
レンは、拳をきつく握って、周囲に佇む笑顔の島民たちを睨みつけた。
(コイツらが、殺したのか……?)
(自分たちの「仲間」ならない島民を……)
もし、この火事が殺人を目的とした放火であったのならば、後日警察がしっかり調べれば証拠が出るはずだ。
だが……、この島の駐在を含めて、島民のほとんどがグルで、本土から鑑識が来る前に証拠をすべて隠滅してしまえるとしたら……?
その時、レンは恐ろしい考えに思い至って、小刻みに震えだした。
(そうだ……コイツらがその気になれば、オレたちを殺すことだって……)
ごくり、と生唾を呑んだレンは、ふいに耳の後ろあたりに視線を感じ、振り返ると、ユイが柔らかな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
レンは、女の黒い瞳に宿った冷たい狂気に気づかぬふりをして、スーパーの駐車場へと向かって歩き出した。
ちょうどその時、まるでそんな彼を嘲笑うかのように、島のどこかでようやく火事の発生を知らせるサイレンが鳴り始めた。
レンが慌てて訊くと、アキは二階の端の窓のあたりを指差して、かすれた声で呟いた。
「てっ……てっ……」
「て?」
「て……いま、人の手がっ、見えたっ……」
「っ!」
ありきたりのアルミサッシの窓は、その四分の三以上が幅の広い板で覆われているが、たしかに、残ったわずかな隙間から暗い室内を覗くことができる。
レンが食い入るようにその隙間を見つめていると、ほんの一瞬、痩せ細った白い手のようなモノがガラスにびたと張りつき、そのままずるずると下がって、すぐに見えなくなった。
(あれは――っ!)
「人が、家の中にまだ人がいますっ!」
レンが叫ぶと、周囲にいた住民全員が彼の方を振り返り、無言のまま微笑んだ。
「っ!? 人がいるんです! まだ家の中にっ!」
まもなく、住民たちは互いに顔を見合わせ、苦笑した。
「人がいるんだって。お前、見たか?」
「いいや。お前は?」
「いいや」
「わたしも、見えなかったねえ」
「わたしも」
「たぶん、見間違いだね」
「そうだね」
住民たちのリアクションはそれだけで、誰ひとりその場から動くこともなく、またのんびり燃える家を見物しはじめる。
「あの中に人がいるって、本当なの?」
キョウコが半信半疑の顔で訊くと、レンはうなずいた。
「あれは、たしかに、人の手だった……」
「アキも、見たの?」
問われて、アキは視線を落とした。
「た、たぶん……。ほんのちょっとだけど、見えた気がした……」
「ほんとに、人間だったの? 何か、べつのモノを見間違えたんじゃなくて?」
「そ、そういわれると……。見間違いだったの、かも……」
アキは自分の記憶に自信がないようで、俯いたまま視線を泳がせた。
「でも、この家の住人の行方がわからないのは、間違いないんだ」
レンは、周囲を警戒しながら、低い声で言った。
キョウコはため息をつき、炎に包まれた家を深刻な表情で見上げる。
「でも……万が一、本当に中に人がいたのだとしても、もうどうすることもできないわ……」
「……」
レンは、拳をきつく握って、周囲に佇む笑顔の島民たちを睨みつけた。
(コイツらが、殺したのか……?)
(自分たちの「仲間」ならない島民を……)
もし、この火事が殺人を目的とした放火であったのならば、後日警察がしっかり調べれば証拠が出るはずだ。
だが……、この島の駐在を含めて、島民のほとんどがグルで、本土から鑑識が来る前に証拠をすべて隠滅してしまえるとしたら……?
その時、レンは恐ろしい考えに思い至って、小刻みに震えだした。
(そうだ……コイツらがその気になれば、オレたちを殺すことだって……)
ごくり、と生唾を呑んだレンは、ふいに耳の後ろあたりに視線を感じ、振り返ると、ユイが柔らかな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
レンは、女の黒い瞳に宿った冷たい狂気に気づかぬふりをして、スーパーの駐車場へと向かって歩き出した。
ちょうどその時、まるでそんな彼を嘲笑うかのように、島のどこかでようやく火事の発生を知らせるサイレンが鳴り始めた。
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